第6話 冒険者引退
「ねえ、これってやっぱりすごいことじゃないの?」
「そうなんですか? あまりに簡単だったので、あっけなかったですけど?」
「そりゃ、あんたの魔法にかかればなんでも一撃だろうさ。でも、前人未到の地だよ?」
「そう言われてみればそうですかね」
前人未到と言われても、私は元女神ですし……。
「あまり簡単にクリアすると噂も立つでしょうから、今回はここまでにしておきましょうか。さらにスカウトが増えるのもイヤですし」
「あんたがそういうなら従うよ。それにしても、その『空間収納』ってスキルは便利だね。魔石もドロップアイテムも全て収納してしまうんだから」
「そうですね。容量の上限もありませんし、想像したものがすぐに取り出せるので大変便利です。でも、中に何をしまったのかを忘れてしまったら取り出せないんですけどね」
実際に今、どれほどの物が入っているのかはよくわからない。
最悪、どこか広場に全て出してしまえば問題ない。
「さて『オートマッピング』スキルで帰り道も最短でわかりますので、帰りましょうか」
「ほんとに何でもアリだな……」
「何か言いました?」
「いや、何も?」
さらに言うと『レーダー』スキルで魔物の配置も把握しているので、どこに何がいるのかはわかった上で行動している。
チートと言われたら仕方ないが、私も自覚しているし、まったく気にしていない。
今回も57階層でやめるのも、初めから人類の記録を塗り替えてしまったら、反則だとうるさい輩が現れる。
それを考慮して、最高記録でストップしているだけだ。
おっ、大物が現れた。50階層の階層主が現れたようだ。
さっき通り過ぎた時にはいなかった。
階層主を倒したら大きな魔石が手に入る。
それを証拠に57階層へ行ってきたと宣伝できるはずだ。
必ず倒そう。
「ベス、どうやら、階層主が現れたようです。倒しますので、少し寄り道しますね」
「50階層の階層主を寄り道感覚で倒すのはあんただけだろうね」
皮肉を言われたが気にしない。
そもそも、本当に寄り道感覚だしね。
階層主が見えてきた。
「どうやら階層主はブルーワイバーンのようですね」
「え……あんなの倒せるの?」
「ええ、大丈夫ですよ」
言葉と同時に時を止める。
もちろん無色魔法で時を止めた。
今の私なら百年くらい時間を止めることができる。
ワイバーンの攻撃がベスに当たるといけないからね。
念のため時を止めた。
ゆっくり歩いて近づいていき、剣で首をはねる。
時間が止まっているときは、私の行動以外には物理法則は適用されないので、切られた頭はその場に固定されていた。
そして、時が動き出す……。
ブルーワイバーンの頭はぼとりと音をたてて地面に転がった。
その後、数瞬ののち、ブルーワイバーンの体も倒れた。
ベスはあっけにとられている。
ぼーっと現象を眺めていたが、はたと気づき、私の方をみてバタバタと手を振った。
「ちょ、ちょっと、どうなってるの?」
「時間を止めました」
「え? そんなこともできるの?」
「ええ、たいがいのことはできますよ?」
「本当になんでもやってのけそうだから、具体的なことは聞かないようにするよ」
「ああ、そうですね。知ってるだけで命を狙われるかもしれませんね」
言われてみれば、ベスの立場危ういな。
ちょっと、護衛方法も考える必要があるな。
「そうなんだよ。だって、人類の記録に並ぶ偉業をなしとげたんだよ?」
「そうですね。少しくらいは名前売れますかね?」
「そりゃ、売れるどころの騒ぎじゃないよ? だって、ほぼ単独制覇なんだから」
「そうですか? 楽しみですね。どれくらいの地位が手に入るでしょうか?」
「あんた、地位に興味があるのかい?」
「そうなんですよ。他国の王子様にお近づきになれるくらいの地位です」
「大きく出たね。他国の王子様と知り合いになるなんて、考えたこともないよ」
「そうですか? 私は推したいだけです」
きっぱりと断言した。
だって、これがメインで下界まで来たんだもん。
「まあ、動機はなんでもいいけど、私にも分け前がほしいものだね」
「もちろんですよ。案内人としての報酬はお支払いしますよ?」
「そうだったね。案内人の報酬がどれほどのものなのか楽しみに待っているよ」
「ええ、私は推しメン以外は興味がないので、お金は期待しててください」
「ああ、お金と言えば、今回の魔石の量もハンパな額じゃないよ?」
「そうですね。半分ずつしましょうか」
「そんなにもらってもいいのかい? 全てあんたが倒してアタイは拾って渡しただけだよ?」
テキトーに返事したが、納得いかないらしい。
地位を買えるだけのお金があればいいので、額はよくわからない。
女神とはいえ、下界の、それも一国の金銭感覚まで把握していないのだ。
その後、何の問題もなく、ダンジョンから出ることができた。
「私はこのお金を持って騎士爵を得るために、騎士団へ入団します。ベスはどうしますか?」
「そうだねぇ、アタイは騎士にはなれないから、この大金で商売でも始めるよ。騎士になるなら、王都へ行くだろ? 一緒にいくよ。それに、魔石の換金も王都でした方がレートが高いんだ」
「そうなんですね。そのあたりの細かい情報に疎いので非常に助かります。それじゃあ、冒険者ギルドで報告だけしておきましょうか」
その後、冒険者ギルドで57階層到達の報告と証拠となる、ブルーワイバーンの魔石を見せたら街中が大騒ぎのお祭り騒ぎとなった。
情報はギルドから商人へ、商人から商人へ、街から街へと行き渡っていったようだ。
どこへ行っても噂を耳にする。
私は一刻も早くアーサーさんの近くに行きたかったので、お祭りを待つことなく、街を出て、王都をめざした。
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