15 炎の巨人、氷の巨人
「シロガネ、お前はメリイさんに被害が及ばないように動き続けろ! メリイさんは……!」
「皆さんに防護魔法をかけておきました。五十鈴さんたちの死体を避難させてから戦闘に参加します!」
「お願いします!」
「ご主人さま、あたしは」
「ラエティはこっち、俺のポケットに隠れて!」
「バウ!」
来るぞ! とシロガネが吼える。
メリイさんは探索隊の死体を見つけたのか、ひとりずつ蘇生させようとしている。当然ながら蘇生に必要な魔力の量は非常に多い。探索隊の人数分だけ魔力を使ってしまえば、どれだけ強大な神官でもリソースは底をつく。
なので、この戦いにおいてはメリイさんの戦力をあまり宛てにすることはできない。
すると――ラエティはこちらに行かずに、なぜかメリイさんの元へと駆けていく。意図は分からないがこれ以上は二人に構える時間もない。
〈ストレージ〉からワイバーンの小剣を抜き、巨人の元へと駆けていく。
炎を身に纏った巨人と青白い肌の巨人は互いに取っ組み合いをやめ、こちらに向かってなにかを投げつけてくる。
吹雪によって判然としなかったそれらは、こちらに近づくにつれてその風体を明らかにする。
『うお……デッカ……』
『当たったら即死だわ』
風を切る音とともに飛来してくるのは巨大な溶岩の塊、そして氷の塊だ。巨人はそれらを生み出してはこちらに投げつけてきているのだった。
氷塊、溶岩塊は直径が俺三人分は下らない。デカすぎるだろ。
魔力を圧縮し斬撃として放つ技、
巨人もこちらも四人ずつだってのに向こうの手数が多すぎて味方に被害がいかないように立ち回るくらいしかできていない。
しかし、撃ち落とした氷塊やらを見るとメリイさんの周りだけ綺麗に避けられている。
こちらが疑問に思っていると、宙に浮いているスマホからメリイさんの声が聞こえてきた。
「まひろさん、ラエティちゃんには強力な矢避けの魔術があるみたい。だからこっちは気にせず巨人をお願いします!」
「矢避け!? そんなもの持ってたのか!」
「本当はそういうのですらないみたいですけれど……とりあえず片付けてから話します!」
メリイさんの言葉と同時に、彼女からかけられていた防護魔法がさらに強まっていく。
これなら〈エンハンス〉もいらないくらいである。
……ならこちらも出力を上げられるな。
身体能力を強化し、たん、と地上を跳ぶ。
息を切らさずに、石切りで水面を跳ねるように――跳ねる。
『雪の上に足跡がついてないんだが』
『カメラが追えてないんだけどォ!?』
この状態にまで上げられればおおよそ三キロメートルは十秒未満で到達できる。
たん、たん、と跳ねるように走る。あと一足で巨人を捉えられるところで跳躍の高度を上げ――巨人の首をすれ違いざまに切り落とす。
後ろを一瞥すれば、シロガネが巨人の足をまず仕留めに距離を詰めていた。あいつなら問題はないし、時間がかかったとしてもメリイさんがカバーしてくれる。そう判断し、炎の巨人のほうへと意識を向ける。
走る。
変幻自在に、縦横無尽に。
まだ熱を持つ溶岩塊をこちらに投げられようとも懐に潜り込む。
足でこちらを潰そうともすり抜けて足の腱を切る。
腱を切られた炎の巨人がもう片方によりかかろうとするが、もう一方の足の腱も切ったので頭をぶつけ合って共倒れになってくれた。
仕留めにかかろうとした時……魔力量が心許なくなってきたので〈エンハンス〉を解除。
しっかりと憂いを断ったあとにシロガネたちを見れば、とっくに三人で力を合わせて氷の巨人を倒していたようである。
◆
「……いやあ悪いね、まひろちゃん」
「俺を出汁に使ったことなら別に気にしてないです。蘇生のお礼ならメリイさんに」
俺はとくに気にしていませんよ、と言うが……。
コトを終え、復活した探索隊のみんながばつが悪そうにこちらに頭を下げている。
こういう稼業だ、抜け駆けなんてよくあることだ。
俺はあまり気にしていないがメリイさんは結構怒っているようにも見えた。
蘇生の恩人から怒られたままだと据わりも悪いのだろう。五十鈴さんたちはこちらが申し訳ないと思うほどに謝り倒していた。
「ところで俺らって全員部位欠損しいたはずなんだけれど……」
五十鈴さんが不思議そうにこちらに「どうやって蘇生させたの?」と訊ねてくる。
基本的に蘇生というだけで最上位の奇跡だ。部位欠損した死体からは欠損したまま蘇生させることしかできないし、頭部が欠損していた場合は蘇生はできないというのが常識だ。
五十鈴さんたちは綺麗に頭部だけを食べられたはず……と主張しているのだ。
だとするとメリイさんはとんでもない離れ業をしていたことになるのだが……。
メリイさんは事もなげに、しかし当たりの強い言葉で告げる。
「ええ、綺麗に頭だけを食べられていました。まひろさんが作ったメープルシロップなどでフェンリルを釣っておいて……」
どうやら俺たちがフェンリルに使うはずだった食べ物や手法を使っておいて負けたことに腹を立てているらしい。
まあ二度目は効かないから困ったけどさ……。
「そういえば、フェンリルへの懐柔の結果は?」
俺が五十鈴さんに訊ねると、彼は苦々しく言葉を紡いでいく。
「いやあ、これ以上ないくらいに効いたよ。その上でコテンパンにやられちゃったけどさ……」
どうやらメープルシロップに恍惚としていた間、かなり攻撃を加えていたらしいがそれでも倒しきれなかったようだ。
あはは……と苦笑いをしながら頭を掻く五十鈴さん。
「まあ、俺たちじゃ無理だったってことだな。迷惑をかけっぱなしで悪いけれど、俺たちはリタイヤするよ。……君たちは勝ってくれよ――ぬわぁ!?」
ズン、ズン……と身が震えるような地響き。探索隊の誰かが「向こうだ!」と指さし、そちらを見れば――
平原一帯に広がる炎の巨人。それらがバラバラに地面を踏みしめる音が探索隊の人たちを青ざめさせていく。
「五十鈴さん、転移結晶を使って逃げてください」
「……君たちは?」
恐る恐るこちらに訊いてくる五十鈴さん。それに対して、俺ははっきりと告げる。
「ここで退いたら大事なものが取り返せなくなるんで」
「……そうか」
俺の顔を見て、五十鈴さんは納得した顔で地上に帰るための帰還アイテムを使い、仲間達と帰っていく。
メリイさんはラエティをコートの中に入れたまま、こちらに近づいてくる。
「でもこの数はさすがに厳しくないですか?」
「世界樹のほうから氷の巨人がやってきているし――」
「あ、ホントだ」
メリイさんの視線の方角には炎の巨人と同じくらいの数の氷の巨人たちが映っているだろう。
でもこれだけだと俺たちを狙ってくるのだが、そこも大丈夫だ。
「――そろそろ頑固親父が家に入れてくれるはず」
巨大な塊が空を飛び、風を切りながらあちこちに落下していく音が聞こえる。二種類の巨人の間で戦いが始まったらしい。
その中で、こちらの周囲がぼやけ……次の瞬間には血塗られた広間に空間が切り替わっていた。
世界樹の中。王たるフェンリルがこちらをじっと見つめてつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「フン、人間にしてはなかなかにやる。次は粗相をしてはならんぞ」
「……どうも。寒かったので俺らは一旦、上がりますね」
「外は危険だと知ったはずだ。これからはここでゆっくりしていくといい」
では、下がってよいぞ。
そうフェンリルは告げて、興味を俺たちから外すのであった。
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