第15話
ド―ン
建物が壊れる音とともに、ルインとレイチェは刃を交えていた。
【固有名】:レイチェ=ヴァレンタイン
【種族】:真祖ヴァンパイア
【称号】:滅国の吸血姫
【レベル】:9,999
【スキル】
《真祖》
ヴァンパイアの真祖がのみが持つ。
「鮮血魔法」:血を操ることができる。
「真祖の妖香」:他の生物を魅了しやすくなる。特にヴァンパイアに対して有効。
「鮮血の衝動」:血を浴びるごとにステータスが2倍ずつ一時的に上昇する。最大十六倍。
「眷属召喚」:低位のヴァンパイアを召喚できる。
《滅国の双姫》
双子の姉妹が持つ。
「滅国への
「
さすがというべきだろうか、今まで出てきたものの中でトップクラスに強い。
特に《滅国の双姫》というスキルが厄介だ。
レジスト可能とはいえ強制死亡と普通に強いステータス上昇、どれ一つとっても最強クラスである。
だからこそルインたちはレイチェとミイシェを無理やり分離させた。
ある程度二人の距離が離れればこのスキルは使えない。
もちろん一言に離すといってもルインたちみたいに十分な実力がないと不可能な話である。
戦いは地面から空中へと場を移していく。
ルインの結晶に対して、レイチェは鮮血魔法で凝縮した血剣で迎え撃つ。
空中で両者がぶつかるたびに激しい爆発が起きる。
結晶と血剣の威力自体はドンドンといってもいいかもしれないが、時間が長引くにつれ無尽蔵に魔力を調達できるルインのほうに少しずつ軍配が上がっていく。
何しろレイチェの鮮血魔法で用いる血は今のところ自身のものしかない。
ヴァンパイアの体質のおかげで迅速に造血されるとしても限界がある。
もちろんもしルインを傷つけることができたならばあふれ出す血を使うことができるが、今の状況を見る限り厳しいものがある。
ちなみに「鮮血の衝動」で必要な血は他人の血に限定される。
一応レイチェも火炎魔法が使えるが、誰でもルインみたいに魔力を結晶に凝縮できるわけではないことに加え、火炎魔力を操れるルインに対して火炎魔法を使うこと自体自殺行為である。
戦いの最初にレイチェは火炎魔法を使って様子見していたが、魔法が自分に向かって帰ってきたのを見てから火炎魔法を使うのをやめた。
レイチェが押され始めると、この情勢を打破すべくレイチェは眷属を召喚する。
ルインのおびただしい攻撃のなか、召喚できたヴァンパイアはさほど多くもないが、それぞれルインの結晶を数発防ぐくらいの能力はある。
もちろんルインがエンチャントを使わない前提ではあるが……
眷属が攻撃を防いでくれたおかげで、攻撃の合間を縫ってレイチェは血剣を手にルインのほうに詰め寄る。
見た目と反してレイチェは魔法だけでなく、近距離戦闘も得意である。
「ほう、われに剣技を挑むか」
そういうとルインは収納指輪から大剣を取り出す。
源初の一角として、ルインはもちろん遠距離だけでなく、近距離戦闘もできる。
むしろ大剣を使ったほうがよっぽど強いのである。
普段使わないのはただ体を動かすのがめんどくさいのと、使うに値するような敵がいないからだ。
大剣自体はトヴァが適当に作ってルインに渡したものだが、『創世』であるトヴァ出品のものだけあって少なくともエピック級はある。
レイチェの攻撃に対してルインは大剣を持つ片手で防ぐ。
ぶつかり合う力によって生み出した衝撃はが古城周りの環境は程ごとく破壊する。
しばらくせめぎ合っていた二人だが今度はルインが大剣に力を込めてレイチェを激しく飛ばす。
急いでレイチェは空中で姿勢を整えるが、すでにルインの刃はレイチェの首に差し掛かろうとしていた。
あまりにも早いその攻撃を前にレイチェは「真祖の妖香」を発動する。
レイチェの体から魅惑的な香りがあふれ出す。
もちろん破滅の権能を持つルインはそれを一瞬で分解してしまうが、レイチェは一瞬の隙を作ることに成功した。
その隙を利用してルインの攻撃軌道上に血剣を生み出し、何とかルインの刃を防ぐことができた。
しかしそのあまりにも重たい攻撃によってレイチェは再度吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「そろそろ降参する気になったか」
ルインは静かに空中で地面を見つめる。
煙が収まると視界の前にはボロボロになったレイチェが現れる。
華麗な服はところどころ穴が開き、ぐちゃぐちゃになった髪、肌からあふれ出す鮮血、何とか立っているその姿がレイチェの状態がよくないことを表している。
終始余裕な姿でいるルインと違って、レイチェは今にも倒れそうにしている。
実際のところルインは最初から本気でレイチェの相手をしていない。
たとえレイチェの能力がいろいろと制限されていなくとも、もし本気を出していればここまで戦闘は長引かなかっただろう。
「…ルイン…おわった?」
フィーが飛んでルインの隣までやってくる。
「悪い、もう少し待ってくれ」
ルインがフィーの頭をなでながら言う。
ルインと違ってフィーはミイシェに対して少しも手加減をしなかった。
それも相まって戦闘が始まって早々にミイシェの後ろに回り気絶させた。
もちろんそれはミイシェが弱いわけではなく、フィーが強すぎるからである。
源初の中でもルインとフィーは戦闘力という面では頭一つ抜けている。
攻撃力と速度に全振りしているため、たとえルインとフィーを除いたほかの源初全員と戦っても可能性は高くないが勝利できるくらいには強い。
そんなルインたちだがたとえ今の実力が本来の実力と天地の差があったとしても、その気になればレイチェたちを秒殺することだって可能である。
「…ミイシェをどうしたのですか」
絞りだしたかのような声でレイチェが問いかける。
「…あっち…」
フィーが森林の中の一か所に指をさし、その先に気絶しているミイシェが見える。
それを見てレイチェは逃げようとする考えをやめた。
実際のところルインに勝てないとわかった時点で逃げようとはしたが、ミイシェの状態がわからないうえにルインが逃げる機会を与えなかったせいで今まで逃げれずにいた。
それが今ミイシェの状態を見て、なおさら逃げようとすることをあきらめた。
「どうしたら…見逃してくれますか」
ミイシェを殺さなかったことや自分に対しても殺す気がないことを見る限り、レイチェはルインたちはきっと何か自分たちに求めるものがあると予想する。
つまりまだ相談の余地がある。
「今、貴様らの目の前には二つの選択がある。従属か死か」
ルインがレイチェを見つめながら言い放つ。
それを聞いてレイチェの顔に苦い表情が浮かぶ。
ヴァンパイアの真祖ではあるが魔族の一員として強者に従えること自体に嫌悪感はない。
しかし、封印から解放されて間もないのにまた自由を制限されることを考えるとさすがにすぐには受け入れられることではない。
「…わかりました、ご主人様。これからわたしとミイシェはあなた方に従います」
いくらいやだとしても命をなくすよりかはましであるに加え、封印されていたころよりは自由であることを考えれば別に受け入れられないことでもないかもしれない。
そう考えると覚悟を決めたのかレイチェはルインたちに答える。
その答えを聞いてルインたちも心の中でほっとする。
もしレイチェが同意しなかったらルインたちは躊躇なく殺すだろうが今回の目的である二人の従属が達成できない。
正直目的を達成するためならたとえレイチェが許容範囲内で一つや二つくらい条件を出してもルインは妥協する。
なぜならレイチェは先ほどの戦いでそれほどの価値を示せたからだ。
先ほどの会話からは全く感じ取れないが一応ルインはすべて力で解決しようとする人ではない。価値あるものには(ルインが思う)それ相応の対応をする。
「よい。われの名はネアス」
「…ルリィ」
「少し回復する時間を与える。その後はわれらについてくるがよい」
レイチェたちの回復力はかなり高いので、短時間で全回復するまではいかないが動ける程度には余裕でできる。
ミイシェは起きてレイチェから状況を伝えられた後、少し驚いたがすぐに受け入れることにした。
強者に従うことは別に悪いことじゃないのに加え、そもそも反抗しようにもその力がないから黙って現実を受け入れることにした。
そのまま両者ともほぼ回復できたのを確認して、ルインたちはもはや原型をとどめていない古城から離れて帰路につき始める。
帰るときは来た時とほとんど変わることなく魔物を屠りつつ無事ダンジョンから出ることができた。
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