第25話

「レイ、私の休暇に付き合ってもらおう」


 すっかり体調が良くなったお陰で快眠出来ていたレイは、まだ明け方の時間帯にミラアリスによって強制的に起こされる。


「おれは、別に休暇じゃないと思うけど」


「どうせまだ配属先は決まってない。宛てがわれる仕事なんて騎士団の雑用と訓練への参加だけだ。そんなもの今更お前がやる必要無いだろう」


「職権濫用じゃねぇか……」


 二度寝に入ろうと布団に潜ったレイだったが、圧倒的な腕力を持つミラアリスによって引きずり出され、引き摺ったまま食堂へと向かった。朝早くというのは中々子供に辛いもので、半分も覚醒してないような状態のレイは無理矢理捩じ込まれながら朝食を済ませる事になり、訓練場へと連れて行かれた辺りでようやく目が覚めた。


「休暇……?」


 ミラアリスという金髪の美女がどのような休暇を過ごすか分からなかったが、どうせ街にでも連れて行かれるのだろうと思っていたレイは面食らう。


 朝早くから訓練に励む騎士達が多くいる訓練場、その中をかき分けてミラアリスが端の方へと向かうので仕方無しに付いていく。


「遅いぞミラアリス」


 まだ若い子供の声だった。騎士団における統括団長のミラアリスを叱責するように、少年が言ったのだ。彼女程の人間を叱責出来るなど、余程の馬鹿か余程の立場にある人間かの二択でしかなく、声の主を見てレイは納得せざるを得なかった。


「連れが朝に弱くてな」


 はは、すまんすまんと笑いながら謝るミラアリスに、レイは思わず顔を顰めた。


「おれの貴重な朝の時間を奪っておいて何を……叩き起されて連れてこられただけで何も聞かされてないが」


 文句を言いながら、レイは少年を観察する。美しい銀の髪に赤い瞳を持つ、まだ成長期前くらいの身長の少年。恐らく訓練する為の装備なのだろうが、身に着けている衣服にしろ胸当てにしろ木剣にしろ、よくある雑多な物ではなく一つ一つが特注品と言った様子だった。


 ラインハルト・アウスヴィッヒ・フォン・デーヴァダイン。ヴァナルガルド帝国における第二皇子であり、主人公パーティーの一員だ。彼が担う主な役割は、一部においてのレイの代役。彼女が抜ける事になる二部にて、多少の差異はあれど似た様な性能を持つ彼が入る事になる。一部でなれたパーティーや戦闘スタイルを、レイが抜けても変わり無く扱える様に……と言った心遣いで作られたキャラだ。


 レイのような追撃は無いが、ヒット数の多い攻撃を扱うコンボヒッターであり、彼女と同様に剣と魔法どちらにも秀でたスペックを持つ。レイが手数全振りのキャラクターならば、彼は多少の手数を犠牲に攻撃力を持ったレイと言った評価になるだろうか。


「ふむ……そちらのお嬢さんは?」


「騎士団への最年少入団者だよ。まだ入って一月程度だが、既に素晴らしい実績を持っている」


「ただ任務を一つこなしただけ」


「アレを倒せる者はそうはいない、謙遜も過ぎれば傲慢だぞ?」


 返す言葉を失ったレイはそっぽを向いた。


「なるほど、実力者だと言うのは分かった。それで、ここへ連れてきた意味は?」


「私が殿下の相手をしたところで、実力差があり過ぎてあまり意義がありません」


「まぁ、事実ではあるな……」


 苦い顔をしながら言うラインハルトは、恐らく何度もボコボコにされて身の程を分からせられたのだろう。


「そこで、私には及びませんがレイもまた実力者で、しかも殿下と同じ年齢です。彼女との模擬戦闘の方が得られるものもあるだろう、という事で連れてきました。勿論私の訓練も別で受けてもらいますが」


 まぁそういう目的になるよな……と心の内では納得している。けれど同時に、何処かのタイミングで教えとけよともレイは思った。


「それで、こちらの方は?」


 いつまでも紹介が無く、レイとしては知らない事になる人物なのでミラアリスへ尋ねてみると、彼女は笑いながら「忘れてた」と言った。


「ラインハルト・アウスヴィッヒ・フォン・デーヴァダイン。我が国の第二皇子だ、よろしく頼む」


「……レイ、です」


 微笑みラインハルトが手を差し出したので、レイも名乗ってそれを握る。それなりの近さでラインハルトの顔を見る事になったレイは、その顔立ちをまじまじと見詰める。


 設定では何も無く、ただ何となく思っていただけなのだが、瞳の色以外はレイとラインハルトは似ているのだ。顔の造形も、髪の色も。身長やスタイルも似ている様な気がしてくる。


「なんだレイ、殿下に惚れたのか?」


「死にたいならそう言えミラアリス、お前から殺してやるぞ」


 握っていた手を放し、最近ほんの少しだけ動いてくれるようになった表情で睨み付ける。


「ははは、まだ私には勝てないだろう。大口を叩くものでは無いぞ」


「同室という利点、生かせばいくらでも手はある」


「やめろやめろ、周りが聞けば本気かと思われる。お前が本気で言っていたとしても聞かれていい台詞ではないだろう」


「……そうだな。ならせいぜい食事に下剤を仕込んで一日中トイレから出られなくしてやる」


「殺害予告より陰湿な予告をするのはやめろ、それは命を狙われるより堪えるぞ」

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