16 酒造りをしよう!

「……結局別方向からの攻略を設計しないとなあ」


 随分と広くなってしまった談話室でぽつりと言葉を漏らすと、やや間を置いてメリイさんが口を開いた。


「いえ、フェンリルの警戒心はだだ甘です。まるっきり同じ手でさえやや効果が減じるくらいでしょう」

「それはさすがに……」


 生物として心配になるレベルのちょろさではないだろうか?

 だがメリイさんの考えは俺のそれとは違うようだ。


 メリイさんはこちらを見てわずかに深呼吸をし……言葉を続ける。


「それだけ強さに自信があるんですよ。S級の探索者がだまし討ちをしても悠々といなせるのがその根拠」

「その確信はどこから来てるんです?」


 そりゃ聞きますよね、とメリイさんは自分に言い聞かせるように呟く。すると、彼女の口から思ってもみなかった事実が放たれる。


「冥境の第二層はあと少しで踏破できるところまで行ったんですよ。……まあ、駄目だったんですけど」


 もしかするとメリイさんが探索者を辞めてギルドに就職したのは……。

 その辺りを勘ぐっても意味はない。だが強敵の情報なら頭に入れておきたい。


 メリイさんの表情はどこかこわばっていて、彼女はまだ癒えていない傷をこちらに見せているようで。

 無理矢理に笑顔を作ったままメリイさんは話を続ける。


「フェンリルが学ばない理由はもうひとつあります。それは――この第二階層が滅びと再生を繰り返していることに由来します」


「……なんらかの要因でフェンリルどころか第二階層が滅び、再び生まれるから?」


 メリイさんは首肯する。


「この世界は太陽が凍りつくか大地が焼き尽くされるか、そのどちらかで滅びます。わたしが見た滅びは焼却によるもので、世界が焼き尽くされ、その灰から新たな世界樹と大地が生まれるというもので……」


 は! となにかに気付いたメリイさんは頬を赤らめ小さく咳払いをする。


「……要点は死と再生に過程においてフェンリルの記憶や経験は引き継がれないということです。というのもごちそうに引っかかるのは初めてではないんですね」


『なるほどなー』

『これって喋って良い話なの?』


「ギルドホームページに当時の映像が残っているはずですよ」


『ギルドのアーカイブって膨大だし検索性最悪なんだよな……』

『検証班、走って!』


「じゃあ別のごちそうを作れば引っかかる可能性は高いってことか」

「間違いなく食いつくでしょう。フェンリルは慢心が過ぎるので」


 だとすると、俺に出来ることはまだ残っている。

 これまで俺は〈ストレージ〉によってチーズの発酵を行ってきた。


 パン、と手を合わせてメリイさんを見る。


「メリイさん、次はお酒を造ろう。フェンリルも酔っ払ってしまうほどのやつを!」

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TSエルフのやりすぎ物作りダンジョン配信~家と動物とご飯と時々拠点に襲撃~ 芦屋 @saysyonen

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