第6話
「これ、昔の研究者の発明品。一番凄そうなのを持ってきた」
レイはイカロスの翼の施設に帰ってきて、そこにいた構成員の男に戦利品を渡す。
「これは?」
「侵入者を驚かせるびっくり箱……?」
シャルロット・コールヴェインの研究室に残っていたのは、設計図と試作品の数々だ。しかしそのどちらもが、正直に言えばゴミみたいな代物でしかなく、価値があるものと言えば魔剣「シャルロット」のみしかなかった。
そんな中で、その本人が提案した素晴らしい発明品とは「侵入者撃退用超絶音撃爆裂砲」と名付けられた、現代日本で言うところの痴漢撃退グッズ……にしては殺意が高いものだった。
彼女の研究室によく同僚達が入ってきて、その度に研究を邪魔されてキレたシャルロットは、仕掛けに反応した際予め定められている方向に、超爆音を指向性を以て放射するという物を作り出した。その方向にいる人物以外には一切音が聞こえない作りの為、それを仕掛けた後でシャルロットは三日三晩徹夜をし、食事をしに外へ出かけた後自らの研究室に戻れなくなったという逸話を語ってくれた。
戦績は、三人の同僚を医務室に送り、大きな音を聞く度に失神すると言うトラウマだ。
間違いなく酷い使い方は出来るが、だからと言って素晴らしい発明とは言えない絶妙なライン。と言うよりも、あの研究室に仕掛けられていたそれ以外は何の機能も無いようなゴミしか無かったらしい。
念の為、シャルロットの指示に従って音量を被害が出ない程度にまで下げてはおいたが。
「後は部品と読めないような殴り書きしか無かった」
「分かった。後で別に調べてもらうとしよう」
呆気なく報告は終わり、レイはシャワーを浴びてから部屋に戻った。
『ムカつく態度の奴ね!』
部屋に戻ってから、あくまでレイにのみ聞こえる声量でシャルロットが叫ぶ。
「あれはマシ」
『本当に? ていうかこの部屋、独房じゃない!』
「布団があるからマシ」
『もうその子の境遇聞きたくなくなって来たんだけど……』
「もう使われてるだけだから、多分酷い境遇は見なくて済むと思うけどね」
『どういう事かしら?』
「この子だけじゃないけど、拾ったり攫われたりした多くの子供が激しいしごきを受けて、その子供達同士で殺し合いとかさせられてたんだよ」
『何それ。千年前よりやってる事酷いじゃない』
それをやらせたのが千年前の奴なんだけどな、と思いはすれど口には出さなかった。
「だから、助けてあげたいんだ」
しみじみと頷いたように、シャルロットはなるほどねと呟いた。
『じゃあ、この間みたいに外にいる時に逃げ出せばいいんじゃない?』
「逃げ出す、か」
そこでレイは考え込む。このゲームを、そして続編をプレイしたレイは、言わば限定的な未来予知を可能としている訳だ。そして、なるべく知っているシナリオ通りに事を進めつつレイが死ぬ未来を回避しようと考えていた。
逃げ出したら、果たしてどうなるのか。
シナリオに、レイという味方も敵も出てこなかったらどうなるのか。
「いや、そもそも論だな。言う事を聞くように調教されてて、おれ達はみんな命令を聞くだけの人形みたいなもんだけど……それでも、逃げ出したりされる可能性を、みすみす見逃すか?」
『見張り……いや、そんな事をするような組織なのだから、位置を知らせるような魔道具とかが仕込まれててもおかしくないわね』
「だよな。服とか道具に付けられてるならどうにでもなるけど、身体に埋め込まれていたりする場合はどうにもならない」
レイの記憶を漁って可能な限り思い返してみるが、彼女が起きている最中に何かをされた覚えは無い。けれど、例えば食事に仕込まれていたり睡眠時に何かされていたのなら、それは知り得ない事である。
「危険だな。少なくともその可能性を潰せるか、もう逃げても問題ない状況になるまでは迂闊に行動出来ない」
やはり、あまりシナリオを逸脱した行動を取るべきでは無いだろう。最悪レイがいなくても前半ボスを倒す事は出来るかもしれないが、いないせいで主人公パーティーが負ける、ないしは大怪我を負って戦えなくなっては困るのだ。
レイが死ぬ未来は回避出来ましたが、ラスボスの計画が成就したので選ばれた人間以外は死にましたではダメなのだ。レイも間違いなく選ばれない側なのだから。
「まぁ、少なくともこの別の役割が与えられる時までは、ここで少しずつ力を蓄えていくしかない」
『何から始めるのかしら?』
「魔力操作」
そう告げたレイは座禅を組んで、自らに流れる魔力をいつも通り操作し始めた。
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