第18話
「今回の任務は街道警備だ」
騎士団と魔法師団、その両方の第六部隊が集められた作戦室において、騎士団側の部隊長であるマリオがそう言った。
第六部隊は魔物討伐のプロフェッショナルであり、任せられる任務の多くは出没した強い魔物の相手をする事だ。だからこそ、街道警備という任務に大多数の人間が顔を顰めた。
レイという新人が入り初めての任務という事を考えれば、妥当とも言えるかもしれない難易度ではあるのだが、彼等は全員彼女の実力を目撃している。むしろ普段より面倒な任務を任せられても不思議では無いとすら思っていた。
「色々思う事はあるだろうが、今回はそれだけ力を入れないといけない内容だ。順を追って説明する」
このゲーム世界における宗教は主に二つしかなく、殆ど世界中に知られているのが一神教だ。もう一つは神の存在を否定する無神教であり、崇拝するのは自分達の祖霊という仏教的な考えだ。
今回の依頼に置いて重要となるのが、主神オルフェンを崇め、その教えを伝聞するオルフェン教であり、帝都の近くにある大聖堂である。近頃その周辺に多数の魔物が観測されており、普段よりも実力の高い魔物が多くいるらしい。
それによって、帝国内の巡礼者達が安全に街道を通る事が不可能になっているらしい。つまるところ、今回の任務とは街道の安全を守りつつ出てくるその魔物達を倒せ、という事だった。
「とりわけ被害を受けているのが大聖堂近くにあるイーシャ村だ。魔物被害で畑が荒らされ、危険性があるから行商人が近寄らない。蓄えは多少あっても、この状態が長く続けば村人達が飢えるだろう」
イーシャ村から大聖堂へ、ゲーム本編が始まってから通る道である。しかし出てくる敵のレベルはかなり低く、そんな危険な魔物が出るとも、過去に出現したとも聞いた事が無い。
(まぁ、ゲームじゃなくて現実なんだから、想定外の事だって常に起こるか)
「今回の任務の都合上全員纏まっては行動出来ない。そこで最低でも四人一組、騎士団と魔法師団からそれぞれ二人ずつの部隊編成を行う。計五組、安全を考慮してこれで行こうと思う」
マリオとカーネル、二人の隊長によって組み分けされていく。レイのパーティーメンバーとなるのは騎士団からライル、魔法師団からミツとカリナとなった。ライルのみが男性となるハーレムで、周りから少し羨ましそうな目を向けられていた。
「基本的な戦闘はいつもと同じように、対処出来ない強敵が現れた場合は魔法で信号を。それとライル、部隊長となるのはお前だが、レイの実力は高いからそのフォローに回る形で当たれ」
「了解ッス」
「任務は翌日の早朝からだ。もし件の強敵を討伐出来れば数日様子見するだけで終われるぞ!」
翌日となり、第六部隊の面々はそれぞれの小隊に別れて街道の警備に当たった。一言に街道と行っても、帝都からイーシャ村までは馬車で二日かかり、問題となるイーシャ村近辺から大聖堂までは徒歩で二日かかる距離がある。
帝都からは馬車で移動し、それらをイーシャ村で維持管理してもらい、そこから小隊に別れて各々が担当する地区へと向かった。
イーシャ村での休息も含めれば三日かかった道中で、レイの小隊はそれなりに親睦を深める事が出来た。と言っても、主にレイが可愛がられる形だが。
「いやー、ほんとお人形さんみたーい」
わしゃわしゃと頭を撫で回しながら、抱き着いてくるミツ。二十代前半の女性に抱き着かれ女性特有の柔らかさを直で感じて、レイの中の彼は心を落ち着けるのに一苦労していた。
「やめて……」
捻り出した抗議の声だったが、ミツはただ恥ずかしがっているだけだと無視して撫で回し続ける。
「おいミツ、馬車とイーシャ村で散々構ってたろ……仕事中なんだから離してやれよ」
「そーだそーだ、そろそろ交代しなさいよ!」
ライルはレイの心情を組んで注意してくれたが、カリナが被せる様に言ったせいで、余計にミツがレイを抱きしめる。
騎士団には殆ど男性が所属していて、逆に魔法師団では女性の方が多い。けれど共通点があって、それは年齢が若くても十八を超えているという事だ。
勿論レイのように若き才能が入る、という事はたまに起こり得る。しかし魔物や人、敵と命のやり取りをする職業において身体の出来というのは大きな意味を持つ。訓練を重ね、栄養を摂って身体を作り、技術を磨く。そうして戦場に出せるのはやはり成長期を終えた年齢が一番だからだ。
この小隊に限っても、ライルは二十八、ミツは二十三、カリナは二十五。ミツですら若輩者と言われる。
そんな彼等からしてみれば、齢十二のレイなど近所の小さな女の子と変わりない。とにかく可愛がり、甘やかしてやりたい、そんな存在なのだろう。
分かっているからこそ、あと役得だったからレイは拒絶はしなかった。
が、それは平常時の話だ。
「隊長、来るよ」
レイの鍛え上げられた危機察知能力が、魔物の襲来を告げていた。
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