第11話
クロエ・アークライト。
このゲームに出てくる主人公パーティーの一人で、現代における最強の魔法使い。魔法における唯一つの例外である彼女は、複数属性をただの個人で扱う事が出来る。
紙耐久高火力、鈍足で貧弱。魔法による火力のみに特化したキャラで、彼女は固定砲台のような役割を担う。
千年前の大天才がシャルロット・コールヴェインであり、その大天才に比肩する天才がクロエ・アークライトという少女だった。
扱える魔法は自然。自然現象として観測、原理を理解しているもの全てを魔法として扱えるという。破格としか言いようが無い存在で、そのような属性を持つ物は歴史上彼女一人という特別ぶりだ。
そして、魔剣所有者でもある。
基本的に形や用途に違いはあれど、魔剣は剣として作られる。千年前の戦士達に剣使いが多かったのが理由なのか、シャルロットの好みだったのかは明かされていないが、作られた時の形は剣だった。
しかし、クロエ・アークライトがシャルロット・コールヴェインに比肩すると言われる理由がここにあった。なんと彼女は、見付けて手に入れた魔剣を改造してしまったのだ。
元々は二対の双子剣だった魔剣「レイナルド」が、彼女の手にかかり二丁拳銃と化した。
ゲームに出てきて魔剣を手にしたクロエ・アークライトは、自らの持つ破格の属性自然に加え、魔剣「レイナルド」の持つ空と宙によって三つの属性を手に入れる事になる。
彼女自身の性格は明るく思慮深い。主人公と一緒で奔放なヒロインを窘めつつ、パーティーの頭脳として冷静な判断を下す役割だ。人気投票ではレイと一位争いをするくらいにはファンの多いキャラでもある。
「まじかよ……」
大量のグレイトボアを引き連れて、こちらへと向かってきているのは一人の少女だった。
空色の髪をツインテールにし、紺色の瞳は涙で滲んでいた。そんな少女が、びえええんと大泣きしながら全速力で走っているのだ。
「なんでクロエが……てかどんな状況だよ」
頭の中が混乱しそうになるレイだったが、身体に引っ張られて強制的に冷静さを保たれる。そしてそのまま考えたのは、彼女を助けなければ不味いという直感だった。
もし怪我でもすればシナリオに影響しかねず、何より彼はクロエのファンでもあった。
(いけるか……?)
想像よりも疲労困憊だったと言うだけで、グレイトボア一匹を討伐する事は可能だった。とは言え目測で二十以上を相手に、何処まで―――
「―――考える時間が惜しい!」
レイは前方へ駆け出した。クロエとグレイトボアの大群へ正面から向かって行き、クロエとすれ違う瞬間に彼女を自らへ引き寄せ、前方へ全力で魔法を放つ。
「二重魔法・氷壁!」
巨大な氷の壁を作り出し、グレイトボアの勢いを止めようとしたが―――
「まじかよ」
数秒と経たずに壁が破壊し尽くされた。クロエを抱え、レイはその場を離れる。
「あ、ありがとう見知らぬ人!」
「話すのは倒した後」
距離を稼いでからクロエを下ろす。同時にグレイトボア達は自分達を邪魔した敵を見付け、ぶるると荒い息を吐く。
「二重魔法・熱却」
グレイトボアが動き出す前、レイは瞬時に魔法を発動した。
それは、レイの中の彼が思い付き生み出した魔法。氷魔法とは氷を作る魔法であるが、現代科学知識を持つ彼からすれば、凍結とは熱を奪われて起こる反応だった。そこから考えた、氷魔法の原理。魔力によって熱を操作する事が可能なのだという解釈。
群として迫っていた為、一定範囲内に収まっていたグレイトボアの群れ。その全てを範囲内とし、急速に熱が奪われる。空気が冷えて、地面が凍り、グレイトボア達の体温が急激に冷えていく。魔物と言えど、肉を持ち血が流れる事に変わりはない。故に体内水分が凍り付く。
「ぐおおおおおおおおお!!!」
雄叫びを上げて、動ける数匹のグレイトボアがレイへ向けて突進を開始した。体内が冷やされて、運動能力が激しく低下して尚恐ろしい威力の突進。けれど、待ち構えるレイは余裕を持っていた。
「焼けて死ね」
凄まじい動体視力を持つ彼女にとって、ある程度の速さで直線的に向かってくるイノシシ等敵では無かった。超高温の空気を纏った片刃の剣は、凍結の難を逃れた数匹のグレイトボア全ての命を同時に薙ぎ払った。
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ルビの振り方とかを知らないので補足説明。
通常の魔法が一重魔法で、読み方がシングルマジックとなります。
今回レイが使った二重魔法が、デュアルマジック。三重になればトリプルマジック、四重でクアトロになります。
魔法を扱うのに魔石内部で魔法陣が形成されるのですが、二重になると純粋に二つの魔法陣を使う事になります。後々本編でも解説入ります。
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