第19話

「レイ、自由に動いていい。俺が二人の護衛に回る、ミツとカリナはレイの援護だ」


「「了解」」


 ミツとカリナ、二人の魔法師団の女性に挟まれていたレイは、そこを抜け出してから抜剣。しかしその足取りはゆっくりと。


「何処からどれだけ来るか分かるか?」


「街道前方から六体」


 レイ達第六部隊が配置されたのは、平原を突っ切るような街道だった、見晴らしが良い立地だ。もし魔物がいたのなら、簡単に見付けられる様な場所だった。


 しかし、ここから先は話が変わってくる。かつてレイが訪れたタタリア森林、そこへ街道は続いている。森の中から来る敵までは流石に目視では確認出来ないから、ライル達は気付かなかった。


「二班と四班が森林内の街道警備に当たってた筈だが……」


「考えるのは後」


 森の中から、高速で飛んでくる鳥型の魔物が六体。本来森林で確認されないような、中型くらいのものだった。六体が、弾丸のような速度でこちらを目掛けて飛んできた。


「二重魔法・氷壁」


 次の瞬間レイ達の目の前に現れた氷の壁が、六体の魔物の突撃を受け止める。流石にグレイトボアの突進よりは威力が低かったらしく、壊れる事は無かった。


 作り出した氷の壁を即座に効力を失わせバラバラに粉砕し、レイの一振りで壁の向こうから顕になった二匹の鳥が両断され、ミツとカリナが放った炎の矢と風の刃が少し遅れて二匹に直撃する。脳震盪から立ち直った残る二匹が飛び上がるが―――


「一重魔法・氷牙」


 ―――レイが放った二つの氷柱が、立ち直っている途中の二匹を貫いた。


「殲滅力たけぇな……」


 後衛の壁となる為、ミツとカリナの近くで何もしていなかったライルが声を漏らした。時間にしてみれば十秒足らず。本来なら二人の騎士で突撃を受け止めて魔法の援護を貰いながら剣で戦って、と頭の中で想定してみるがどれだけ早くても二分はかかっていただろう。飛べる敵と言うのは、それだけで厄介なのだ。


 それがどうだ、とライルは苦笑する。レイは初手で敵六体を全て行動不能にして見せたのだ。魔法の技術、行使速度、そして何より敵が気付いても避けられないタイミング。それらを見切って魔法を発動したのだ。


 頼もしく、同時に自らを情けないとすら思えてしまう。


「街道から来たってことは」


 レイの呟きに、ライルは思考を切り替える。


「二班、四班が突破されたって事になるな。一応いないとこから漏れてきたって可能性もあるが……」


 どうするのかと、レイの光のない青い瞳がライルを見た。考えるのは一瞬、ライルはそのまま後ろの二人へ視線を向けた。


「援護に向かうべきだな」


「そーね」


「異議なーし」


 全員で持ち場を離れるのはどうなんだろうか、と思いはしたが黙ってレイも頷いた。




 タタリア森林へ入ると、大聖堂側から何匹か魔物が向かって来た。その度に先頭を走るレイが処理して進む。


「おかしいな、二班も四班も見当たらない」


 ライルの言う通り、森林に入ってから暫く走っているが出会うのは魔物のみだった。戦闘の痕跡すら見当たらず、出会す魔物は大聖堂側からやって来る。


「大聖堂、もしくはその近くで何かあった……だと思う」


 レイの呟きに、後ろを走る三人が同意する。あとは会話を交わす必要も無い、それぞれが目的を再確認して大聖堂まで速度を高めた。


 そこから半日かけて、問題の場所へ辿り着いた。


 既に日が暮れて、森の中は鬱蒼とした闇に包まれている。息を絶え絶えに、四人が辿り着いたのは激しい戦闘痕が残る開けた場所だった。


 辺りと変わらない森が広がっている筈だったこの場所は、地面が抉れ木々がなぎ倒され、何も無い巨大な空間と化していた。


 何体かの魔物の死体と、倒れている七人の人間。


「……逃げ、ろ」


 唯一立っていた残りの一人の騎士も、その言葉を捻り出すと同時に地に伏した。


「ガンダル!」


 叫び、近付こうとするライルをレイが止める。


「まだ、終わってない」


 レイの青い双眸が見詰める先には、人影のようなものが蠢いていた。それに気付いたのか、三人の間に緊張が走る。


(ああ、こんな場所あったな……)


 ゲームにおいて、タタリア森林の中で開けた場所が一箇所だけあった。そこだけ不自然に何も無く、セーブポイントと商人が用意されてる休憩マップ。暗い中で、レイはそんな懐かしさ感じていた。


「二重魔法・炎界」


 開けた空間の外周を極度に冷やし、その内側で倒れている多くの木に奪った熱を与える。やがて起きた発火現象によって、辺りが正しく認識出来るようになる。


 蠢いていた影の正体が、顕になる。


「……人!?」


 魔法師団に支給されるローブを身に付けた、男のようだった。


「行方不明になってる奴がいたけど、まさか……」


 しかし男は痩せこけ、普通の人間では有り得ないような姿勢をしていて、その紅い双眸はギョロリとこちらを睨み付けていた。


「魔石暴走……」


 男の至る所から、肉体を食い破って外へ生えていた結晶のようなものを視認して、レイがそう呟いた。

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