第13.5話 アーサーの日常①
一方、アーサーは強制転生を受けて混乱の中にいた。
彼に授けられたスキルは『ピュア』というもの。
スキルの能力は指定された対象に自らをピュアな存在に見せ、お願いをかなえさせるというものだった。
しかし、このスキルにはアステリアの願望そのものが詰め込まれている。
副作用として、心をピュアにしていくというものだった。
ひねくれた最高高志の心を洗浄し、ピュアにしていくという恐ろしい人体改造スキルである。
そんなことには気づきもせず、アーサーは自らの欲望のためにスキルを使いまくる日常を送ることになった。
元々、自堕落な性格の彼にとって「お願いをかなえてくれる」というスキルは魅力的すぎた。
誕生と同時にスキルに覚醒し、使い方を知ってしまったアーサーは好き放題できるようになっていった。
赤ちゃんであるアーサーは言葉を話すことはできない。
しかし、転生者である彼は聞き取ることはできるのである。
状況に合わせてスキルを使うことで自らに優位な状況を作っていった。
一歳になるころ、アーサーは早くも言葉を話せるようになってきていた。
声帯の成長とともに、発語さえできてしまえば自由に話せるようになったのだ。
しかし、クズモブな性格は変わっておらず、発する言葉は耳を覆いたくなるような発言ばかりであった。
初めて話しだしたころは「天才か?」ともてはやされたものであったが、それほど賢い内容は話さなかったので、すぐに見切りを付けられてしまった。
『ピュア』「あー、おっぱい吸いたい~」
「アーサー様はおっぱい好きですねー」
アーサーの乳母が嘆いている。
アーサーの中身は23歳の成人男性だ。
乳母とは言え、この世界の住民は美男美女が多い。
そんな中、乳母ももれなく、美女であった。
美女の乳を吸うことだけを趣味に生きていたのだった。
この姿をアステリアが見たら卒倒しただろう。
彼女であれば自らの乳を差し出した可能性すらある。
それくらい、今のアーサーは赤ちゃんライフを満喫していた。
一歳ともなれば母乳から離乳食へ切り替える時期だ。
それでも、母乳のみで食を満たそうとしているのである。
完全に食欲ではなく、性欲からの欲求である。
王子として生まれた彼は自らの欲求を満たすためにスキルを多用していた。
しかし、スキルの使用回数はレベルに依存することもわかった。
この日は母乳を吸うことに使ったが、これはこの日に限らない。
毎日同じように母乳を吸うためだけにスキルを発動させている。
「デメテル~、まだ、おっぱい~」
「さっき飲んだでしょ~? おっぱいはおしまいです」
スキルを使わなければぴしゃりと断られる。
中身が成人男性だとわかっていれば何とも情けない話である。
こんなやりとりを毎日のように女神リーゼロッテは天界から眺めていた。
アステリアが天界から去って一年が経とうとしているが、彼女の友人であるリーゼロッテは心配なので、ひそかに見守っていたのである。
アステリアは目標に向かって一直線に進んでいるようだが、アーサーは行動が小物過ぎてリーゼロッテは言葉を失っていた。
「……アステリア、こんなののどこがよかったんだろう?」
「ギャハハ! アステリア、マジ涙目だろうな!」
フレイザもなんだかんだ心配なのか様子を一緒にみている。
「フレっち、容赦なく致命傷を与えるよね。私もそこまでは言えないな……」
「アハハ!でも、自分で選んだんだからいいんじゃないの? それに、アステリアもなんだか楽しそうだし」
天界の住人は下界の様子を自由に覗き見ることができる。
それは特定の人物にフォーカスすることも可能だ。
だから、リーゼロッテと、フレイザの二人もアステリアとアーサーの成長を見守ることを続けていた。
おかげで仕事が遅れていたことは別の話だ。
もちろん、遅れた分の仕事を押し付けるアステリアはもういないので、自分でこなすしかない。
「あ、見てよ! アイツ、また、おっぱい吸おうとしてるぜ!」
「ほんとだ。男ってホントにおっぱい好きよね」
「アタシは揉むほどのものは無いけどね」
フレイザは美しい女神だが、モデル体型というか、端的に言うと貧乳だった。
対してリーゼロッテは豊満な胸部を装備している。
しかし、超越存在たる女神に体に対するコンプレックスなんてものは存在しない。
貧乳であることも自分の魅力であるとフレイザは確信している。
実際、男神からはフレイザのファンが多い。
「うは! 断られてやんの。やっぱ、スキル無しではキツイよな。吸い方もなんかエロいし。キモイわ」
「だよね。さすがに、あれは乳母さんがかわいそうかな」
「ほんと、あれのどこがいいんだろうね?」
アーサーは知らないうちに女神二名に目を付けられていたのだった。
しかし、女神は転生させること以外で世界に干渉できないため、いくら目を付けられても何も影響はないのであった。
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