第9話 ちょうどいい時間

 朝から騎士団詰め所へやってきた。

 集合時間のきっかり十分前。

 早すぎても遅すぎても相手の迷惑になると考え、この時間に決めた。

 到着するとすでに待ち構えていた者がいた。

 ガッチリした体系にきれいに手入れされた鎧を身に付けている。

 おそらく、先輩騎士だろう。


「早いじゃないか。お前が一番だ」

「そうですか。ちょうどいい時間だと思っていたですけど」

「そうだな。お前の判断は正しい。しかし、ほかの連中はナメてるヤツが多いようだな」

「そうなんですね。正しい判断ができてよかったです」


 益体も無い話をしていると、クリスがやってきた。

 クリスは五分前にやってきたようだ。

 先輩は頷いている。

 合格ラインなんだろう。

 その後、ぞろぞろと他の合格者もやってきた。


 合格者は八人だ。

 定刻となり、周囲を見てみると八人。

 しかし、ここには先輩騎士一人が含まれている。

 つまり、一人は遅刻というわけだ。


「訓練にビビッて逃げ出したのか?」

 先輩騎士は唸るようにつぶやいたが、すぐに頭を振って話を進めようとした。

「よし、遅刻者は放っておこう。これから訓練を開始する。私はガストンという。お前たちの教官となる先輩騎士だ。ガストン先輩と呼んでくれ」

「・・・・・・」

「返事をしろ!」

「はい」「はーい」「はぁい」「ハイ」……。


 おのおのが勝手に返事をした。

 どうやらガストン先輩は返事にはこだわりがあるようで、顔色がみるみる変わる。

「ちがう!全員で息をそろえて短く『はっ』と返事するんだ!」

「「「「はっ」」」」

「できるじゃないか!初めからそれをしろ!」

「「「「はっ」」」」


「よし、返事はそれを続けろ。まずはランニングからだ。帯剣したままのランニングをするぞ。騎士は重い鎧と剣を身に付けて走り続ける仕事だ。どれだけの距離を走れるのかでソイツの価値が決まると言っても過言ではない。練兵場のランニングコースを何周走れたか後で報告に来い」

「「「「はっ」」」」


 七人で走ることになった。

 もちろん給料は今日の分から支給されるので、これは仕事の一環だ。

 私は精一杯走った。

 途中で気づいたが、女神であった自分の体に内包されている体力は計り知れないものであるらしい。

 クリスが全力でダッシュするくらいの速さで長距離を走り続けることができることがわかった。

 もっと速くすることもできるけど、それくらいでやめておいた。


「はぁはぁ、アステリア、すごいな。私も体力には自信があったが、君にはまったく追いつくことができないよ」

「そうでしたか? クリスもすぐにこれくらいはできるようになりますよ」

 そう言いながら、ガストン先輩に報告に行った。

 私は何周でも走れそうだったが、最後までがんばったクリスが諦めた時点でやめた。

 

 ガストン先輩のいる兵舎へ行ってみると一人の青年が正座で説教されていた。

 どうやら、遅刻した同期の騎士見習いらしい。

「わかっているのか? 遅刻するということは命を預ける仲間を裏切るということなんだぞ!?」

「はい……」

 下を向いてずっと説教されている。

 彼の様子を見ているとアーサーさんを思い出した。


 アーサーさんは元気に育っているだろうか?

 私が下界に降りて一年は過ぎただろう。

 一歳のアーサーさんか。

 さぞ、かわいいんだろうな。

 幼少期から見守りたかったが、私にはまだその資格がない。

 王族の近くに行けるだけの地位が必要だ。

 早く騎士になろう。


「聞いているのか? アイザー?」

 まだ説教は続いていた。

 私たちは報告をして次の訓練に移りたいが、声をかけられる雰囲気ではない。

 どうやら、説教をされている彼の名前はアイザーというらしい。

 少しアーサーさんと名前が似ていることや、シルエットが生前の最高高志さんと似ていることもあり、自然と彼に同情している自分がいた。

 

「ガストン先輩、ランニング終わってきました。私は56周走ることができました」

「お、お前ぇ、説教しているから少しまっていろ!」

「すいませんでした。気づきませんでした。次から気を付けます」

「わかった。次からは周囲をよく見て声をかけろ!」

「はっ! しかし、ここのアイザーさんも次から気を付けると思うので次の訓練に一緒に行ってもよろしいでしょうか?」

「お前、こいつをかばっているのか? こいつの遅刻がお前の命を奪うかもしれないのだぞ? そんなやつに命を預けられるのか?」

「それは無理ですね」

「そうだろ? だから私は説教を―――」

「だから先輩は訓練で矯正してくれるんですよね?」

 ニコっと笑ってみた。


 ガストン先輩はみるみる赤面していき、乙女のような瞳で私を見つめてくる。

 やはり、私の女性としての魅力はすさまじいらしい。

 ランニング後のぼさぼさの頭でもガストン先輩を落とすくらいには魅力的なのだろう。

 

「し、しかたないな。私が育ててやるよ」

 ガストン先輩も納得してくれたようだ。

 次は、剣術の訓練かな?

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