18 エルフ、袋麺を食べる
シロガネはなかなかのグルメである。
基本的には生肉を要求するのだが、気分によって焼いた肉やら魚、野菜や果物、果ては嗜好品の人間用のお菓子まで好んで食べる。彼の食べっぷりは見ていてなかなか気持ちがよく、ついつい量を食べさせてしまう。
そんなシロガネが毛嫌いするものはなにか。――匂いが強いものだ。ニンニク、ネギ、ニラ、ショウガ、エトセトラエトセトラ。こういった匂いの強い食品は見せただけでそっぽを向くほどに好んでいないようで。
「シロガネー、ごはんだよー」
寄生虫対策にお湯で熱していた獣肉。肉のレアな部分を豪華に使ったカルパッチョをお皿に盛り付けて相棒の名前を呼ぶ。するとバリケードの外周から、巨大化していたシロガネが大きく跳躍をして柵を乗り越えて帰ってきた。
シロガネとよく話をした結果、主食は生肉で、デザートになにか一品手がけて欲しいとのこと。いつもできるわけではないが、なるべく一手間をかけて料理をするようにしている。
『最近ご飯が豪華になってきたよね』
「うん。最近は視聴者数が増えたのとスパチャが多くてね。前までは買えなかった食品、調味料もようやく普段使い出来るくらいになってさー。本当、みんなありがとうね」
『推しが良いものを食べることで救われる命』
『で、今日のお昼はなに?』
「今日はねー、袋麺」
『なにこれ』
「UMAかっちゃん。九州豚骨ラーメンの袋麺だよ」
ローカル販売なため東日本の人にはなじみがないかもしれない。だがこの袋麺はキッチンで手軽に本場の豚骨ラーメンが食べられるということで妙な人気がある。
沸騰したお湯が張られた鍋に袋麺を入れて煮込む。さっと茹で上げたあとに豚骨スープの素を開けた瞬間、シロガネがビクン! と顔を上げてこちらを見やる。
「……お前は苦手だもんな、ニンニク」
「グルルルル……」
威嚇までしおるわ。自分の食事が乗った皿をくわえて後ずさり、じっとこちらを見つめている。「なんでそんなものを食べるのか?」とでも言いたげに目をまん丸にしていた。
『シロガネめっちゃ唸ってるじゃん』
『嗅覚が鋭敏なんだねえ』
「まさかここまで嫌がるとは……。でも食べるよ、だってたまには食べたいし……」
『シロガネに近づけなければいいんじゃない?』
そうするかー。
鍋に調味油とスープの素を入れたあとはどんぶりに盛り付けていく。
こうしている間にもシロガネはじっとこちらを見つめて大好きなご飯であっても気もそぞろといったところ。そ、そんなに気に入らないの……?
キャンプ用のテーブルにどんぶりを置いて口をつけていく。
つるつるの細麺をすすってよく噛む。うーん、やっぱりこの味だよなー。関東にも豚骨ラーメンはあるのだけれど、やはり一番水が合うのは九州のそれだ。
ダンジョンアタックの合間の休養日なんかにたまにジャンクフードめぐりをするのだが、最後に戻ってくるのはいつもここなんだよなー。
『そういえばこの間、街で蟹雑炊のドリンク売ってたのなんとなく思い出したわ』
「――ほんふぉ!? ……ん! どこらへんで売ってた?」
『うわ急に食いついてきた』
『このエルフ、趣味とかあったんだな』
「未だ見ぬものってさ、実質ダンジョンだよね」
『なんにでもダンジョンを適用させるな』
珍しい飲料や食べ物なんかはついつい買って味を確かめたくなるものだろう?
ちなみに味のレビューは聞きたくない。美味しいから買うのではなく、美味しいかもしれないから買うのだ。
美味しさだけを求めるなら見知ったものを選べば良いだけだからね。
などと話しているとシロガネの視線に気付く。お皿をくわえてじっとこっちを見ているのでおかわりが欲しいのだろう。
「シロガネ? ご飯が欲しいんだろ、おいで」
「グルルルル……」
じっとこちらを見つめたまま身じろぎをせず、こちらが動くとその分だけシロガネも後じさりをする。
あ、こいつニンニクの香りが本当にダメなんだな……。
それから今日一日は寝るまでシロガネがこちらに寄りつかなかったので、今度からなるべくニンニクはやめ、食べたら口臭ケアをすぐに行うことを心の中で決めるのだった。
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