第14話
「やあ、君がレイちゃんだね?」
クロエ・アークライトとの出会いから二年経ち、十二歳となったレイは組織の大人に言われて帝都にある噴水広場へと来ていた。
用件がある人物がいるから、そこで待機しておけ。言われた事はそれだけで、相変わらずの命令の手抜きさに若干の苛立ちを覚えながらやってきた。
待つこと二十分、その場に現れたのはヴァナルガルド帝国騎士団統括団長であるミラアリス・ハイドリヒだった。
金髪碧眼の、スレンダーな女性だった。モデルのような華麗さを持ち、動き一つ一つに品がある。その右耳にはイヤリングが付けられていた。まるで装飾品のように吊るされている、黒い魔石。
「はい、そうです」
「ははは、君本当に十二歳か? 全く、ラウガウスは最低の毒親らしい」
ゲーム知識が無ければ、言っている内容が理解出来なかっただろう。ラウガウスは237、つまりはレイを騎士団にスパイとして送り込む。その際に、身元不明のレイに偽の戸籍を用意した。書類上、レイはラウガウスの娘となる。
一応血が繋がっているだけで母親とラウガウスは結婚しておらず、母親が一人で育てていた所をイカロスの翼幹部の男が面倒を見ていた。という設定だ。
「ここで待っていろと言われただけなので、どのようなご用件なのか分からないのですが」
「ふむ、そうだな。単刀直入に言えば君は騎士団に売り込まれた。力があるから見てくれ、使えるのなら入れてくれとな」
「はぁ」
ミラアリスの瞳がレイの左手首へと向けられる。
「魔法は使えるんだろう? 剣の方はどうなんだ?」
「そこそこです」
「なるほど、まぁ自己評価など聞いたところで大した価値は無いからな。早速で悪いが、これから入団試験を受けてもらおう」
「入団試験ですか、分かりました」
突然声をかけても、聞かされていないらしい用件を伝えても、自分がどれくらいやれるのかを聞いても無表情。十二歳と聞いていたミラアリスは、正直余程生意気か大人ぶっているガキなのだろうと思っていた。しかし目の前にいる銀髪の少女はまるで人形のようではないか。
元々売り込みをまともに受け取ってはいなかった。ただ上の連中のあれやそれで試験しなければいけなくなっただけで、実力があれば入団させ無いなら追い返すだけだと思っていた。
痛ましい。それがミラアリスの抱いた率直な感想だった。
愛情を少しも与えられなかったのだろう。言う事を聞くように余程躾られたのだろう。騎士団に売り込める程の実力があるのだとすれば、その鍛錬も到底子供にさせるようなものでは無かっただろう。自然とミラアリスは拳を強く握っていた。
「安心してくれ、もし入団出来たなら私が直々に面倒を見てやるから」
「なるほど……少し恥ずかしいですね」
ミラアリスに連れられてレイがやって来たのは帝国騎士団本部、城に隣接する敷地に立つそれは、有事の際にまず皇帝を守れるようにという意味がある。中身は一般的日本人であるレイは、見える本部と城のアホみたいなデカさに圧倒されていた。
その訓練場に、二人はやって来た。多くの騎士達が刃を潰した剣で打ち合い、本気の殺し合いに近いレベルで戦闘訓練を行っていた。
「諸君、注目!」
ミラアリスが声を上げれば、一斉に動きを止めて傾聴の体勢へと移行した。動き一つ一つに、どれだけ訓練されているのかが如実に現れる。
「予告していた通り、本日入団試験を行う。第六部隊前へ!」
甲冑に身を包んだ、これぞ騎士と言った者達が十名前へ出る。纏った雰囲気は、十名全員が強者のそれ。
「入団候補者レイ、これより第六部隊十名との戦闘を行ってもらう。天才剣士の力、この場にいる全員の前で見せてもらおう」
言われてレイも前へ出る。話を聞く限り、どうやら十名全員を相手にしなければいけないらしい。
第六部隊の中から一人、前へと歩み出る。兜を脱いで、金髪の爽やかイケメンが挨拶をする。
「帝国騎士団第六部隊隊長マリオ・レイツェルだ」
「入団希望者レイ、です」
「統括団長、彼女はその格好で構わないんですか? 刃を潰してあるとは言っても、叩けば死にますよ」
「無論、分かっている。レイ、一応聞くがその格好で構わないのか?」
「問題ありません」
ふふ、と爽やかに笑ってマリオは兜を被る。
「諸君、どうやら我々は嘗められているらしい。帝国を守る要の力、街の人間を守っている我々の威容を、とくと思い知らせよう」
騎士団の全てに囲まれ逃げ道は奪われ、敵となる第六部隊もすぐさまレイを囲む様に展開する。凡人ならば、その時点で萎縮した事だろう。
しかし、レイはいつもの様にゆっくりと背負っていた剣を抜いた。
「何処からでもどうぞ」
その煽り文句が、開戦の合図となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます