第5話 冒険者アステリア

 コカトリス鍋はとてもおいしかった。

 骨から出汁をとり、骨がとけるまで煮込んでスープにした。

 白く濁ったスープは何とも言えないうまみが凝縮され、一緒に入れた野菜にしみ込んだ。

 肉はプリップリで、弾力のある歯ごたえと、噛むごとにうま味の出てくる濃厚な味わいだった。

 ベスも大変気に入ったようだった。


 コカトリスの肉はまだまだある、当分、これを食料にして旅ができる。

 私はコカトリスの肉をベスに分け与え、宿場町を後にしようとしていた。


「やっぱり、アタイもついていっていいかい? 冒険者になるんだろ?」

「ええ、でも、今回のように毎回あなたを守れるとは限りませんよ?」

「そうだね。でも、両親を失って仕事もないアタイは娼婦になるくらいの未来しかないのさ。それなら、あんたについていった方が夢があるってもんさ」

「そうですか。それじゃあ、この辺りの案内役として雇ってもいいですか?」

「それならできるね。わかった。それでいいよ」

「ベス、それじゃあ、お願いしますね」


 案内役を仲間にしたことで一気に旅は捗った。

 宿場町を出て、街道沿いに馬を走らせ、大きな街へやってきた。

「このペイルズの街なら冒険者ギルドがあるよ」

「私は手っ取り早く有名になりたいのですが、いい作戦はありませんか?」

「なかなか、強気だね。ま、あんたが強いことは知ってるけどね。作戦ねぇ、普通に名前を売るならダンジョンに行って強力な魔物を倒しまくることだろうね」


 ダンジョンか……。

 ダンジョンは女神の力でも中を覗くことはできない場所であるため、少し不安がある。

 ダンジョンの奥に何があるかは誰も知らないのだ。

 もちろん人間たちも。

 現存するもっとも探索の進んでいるダンジョンでも57階層までと言われている。

 それ以降の奥地に何が待っているかは文字通り神ですら知らない。

 むしろ、ダンジョンについては人間の方が詳しいとされている。


 魔物を倒せば死体は残るが、ダンジョンで倒した場合、死体は残らず魔石に変わる。

 魔石は魔石製品と呼ばれるアイテムのエネルギー源として利用される。

 地球では石油や石炭をエネルギーとしているが、こちらの世界では魔石がそれに当たる。

 

 そう、魔石は金になるのだ。

 金は大量にもっていると地位や権力をも買える。

 私の今の目標はこの国の有力者となって、アーサーさんに近づくこと。

 せっかく人の身になったのだから、アーサーさんの隣に並べる位の地位について、ゆっくりお話しをしてみたい。

 そして、彼の持っている素質について語りつくしたい。

 いや、遠巻きに眺めるくらいがちょうどいいか?

 とにかく、ほどよい距離へ近づきたいんだ!


 よし、ダンジョンで金を稼ごう。

 そして、地位と権力を買おう。

 そして、アーサーさんを愛でよう。

 方針は決まった。


「ベス、それじゃ、冒険者ギルドへ案内してください。さっそくダンジョンへ行きます」

「あいよ、それじゃ、ギルドで登録しようか。アタイは登録しているからあんただけやりな」


 冒険者ギルドへ足を踏み入れると、女二人なのが珍しいのか、ジロジロ見られた。

 受付は冴えないおっさんだった。

 汚い字で書かれた受付用紙に必要事項を記入する。

 水晶に手をかざすと水晶は粉々に砕け散り、S級認定された。

 どうやら、スキルの合計レベルが階級に関係しているらしい。

 私は『女神』スキルの中に無数のチート級スキルをマックス状態で放り込んでいる。

 だからS級という判定だったのだろう。

 ベスはE級だが、一緒にダンジョンへ潜れば問題ないと言われた。

 

 その後、いろいろスカウトされたが、冒険者は目的のための手段なので、全て断った。

 街にいるとスカウトがうるさいし、ギルドマスターも何やら不穏な動きをしていたので、ダンジョンへ行くことにした。

 幸い、食料と水はたんまり空間収納に入れてある。

 なんなら、ベスの家ごと収納してきた。

 

「わぁ、これがダンジョンですかぁ!」

 アーサーさんも入っていたなぁ。

 感慨深いものがった。

 まさか、自分もこの未知の領域に足を踏み入れることがあるなんて。

 天界からは見えない場所に来るのは初めてですね。


「危ないから気をつけな。って、あんたは強いから大丈夫か」

「そうですね。滅多なことがない限り魔物ごときには負けませんよ?」

「そうだったね。頼りにしてるよ。それじゃあ、稼ぎに行こう」

「そうですね。片っ端から片付けていきますね」


 そう言うと、私は本当に端から全ての魔物を倒していった。

 ベスは魔石拾いに集中している。

 倒す方法は簡単だ。

 レベルマックスの『賢者』スキルで魔法を打ちまくるだけ。

 魔法は実用的なレベルまで上げることが難しいだけで、使用回数に制限はない。

 私の場合、全力で魔法を使えば火球二発でこの世界を滅ぼすことができる。


 洞窟内の酸素の事を考えて今は氷魔法を使っているが、魔物より大きな氷の槍が降り注いでいる中で生き残れるものはいなかった。

 より深い階層で魔物を狩る方が魔石が大きいため、深い階層へ行く。

 道中、休憩もはさむが『危機管理』スキルがあるため、全く危険はなかった。

 休憩もベスの家を出して休憩するので、ゆっくりできた。

 太陽を見ていないので、それだけが物足りないが、ダンジョンや家の中は常に「ライト」の魔法で光源は確保している。


 なんの苦労もなく到達してしまった。

 人類未踏の57階層へ。

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