第7話

「237、長期の大仕事だ」


 魔剣「シャルロット」をレイが手に入れてから二年が経過した。相変わらず独房のような部屋の中で鍛錬をしていたレイは、珍しく顔を見せたラウガウスに内心では驚きつつも、その死んでいる表情が顔に出す事は無かった。


「貴様ら少年部隊を隣の大陸のパラメリア商業連合に送り込む。目的地はラーザリア港街、そこに奴隷として送り込み、貴様らは奴隷商人共を皆殺しにして奴隷を解放しろ」


 今回の仕事は、まるで良い事をしようとしているようにも聞こえた。世界各地で密かに行われている奴隷の取引は、表向きでは各国で禁止されている。つまりは裏取り引きでやり取りされていて、大方帝国の中でも売り買いに輸送がなされているのだろう。


 表向き、帝国の立て直しを掲げているイカロスの翼だから、そう言った仕事も受けなければならないのだろう。


「貴様ら餓鬼共と違って、有能な大人達は取引相手、関わっている企業、そう言った物の洗い出しをして潰して回らなければならない。それと比べれば些細で楽な仕事だろう?」


 しかし、その話を受けているのがイカロスの翼首領であるラウガウスであるならば話は変わってくる。恐らくはその任務を隠れ蓑にして、何らかの計画を進める為の一手を打つのだろう。


 残念な事に、その内容に見当が付かず、阻止出来るような目論見も無いレイにはどうする事も出来ないが。


「分かりました」


「237、貴様は部隊長だ。貴様がしくれば全員処理する、せいぜい完璧に遂行しろ。翌日の早朝から馬車で港町まで行き、そこから船で目的地まで向かう。それまでに準備しておけ」


 それだけを告げて、ラウガウスは地下を去っていった。


「ちっ、面倒だな……」


『他のメンバーと一緒に行動するのなんて、何気に初めてなんじゃない?』


「そう言えばそうか。でも、期待しない方がいい。まだおれが生まれる前にこの子が何度か会ってるが、どいつもこいつもこの子以上に死んでやがる。感情も死んでて、思考も放棄だ」


『へぇ、生まれる前の記憶が読み取れるの?』


 食いつくのはそっちか、そう思いつつレイは程よく落とした声量で答える。


「一応、レイ自身の抜け落ちてない記憶は読み取れる。余程ショックな事があったのか、ある時より前の記憶は抜け落ちてるけどな」


『つまり、あんたがもし他の人の身体に入れたら、その瞬間に他人の人生経験を全て得られる訳ね』


「乗り換え出来たら、可能かもな。でもおれが辿る道は二つに一つだぞ」


『死ぬか消えるか?』


「もしくは統合されるかだから、三つだったか」


 もしかしたら、四つ目の道もあるかもしれない。あくまで可能性だが、思い付きはした。とは言え全ては推測でしかなく、今ここで考えても仕方の無い内容である事だけは違いない。


「ま、取り敢えずおれから呼びかけても反応無いだろうから、適当な大人から通達させとくか」




 パラメリア商業連合。ヴァナルガルド帝国のある大陸から見て西にある大陸の、全ての街と国を統合して生まれた超巨大な国家だ。


 大陸の全てを支配下に置いている連合は、世界流通の要とも言われており、新しい物はここから生まれるとも言われるほど発明にも力が注がれている。


 ゲームにおいて、その地特有の空気感などを感じる事は特に無く、世界各地を回る中で通ったな……くらいしか思い入れのない大陸でもある。


 続編においてはそれなりに面倒をさせられたのだが……今回の仕事では、その地に近付く事も無いだろう。


 馬車に揺られて二週間、帝国のある大陸の港町に着き、そこから船に揺られて更に二週間。レイの中に宿る彼からすれば、一ヶ月弱もかかる長旅だった。それが片道なのだから、帰りたいと憂鬱になってしまうだろう。もしマトモな家に住んでいたとしたら、と言う但し書きが付くが。


 奴隷として船の積荷と一緒にコンテナにぶち込まれた、レイを含めて六人の子供達。少年四人と少女二人、全員が死んだ目をしていた。


 飯を食えと言われなければ食事を取らず、眠れと言われなければ眠らない。唯一トイレだけは勝手に行ってくれるが、こんな壊れた連中の中にいたのなら、レイにばかり仕事が押し付けられていたとしても不思議では無い。もっとも、仕事を割り振られた数など知らないが。


 人目があるかもしれないからシャルロットと会話出来ず、自分の意思を徹底的に殺された子供達はうんともすんとも言わない。馬車の間は本当に地獄だったが、船の中では子供しかいないので鍛錬をする事で退屈を誤魔化せた。


 そんな地獄を経て、ついに一行はラーザリア港街へと到着したのだった。

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