33 エルフ、作戦について話す

「ハローグシオン、ダンジョンクラフト部のまひろです」


『そういえばチャンネル名そんな名前だったわ』

『ソーラー発電やら魔力やらで配信繋ぎっぱなしだから普段チャンネル名を言わないもんね』


「う、悪かったよう。生活風景を配信しているだけだとどうしてもキリがいいところってなかなかないし……」


 隠れ家の薬草園で朝ご飯を済ませて、今は椅子に座って視聴者に身振り手振りを交えて説明をしている。


 寝る時も配信をしているとなるともうオンオフが曖昧になって私生活にまで視聴者が入り込んでいるようになっているんだよね……。そこまでになると地上に戻ったとき大変だろうな……。


 俺は閑話休題とばかりに軽く咳払いをする。


「で、今回は今後の活動について話をしていくよ。目下の問題としてはふたつ。そろそろ第二階層に行きたいということと、その前に邪魔になりそうなスノーウルフを倒しておきたい。その二点だね」


『もう第二階層に行けるの?』

『ボスはチラ見した程度じゃなかったっけ』


 リスナーからのコメントが続々と流れてくる。

 

「第二階層に続く階段とそこを守るボス……守護者は見つかった。パッと見て判断したけれど、あのゴーレムの相手は問題なさそうなのでそこまで対策するほどではないです。問題はアレの相手をしている時にスノーウルフに狙われると厄介なのと、シロガネの仲間が無理矢理従わされているのでそれをどうにかします」


『サラッとどうにかするって言ってて怖い』

『この子が地上に戻れない縛りがなくなったらもっと短期間で攻略されるんじゃない?』

『さすがに大言壮語でしょ』


「守護者はある程度の実力があれば簡単に勝てるタイプが多いよ、どんなダンジョンでも。日数経過で再生するからかもしれないね。再生しない分恐ろしいのが自然に生まれたモンスターたちかな」


『それは分かる。ルールによって生み出されたタイプのモンスターは規則性があるんだよね』

『はー。成金先輩もそう言ってるなら正しいんだろうな』


「なんだよ、俺が言ってると正しそうに見えないのか?」


『数の説得力というか……』


 ふーん? へ~?

 まあその言い訳で許してやるよ。みんながみんなダンジョンの常識を知っているわけじゃないからな。


『あ、そのカスを見る目そそる』


「そそるな。その発言を続けるとBANするぞ」


 おっと手が滑ったァ! アカウントBANしちゃったよ、ははは。

 コメント欄もやや同情する動きがあるが、おおよそは否定的である。


「スノーウルフへの対処にあたって……拠点に戻って今度はコンクリートの家を建てます! 壊れない家に籠もって敵を引きつけ、先遣隊、あるいはスノーウルフと一緒に来るホワイトウルフを鎮静剤を混入させた煙玉で落ち着かせます。平静を取り戻したらシロガネに頼んで散らばって貰って、あとはそのまま敵を倒す。仕留めきれなければ逃げ帰った巣まで追跡して、仕留めます! 以上!」


『三匹の子豚だなー』

『テント、レンガの家が壊されて決戦はモルタルの家かー』

『三匹の子豚ってそんな物々しかったっけ?』


「大事なのは三軒目でちゃんと勝つってこと! Gagisonつうはんでモルタル建築のレシピが買えるくらいにはみんなのスパチャなどなどで助けていただいていますので、次は絶対勝つよ!」


 勝つぞ勝つぞ絶対勝つぞー!

 前回は不意を打たれてしまったが二度目はない。スノーウルフの底はもう見切ったし、準備さえ整えれば負ける要素は何一つとしてないのだから、あとは淡々とやることをやればいいのである。


「あと、生活魔法で濡らしたタオルで身体を拭いてごまかしていたけれど、そろそろお風呂も恋しくなってきたので元拠点に移動します」



 拠点へと戻る際、シロガネに乗っていたが、特に彼に異常などは見られなかった。荒療治にはなったが怪我はおおむね治ったようであった。


 スノーウルフの咆吼で壊れたレンガの家をさめざめと泣きながら処理をし、まだ使えそうなものがないか点検した結果、離れにあった井戸とお風呂だけは無事だった。


 というわけでガレキの山となった家を掃除したあとは井戸水をお風呂場で温める。古い様式のこのお風呂は五右衛門風呂というらしい。薪をくべて温めるため、熱すぎたりするちょっと不便な前時代の機構だ。


 屋根付きのお風呂場。浴槽にゆっくりと肩まで浸かって温まると日頃の疲れがとれていくのが分かる。


 熱いお湯からさっと腕を上げて見れば、白くきめ細やかな肌を持つ小さな手が目の前に現れた。

 もう一月以上は付き合っているこの身体だが、まだ慣れることはない。乱暴に磨けばヒリヒリするし、適度に髪に油分を足さなければパサついてしまう。女性視聴者から身体の手入れのアドバイスを貰ったり、スマホで検索したりしてもまだ不都合は起きるものだ。


「女の身体ってのもなかなか不便なもんだな……」


 それでもなにもなかったあの頃よりかはやりがいがあるか。

 冥境での暮らし、攻略もなかなかに楽しいものだ。ものづくりも、キャンプ飯も、シロガネとの暮らしもなにもかもが悪くない。


 もし、俺たちがスノーウルフの問題を解決したら。そのときはシロガネは、あいつはどうするのだろうか。

 黒いオオカミはボスの証なのだとか。だとしたらあいつはボスになることを請われるのだろう。


 シロガネは、どうするのだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る