第3話 いくら寂しくても無理なものはムリ
さみしい……。
天界では恵まれていたな。
好きな友達や、苦手でも声をかけてくれる女神。
上司の男神……。
ひょっとして、私はあそこからアーサーさんを眺めているだけで幸せだったのかもしれない。
整った環境で推しを眺めているだけで……。
でも、後悔はしてない!
私がやらなかったらアーサーさんは堕落してしまう。
彼のことだから、『ピュア』のスキルを悪用して自堕落な生活を送るはずだ。
それだけはなんとしても回避しなければ。
アーサーさんと合流することを第一目標としましょう。
それからのことは後で考えるとして、ここはどこなのか?
よく頭を働かせるんだ。
あ、見覚えがある。
たしか、こっちに小さな村落があったような。
しばらく歩くと村落があった。
(ここでしばらく情報収集をしましょう)
ちなみに、服装は女神のムダにセクシーな服装ではなく、旅装になっている。
フレイザの餞別だろう。
苦手だったが、いい女神だったのかもしれない。
「こんにちは。私はアステリア、旅の者です。少し滞在させていただけないでしょうか?」
「別にいいだども、ウチの村にゃ、なんにもないべ?」
「ええ、少し滞在させてくれるだけでいいんです」
「うんだ。ぞじだら、ウチさくるといいだ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
名前は教えてくれなかったが、小汚いおじさんの家に泊めてもらえることになった。
ここのところ野宿が続いて、ゆっくり休めていない。
もちろん、たくさん持ってきたチートスキルのおかげで疲れは溜まっていないし、まったく困らなかったが、屋根のある家で安心して休めるという行為が魅力的であった。
おじさんの家に着くと、雑魚寝だったが、すぐに眠ってしまった。
眠りについてどれくらいの時間がたっただろうか?
スキルが発動している。
『危機管理』スキルだ。
危険が近づくと警鐘が頭の中で鳴る。
このスキルのおかげで野宿も安心してできた。
しかし、今はおじさんの家の中。
スキルが反応するとしたら対象は一人しかいない。
そう、おじさんだ。
「若ぇおなごだな。肌が気持ちええ。ずっと触ってたいなぁ」
そう言いながらおじさんは私の二の腕をずっとさすっていた。
ぎょっとしながらも、一宿一飯の恩もある。
「ちょっと、やめてくれませんか? 私はそういうつもりはありません」
「すこじくらい、ええだろぉ? 気持ちええごどしようやぁ」
え、マジでムリ。
本気で気持ちわるい。
『剣聖』スキルで手刀を発動する。
音速で放たれる手刀をおじさんの首筋に食らわせる。
激しく脳が揺さぶられたおじさんは崩れ落ちる。
「ふう、これで安心して休めますね」
それにしても下界怖すぎる。
野獣に、魔物に、おじさん。
怖すぎる。
しゃべるだけにおじさんが一番怖かった。
その後はゆっくり眠った。
おじさんは翌朝、首の調子が悪そうだったが、何も言わない。
もちろん私も何も言わない。
無言で朝食をとり、その村落を旅立った。
当初、どこにいるのかわからなかったが、村落についてわかった。
ここはアーサーさんのいるサリューム王国の隣の国、レイサーム王国だ。
この国の国土は非常に広く、歩いてサリューム王国へ行こうと思えば3年はかかる。
そして、厄介なのは、この国は現在帝国化に向けて、周辺国家と紛争を続けている。
そして、この紛争が最終的には世界の崩壊へと導く原因であると神達は予想している。
アーサーさんより先に世界の崩壊の最先端に到達してしまったのだ。
私はアーサーさんに勝手に英雄を重ねていたが、だれが解決してもいいならチートガン積みの私がクリアすることもやぶさかではない。
そして、平和になった世界でアーサーさんと結ばれるのも悪くない。
そんなことを考えるとニマニマしてしまう。
そうか、今のアーサーさんは王子として生まれている。
結婚するにはそれなりの地位が必要だ。
そうなれば、隣国の有力者となれば、可能性はあがるはず。
ここで、騎士爵の一つでも手に入れてそれをネタに近づけば、結婚は難しくても近くで見守ることくらいはかなうのではないだろうか?
これだ!
これしかない!
この窮地を逆に利用しよう。
「よし、がんばろう!」
やる気がわいてきた。
まずは、隣の宿場町まで移動して、宿を取ろう。
騎士になるには冒険者が手っ取り早い。
町へ行けば冒険者ギルドがある。
それを利用して、S級冒険者になろう。
おじさんから二の腕を触ったお代として、馬を一頭分けてもらった。
もちろん『催眠術』スキルで奪っただけだ。
馬に乗り、宿場町をめざす。
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