第13話 ストレスマックス
勝負には私が勝ったが、アイザーさんは貴族のお抱え騎士に選ばれた。
あれだけの立ち回りをしたのだから当然だろう。
私はやはり戦い方が地味だったからアピールが足りなかったらしい。
どの貴族にも選んでもらえなかった。
ここまでの冒険では、私は失敗という失敗をしてこなかった。
全てがスムーズに進んでいた。
だから、ここにきてのアイザーさんに負けたという事実は重くのしかかった。
私はアーサーさんをすぐにでも見守りに行きたい。
でも、そのための歩みを止めざるを得なかった。
これまでの快進撃がウソのように思えた。
アイザーさんに負けたことと、自分に負けたことの2敗が大きいようだ。
クリスもなぐさめてくれていたが、言葉は頭に残らなかった。
女神であった自分がこれほど打ちひしがれることなんて無いと思っていた。
少し、甘かったようだ。
これほど、失敗という言葉が重いとは知らなかった。
思えば、女神時代からも失敗とは縁がなかった。
早めに仕事を終わらせ、同僚の手伝いをするという毎日をすごしてきた私にとって、失敗とはレアケースなのだ。
落ち込んでいるとガストン先輩が近づいてきた。
「アステリア、そう落ち込むな。アイザーのようなヤツが珍しいだけで、多くの騎士は貴族のお抱え騎士にはなれないんだよ」
「そうですか。私は騎士爵が欲しいんです」
「ほう、大きくでたな。お前は貴族になるために騎士をめざしているのか?」
「ええ、そうですね。騎士道からすれば許されないことかもしれませんが、私の目標は貴族です」
「その先にさらなる目標があるようだな?」
「ありますよ。でも、今となっては遠ざかりました」
「そうか。でも、さっきも言ったように、すぐにお抱え騎士になれるのは一握りの者だけだ。それで腐ることなく努力すれば、いつか誰かが評価してくれるさ」
なんて、月並みななぐさめだ。
それほど落ち込んでいるように見えたのだろう。
先輩を困らせるのも良くないな。
切り替えよう。
「ありがとうございます。その日を待って努力を続けます」
「ああ、そうだな。いい話もあるぞ。今回の公開訓練で騎士団の上層部がお前たち見習いを正式な騎士として認めるようだ」
「え? もう見習いではないんですか? それはよかった」
「そうだぞ、明日からは王国騎士団の一員だ。気合を入れて訓練にはげめよ」
「はい。承知しました」
正式な騎士団に入団できたとなると魔物討伐が始まる。
魔物はダンジョンからあふれ出てくるため、それらを討伐することで王国の治安を維持するという活動がメインとなる。
国内の人間同士のいざこざや警察としての機能は近衛騎士が担っている。
騎士団はあくまで魔物討伐の専門家だ。
ダンジョンへ直接遠征の際はアイザー達お抱え騎士も通達が届き、合流して討伐に向かう。
今の精神状態では、難しい訓練より魔物をやっつけるような単純な作業の方が向いていそうだ。
さっそく明日から魔物討伐は行われるそうだ。
その日はそのまま騎士団の宿舎で泊まった。
翌日、早朝から魔物討伐に向けて王都の郊外に出向いていた。
移動は全員が馬で、素早いものだった。
三時間ほどさらに進むとダンジョンの入り口が見えてきた。
山肌にある洞窟のダンジョンだ。
ダンジョンの入り口はどこにでもある。
道端にいきなり落とし穴のように空いている穴もあれば、洞窟のように入りやすいものもある。
この一帯はダンジョンが四つあるため、騎士団を四つに分けて小隊での移動となった。
一つの隊には百人程度がいる。
今回はダンジョンに潜るのではなく、入り口周辺の魔物を討伐することが目的だ。
大きな危険はない任務となっている。
普通、入り口から出てくる魔物は弱いものだと相場が決まっている。
ダンジョンは進めば進むほど魔素が濃くなり、その魔素により魔物は生まれる。
空気中に分散された魔素は再び固まるまで時間がかかり、ダンジョンの外では、もう二度と魔物になることはなくなるとされている。
実際私のスキルの一つである『魔力感知』を使ってもそのように見えるから間違いないだろう。
ここから考えられる仮説はダンジョンの奥地には魔素の元となる何かが存在するということだ。
人類は57階層までしか進んでいないため、これ以上の情報はないが、ダンジョン奥地に何かがいることは間違いないだろう。
今日の私の任務は衛生班だ。
傷ついた先輩騎士の応急手当をすることが主な任務となっている。
もちろん戦える準備はしているが、戦うことはないだろう。
本当は戦って気持ちをスッキリさせたかったが、何もしないよりはマシだ。
一つのことに集中して取り組むことで気持ちを落ち着かせよう。
「攻撃隊、進めぇー!」
攻撃が始まった。
魔物はダンジョン入り口近くで集まっていた。
私たち騎士の役割は必要以上に増えている魔物を間引くことが主な仕事だ。
必要以上に危険な戦闘は行わない。
危険な戦闘は冒険者の仕事となる。
彼らは自分の命というチップで危険なバトルに挑み、勝った時にはそれなりのドロップアイテムをゲットできる。
私たちは彼らのサポートがメインと言ってもいい。
騎士は危険なバトルはしないのが常だ。
だから、冒険者からは馬鹿にされるらしい。
私も街の酒場で食事をとっていると冒険者から馬鹿にされたことがある。
もっとも、彼らの大半は短命なのでそこまでしないとやっていられないのだろう。
有能なものほど安全な道を通るのはどの世界でも同じだ。
そうこうしていると、どんどん負傷者が運ばれてきた。
手当をしていると、どうやら珍しく大物の魔物が外にまで出ているらしい。
そいつにやられて負傷者が大量に押し寄せていた。
私はイライラしていたので、医療班の現場を投げ出し、戦闘の現場までやってきたのだった。
規律は違反しているが、今はストレスがマックスだ。
魔物相手に暴れてやりたい気分だった。
私がこんなことを考える日が来るなんて考えもしなかった。
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