第28話

「レイ、今日から配属先が変わる」


 朝食を食堂で撮っている時、ドカッと目の前に座ったミラアリスが開口一番にそう言った。


「ようやく」


 期間にして言えば二週間。レイとしては大した仕事もせずに訓練などに打ち込めたので悪くは無かったが、楽な状況は長く続かないもので。


「色々と揉めててな。元々どこかの馬鹿が無理矢理捩じ込んできたのがレイで、実力だけはあった。だから扱いに困ってたしどこの隊もあまり面倒を引き受けたがらない」


 困ったもんだ、そう笑いながらミラアリスが言った。


「逆に、何個か熱心に欲しがってる隊もあってな。無駄な事を喚く奴等を抑え込むのと、欲しがる隊同士での争いで時間がかかったという訳だ」


「で、どこに?」


「第二部隊……規模だけで言えば第三の次に大きな部隊だな」


 騎士団の分けられた部隊には、それぞれ運用目的が存在する。例えばレイが所属していた第六ならば魔物討伐部隊であり、第三も同じく魔物討伐部隊。第三はあくまで通常の魔物を相手にする部隊で人数も百を超える規模だが、第六は対強敵に特化している。魔法師団も合わせて二十名しかいないその部隊は、所属するだけで憧れの視線を向けられてもおかしくない部隊だ。


 第一は親衛隊、つまるところお偉いさんの護衛等を行う部隊であり、昇進を目指す者達の憧れとも言えるだろう。


「対人専門部隊」


「ああ、そうだ」


 第二部隊は対人専門で、前世で言う所の警察に近いだろうか。犯罪者の捕縛に盗賊の処理、他国のスパイやテロ組織などの相手も行う。原作レイが所属していた部隊であり、恐らくはラウガウスが入れたかった部隊でもあるだろう。


「忙しさだけで言えば第三に勝るとも劣らず、だな」


「その分人数もいるから、休暇は安定してる」


 前世の経験からか、職場の人数が多いのは安心出来るのだ。代わりの人材がいくらでもいると言うのは、つまるところ休み放題でもある訳で。体調不良の時に休みを貰えるか貰えないかは精神衛生に関わってくるし、ブラックな職場は断固拒否だ。


 第四第五に配属されなくて、本当に良かった。


「だが相手は人だ。一番異動願いを出される部隊でもあるぞ」


「問題ない」


「ああ……そうか」


 何かを察したようにミラアリスは口を噤んだ。


「これから行けばいい?」


「そうしてくれ。本日付けで配属という形になっているからな……ああ、それと―――」




 レイがやって来たのは、第二部隊の執務室。三回ノックをして名前を名乗り、入室の許可を得てから扉を開く。


「話は聞いている、良く来てくれた」


 とても真面目そうな印象の男だった。程よく引き締まった肉体に、知的に見えるメガネをかけており髪は黒い刈り上げ。彼が座るデスクには山のように書類が乗せられており、部屋のそこらかしこにも山のような紙束が積み上げられていた。


 一見すれば秘書のように、女性が彼の横で静かに立っている。


 一目で分かるブラックさ。管理職や上の立場にはなるものでは無いなと改めてレイは認識した。


「レイです」


「ああ知っている。私は第二部隊隊長のレンブラント・オルスキュラだ、好きに呼んでくれて構わない」


 手を差し出されたので取り敢えず握り返す。


「隊長という立場にはいるが、はっきり言って私には戦闘能力は殆ど無い。隊員の休日の管理に情報整理、書類仕事に報告など、主に裏方の仕事をメインでしている。当然君の仕事の日程の調整も私がする事になるから、もし希望の休日などがあった場合は私に伝わるようにしてくれ」


「分かりました」


 ああ、この人絶対禿げるな……そう思った瞬間だった。恐らく胃薬を常備しているだろう、間違いない。しかし、戦闘能力は無いにしても身体がしっかりとしているのは、騎士団の訓練も真面目にこなしているからだろうか。


「ではミリアーネ、後のことは君に任せた」


「了解っす」


 呼ばれた女性がレイへ近付き手を差し出す。


「今日あなたに色々教えるミリアーネ・ピリミスっす」


 ふわふわとした印象の、ブロンズの長髪の女性だった。魔法師団にいてもおかしくない、騎士には似つかわしくないような、そんな女性が軽く挨拶をする。


「ピリミスッスさん?」


「ピリミス、っす。んまぁミリアーネ……いやミリーでいいっすよ」


 差し出された手を取り敢えず握ると、そのまま捕まえるようにレイは抱きかかえられた。


「じゃー行くっすか!」


「え、あー……失礼しました」


 有無を言わせず連行されそうになったレイは、藻掻く事を諦めて軽く頭を下げて部屋を後にした。


 その後主な仕事内容などを説明されながら本部にいる同僚達へ挨拶周り等をして、その日の仕事は終わりとなった。


 そして夜、ミラアリスは帰ってこなかった。

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