第4話 自重って何ですか?

 街道を通って宿場町まできた。

 冒険者ギルドに登録して、名前を売るために。

 でも、いくら探しても冒険者ギルドなどありません。

 あんまりだ。

 お金を持ってなかったので途中で倒した魔物から出た魔石を換金すると銀貨五枚と交換してくれた。

 動物の死体も『空間収納』スキルで収納していたので、買い取ってもらえた。

 こちらは銀貨二枚。

 これで当面の路銀になる。


 どうやら魔石の方が儲かるらしい。

『空間収納』スキルを見せたら驚かれた。

 隣にいた、商人のおじさんが、ニヤニヤこちらを見ている。

 もうおじさんはいりません。


 とりあえず、呼ばれたのでついていったら、やっぱりスキルを使った商売を手伝ってくれって言われた。

 もうおじさんはいりません。


 またもや『剣聖』チョップで黙らせる。

 本当はこんな使い方じゃないんだろうけど、いいよね?


 あ、しまった、『催眠術』で口外できないようにするの忘れてた。

 まあ、いいか。

 とにかく、おじさんはいりません。


「今のどうやったの? すごいね」

 顔にそばかすのある、ウェーブがかった、くすんだ赤い髪の女性に声をかけられた。

「あー、すまないね。驚いたから思わず声をかけちまったよ。アタイはベスティ、みんなはベスって呼んでるよ。見かけない顔だね? 旅でもしてるのかい?」

 そういってベスティと名乗る女の人はおどけて見せた。


「はい、旅と言っても、冒険者になりたかったのですが、この町には冒険者ギルドがないんですね」

「あー、そうだね。冒険者ギルドはないけど、依頼ならあるよ。実はアタイがその辺りは取り仕切ってるのさ」

「そうなんですか。でも、私は冒険者として有名になりたいので、登録ができないなら結構です」

「そう言うなよ。見たところ腕前は自信あるんだろ? ちょっとクリアしてほしい依頼があるんだよ」


「と、言っても、お金にも困っていませんし、依頼を受ける理由がありません」

「いやいや、理由ならあるよ。今晩、ウチへ泊っていきなよ。宿決めてないだろ?」

「ええ、でも、宿代もありますので、依頼を受ける必要はありません。」

「よく考えてみなよ? こんな宿場町だと治安は悪いよ? 男はいつも女を狙ってるし、人さらいもいる。こんな町の宿でゆっくり休めるかい?」


 う、確かにおじさん恐怖症にはなりつつある。

 魅力的な提案に思えてきた。


「わかりました。どんな依頼かを先に伺っても?」

「おっと、そりゃ、そうだね。依頼内容も聞かずに返事はできないね。これだよ」

 ベスティは一枚の依頼書を見せてくれた。

 ギルドはないが、依頼書はある。

 不思議な町だ。

 依頼書にはモンスター討伐の依頼内容が書いてあった。

 鳥のような絵が描いてある。


「コカトリス」


「そう、コカトリスさ。やっかいな魔物でね。石化光線を出してくるんだ。これをアタイと倒しにいくのさ」

「え? ベスティさんと?」

「そうさ。あと、ベスと呼んでよね」

「ベス……」

「ああ、それでいい。さあ、早速今からいくよ?」

「今からですか?」

「そうだよ。日が落ちるまでまだまだ時間はあるだろ?」

「そうですけど、急ぎすぎじゃないですか?」

「いいんだよ。いくよ!」


 ベスは私の腕をつかんで無理やり引っ張っていった。

 石化光線とやらがあるらしいが『万能無効』のスキルで防げるはずだ。

 このスキルはあらゆる状態異常が通用しない。

 毒なんかも全てこれでガードできるはず。

 倒すだけなら問題ないだろう。


 あ、攻撃魔法だとベスさんに当たるな。

 剣が欲しいな。

「あの、ベス、剣が欲しいのですが、貸してもらえませんか?」

「ああ、ちょうどいいのがあるよ。これを持っていきな」

 ベスの家で用意をしていると、剣を貸してくれた。

 どうやら使い込まれた剣のようだった。

 片刃の剣で扱いやすい長さだった。


「それね、アタイのオヤジの剣なんだ」

「え? 大切にされているのでは?」

「そうだよ。大切にしていた。コカトリスに殺されるまでは」

「そんな大切な剣を使ってもいいのですか?」

「ああ、ヤツを殺しに行くんだ。それで殺してくれよ」

「わかりました。まかせてください」

「あんた、本当にすごいね。コカトリスだよ? 怖くないの?」

「実際には見たこともありませんから怖くありません」

 天界からは見てたけど……。

 確かにコカトリスは普通の人間なら苦戦する魔物だ。

 でも、チート祭りの私にはまったく怖くない。


「そうかい、すごいね。期待しちまうよ。アタイにはね、両親しか家族がいなかったんだよ。昔は弟もいたけど、病気で死んじまってね。それからはこの町で三人で暮らしていたのに、コカトリスに両親を殺されちまったんだよ」

「そんなことがあったんですね」

「ああ、だから、必ずあいつを仕留めてやりたいのさ」

「だから、あんなに焦っていたんですね」

 依頼書も彼女の手書きだったわけだ。

 ギルドへの依頼もできなかったのだろう。

 そこへ私がやってきて、思わず声をかけたのね。


「そうだよ。あんまり焦っているように見られたら足元を見られるから緊張したよ」

「あら、もう安心してくださったのですね。今から吹っ掛けるかもしれませんよ?」

「いや、あんたはそんなヤツじゃないってわかったから本音トークしてるんじゃないか」

「ふふ、そうでしたか。ありがとうございます。頑張って働きますね」

「ああ、しっかり頼むよ。そして、今晩はコカトリス鍋にしよう」

「あら、鶏だし、おいしそうですね」

「料理ならまかしておきな」


 そういいながら、コカトリスのいる谷間にやってきた。

 コカトリスは谷の中央に陣取っており、道が通れない。

「それじゃ、行ってきますね」

「え? 一緒じゃ……」

 

 タンッ


 キンッ


 ボトッ


 コカトリスは頭を落として倒れた。

 瞬殺だった。

 まず『瞬光』スキルで近づき、次に『剣聖』スキルで首を落とした。

 

 ベスはまだあっけに取られている。

 私は気にせず『空間収納』スキルにコカトリスの体を収納した。

 それを見て、さらに目が点になっていた。

「ベス、終わりましたよ。行きましょう?」

「ああ、す、すごいね。想像以上だよ」

「それはどうも。鍋が楽しみですね」


「ああ、帰ろう」


ベスティのイラスト

https://kakuyomu.jp/users/ahootaaa/news/16817330664099382164

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