第20話
「魔石暴走?」
初めて聞いた単語に疑問符を付けるライルだったが、レイは返答をしない。代わりに返ってきたのは、彼女からの指示だった。
「倒れてる騎士連れて逃げて」
冷や汗を垂らしながら剣を抜く。レイとしても、勝てるかは分からない。けれど足でまといが居ては、勝てるものも勝てはしない。
実力が離れているから邪魔なのでは無い。本来強敵を相手にするのなら騎士が一人いてくれるだけでも大助かり、さらに魔法使いが二人もいるのだから取れる戦略が大きく変わる。けれど、この場限りにおいてはレイの戦闘の邪魔をする足でまといと成り果てる。
「勝てるのか?」
「勝てなくても足止め、逃げる事は出来る」
「分かった、俺達は急いで他の隊……特に隊長のいる一班に伝えてくる」
「ちょっと、ライル!?」
「一番実力のある奴が言ってる事に従うべきだ、俺達が邪魔して最悪の結果にするのだけはダメだ」
納得行かない顔をしているのはミツとカリナだけではなく、ライルもなのだ。それでも従ってくれる事に、レイはありがとうと呟いた。
「まずは引きつける」
レイの最も得意とする氷刃を展開し、一足でソレとの距離を詰める。その勢いを乗せて振るった刃だったが、ガキンと音を立てて身体を突き破っている結晶に阻まれた。ガガガガガと連続で氷の刃がぶつかるが、どれもが阻まれ傷一つとして付けられない。
それをもって完全にレイを敵と認識したのか、ソレは人間では不可能な程に身体を捻り、戻ろうとする力を乗せて腕を振るう。視えているレイには容易に避けられる攻撃だったが―――
「―――くっ」
魔力を練り上げ、身体能力を底上げしてその一撃を受け止める。遅れて暴風が叩き付けられ頬に切り傷が走る。
(ワンアクションに魔法乗せてくんのかよ)
あのまま避けていれば、レイの後方へと風の刃が飛んでいた。そうなれば、救助に当たっていた他の三人に被害が出る。本当にやりにくいと、心の中で唾を吐く。
「二重魔法・氷壊」
接近しているのをいい事に、ソレの体温を直接奪おうと試みる。人体の一部のみに絞って熱を奪い凍結させ、破壊する為の魔法。敵を殺す為の、レイの中の彼が作った殺意マシマシシリーズの一つ。
しかし、魔法の通りが悪い。熱を奪うのも、氷を作るのも、結局は魔力で物質や熱や水分に干渉するものだ。だから、魔力の通りが悪ければ魔法の通りも悪くなる。
まるで骨を失ったかのようにソレは後ろに大きく反り、勢いを付けたヘッドバットを繰り出してくる。喰らえば死ぬと判断しその場から回避すれば、レイが先程まで立っていた地面が大きな穴を開ける。
滅茶苦茶で、常識外れ。やる事為す事全てが想定外。瞬間瞬間で判断して戦わなければならず、またレイの極度集中状態は戦闘時強制発動。
(やばいな……)
極度集中、ゾーンとは情報処理能力の一時的な限界突破に近い。見て考えて判断する、普段常に行われているそれの速度を上昇させる行為であり、脳へ負荷がかかるものだ。任意発動が出来ないとなれば、常に情報処理系統への莫大な負荷がかかり続けるに等しく、そこからさらに思考と判断を迫られればかかる負荷が跳ね上がる。
現状での、レイの最も大きな弱点だった。
この身体に入れられてから早四年、殆ど毎日戦闘を行わされて来て、その都度この負荷とも付き合ってきた。昔よりも継続戦闘時間は増えているのは間違いない。だがそれでも、タイムリミットが無くなってはいないのだ。
ソレが腕を振る。乗せられた魔法によって被害が出るので受け止める。その体制からさらに回転して蹴りが飛んでくる。それも魔法で被害があるので受け止めて、急に飛び退いたと思えば咆哮を上げた。破壊力を持った風の大砲がレイを狙ってくるのですんでのところで回避する。
魔法を使う、足元を凍らせて機動力を奪おうにも避けられる。魔法を使う、氷の礫にホーミング能力を持たせるが腕を振るって落とされる。魔法を使う、氷の霧で肺を殺そうと狙うが届かない。
「退避完了だ、無理なら引いてくれ」
待ちに待ったライルの言葉がようやく届き、レイは安堵の息を吐いた。
「……これで、自由に戦える」
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