第7話 騎士団
「ちょ、王都へ行くって祭りは?」
「そんなものは私には関係ありません」
「関係なくはないでしょ? だって、あんたのためのお祭りよ? 主役がいなけりゃ、盛り上がらないじゃない?」
私たちは二人で水浴びをしていた。
ベスの体はお世辞にも女性的とは言えない貧相なものだ。
逆に言えば男性的とも言える。
話も聞かずにじっと見つめていると、ベスも見つめ返してくる。
私はなんとも言えない、羞恥心で全身が火照りだした。
「アステリア、あなたの体、いや、全身は本当に美しいね」
ベスも変なスイッチが入ったらしい。
目がトロンとしている。
見つめられると、肌が敏感になってくる。
アーサーさんにこんなことをされるとどうなるのだろうか?
妄想が具体的になればなるほど、乙女の体は火照りを増す。
「そんな褒められるようなものではありませんよ」
答えながらも、何を言っているのかわからない。
頭がぼーっとする。
あれ? なんだろ?
騎士爵への道が開けて緊張の糸が切れたのかもしれない。
思えば、無茶なことをずっとしている。
女神をやめて、戦いの日々。
綺麗な生活から一変、血なまぐさい日常。
現実と非現実の境目に今はいるのかもしれない。
何か間違いが起こっても……。
「アステリア……」
「ベス……」
ベスと唇を交わした。
ベスの手は私を抱き寄せる。
私もそれに応えるようにしがみつく。
ベスの手は私の敏感な部分に届こうとしている。
その時……。
ふと目が合った。
街の住人だろうか。
通りすがりとは言え、男性だ。
見られてしまった。
街の有名人である私の羞恥な部分を。
そして、ベスを突き飛ばしてしまった。
私はベスを傷つけてしまったのだ。
ベスの乙女と私の乙女をなかったことにしてしまった。
その後、二言、三言交わしただけで、多くを語ることなく、街を旅立った。
王都をめざす間も言葉は最小限のものだった。
今となってはあの気持ちがなんだったのかは整理がつかない。
一時の激情に駆られただけなのか?
一瞬の気の迷いだったのか?
寂しさを紛らわせたかったのか?
本気だったのか?
わからない。
でも、これで、ベスとの関係は終わった気がした。
王都につくと、私は急いで騎士団の入団手続きを始めた。
ベスは魔石を換金したお金を元手に商売を始めるらしい。
それぞれが別々の道を歩みだした。
きっと、これでよかったのだ。
私は実際に人間の体になっている。
生殖機能も備えている。
男女で交われば、もちろん子供ができる。
それを今まで考えることもなかったが、初めての肉欲だったのかもしれない。
性欲と言えるそれは私を支配しかねない大きな渦となって残っている。
ベスは巻き込む形で申し訳なかったが、私がコントロールしなければ、女性であるベスでさえ、その気にさせてしまうだけの魅力が自分にあることがわかった。
女性的な魅力をコントロールか……。
女神時代には全く考えなかったことだな。
他者からどう見られるかなんて、女性ばかりの職場には必要なかった。
それに、ほかの女神に対してそのような気持ちを持ったことなんて一度もなかった。
そんなに魅力的なんだったらアーサーさんも振り向いてくれるかな?
なんて考えると、下半身がうずきだす。
はしたないと考えながらも自らに起こっている生理現象を受け入れるしかなかった。
これが、生きるということか……。
思ったより不便だな。
感情に体が振り回されるなんて……。
「入団希望者はこちらへどうぞー」
威勢のいい声に導かれ、入団希望者の集まる列に並んだ。
周囲を見ると、体格の大きな男性ばかりだった。
しかし、一人、華奢な女性の姿もあった。
私と同じくらいの背格好。
年齢は二十歳くらいだろうか?
ベスよりは大人っぽく見える。
引き締まった腹筋の見える、露出の多い服装だが、胸は大きい。
グレーのショートヘア―も似合っており、その美しさを引き立てている。
「入団希望者はまず、こちらで簡単なアンケートに答えてもらいます。その後、実技試験を経て、騎士見習いへとなってもらいます。その後、修練を積んで騎士をめざしてください」
思ったより、時間がかかりそうだ。
私はサクッと騎士爵を得て、アーサーさんに会いたい。
まぁ、まだ、転生したてで1歳になったころだろうから今会っても仕方ないか。
ゆっくり時間をかけて、貴族になって見せよう。
そして、外交官としてサリューム王国へ行って、夢の再開。
再開って、向こうは私のことを見たことないか……。
でも、私は目標に向かってコツコツ努力することが好きだ。
今は一歩ずつ前進している実感がある。
「それでは、アンケートに答えてください。終わった方から私に提出して、実技試験の方へ移ってください」
アンケートは主に品性を問うものであった。
食事や挨拶のマナーからその他礼儀作法を知っているか。
犯罪歴はないか。
家柄に問題はないか。
家柄については、孤児出身と作り話を用意しておいた。
「提出ありがとうございます。それでは、あちらで、剣技の実技試験を受けてください」
促されるがままに、実技の列に並ぼうとした。
列の最後尾には、さきほどの女性がいた。
歩き方一つをとっても美しい彼女はすぐに話しかけてきた。
「お嬢さん、私の名前は、クリスティン・ゴアと申します。二人だけの女性参加者ですね。仲良くしてください」
「ええ、もちろんです。私の名前はアステリアです。よろしくお願いしますね。ゴアさん」
「こちらこそ、よろしければ、私のことはクリスとお呼びください」
「わかりました。クリス。実技試験の自信はありますか?」
「ええ、もちろん、アステリアはどうですか?」
「私もなんとかなると思いますよ」
くすくす笑い合っているうちに順番はきた。
先にクリスだ。
どうやら、彼女の剣は大型のグレートソードだ。
ドラゴンでも胴体を一太刀で切れそうなほどの大きさだ。
クリスは大剣をいともたやすく振り回し、試験官を追い詰める。
「合格!」
どうやら、試験官を追い詰めたら合格らしい。
実際に切ってしまったら危ないからだろう。
困った、私の剣は一撃必殺だ。
殺してしまったら、申し訳ない。
試験官にも家族はいるだろう。
「次の方、どうぞ」
「はい」
短く答えると、間合いより大きく外から剣を振った。
ブォンと大きな音を立て、剣は振りぬかれる。
音と同時にパァンといった破裂音もなる。
これはいつものことだ。
音速を超える『剣聖』スキルで剣を振るといつもこの音がする。
そして、そこからはソニックブームと呼ばれる衝撃波が出る。
その衝撃波で攻撃しようと考えたのだ。
意外とコントロールは難しかった。
空気の流れを読み、破裂音を頼りに衝撃波を作りだす。
三回ほど試しに振ってみたところで試験官が話しかけてきた。
「さっきから、奇妙なことばかりしているが、もう始まっているのだぞ? 攻撃してこないと、失格になるぞ?」
それは困る。
しかし、コツはつかんできた。
次はできるだろう。
「それでは行きます」
「おう、なるべく早く頼むぜ、この後もまだまだひよっこの相手をしなけりゃならねぇんだ」
パァァァン!!!
衝撃波が試験官に向かって飛んでいく。
試験官は鎧を着ていないため、剣を狙った。
が、少しずれた。
いや、狙いは正確だったのだが、威力が思ったより強かった。
剣を真っ二つに切り裂き、試験官の体も切りつけられている。
胸のあたりから出血をしている。
出血量を見ても重症というわけではないだろうが、申し訳ないことをしてしまった。
試験は合格らしいが、試験官の治療には参加した。
回復魔法で一瞬で癒すと、周囲から歓声が沸いた。
完全なるマッチポンプだった。
クリスティン・ゴアのイラスト
https://kakuyomu.jp/users/ahootaaa/news/16817330664407002293
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