第14話

 しばらくすると、ルインたちは特に滞ることなく古城にたどり着くことができた。



 古城の近くまで来ると周りは蝙蝠の羽ばたく音と枯れ木のかすれる音しか聞こえず、先ほどと比べてさらに陰森凄幽な感覚が増す。


 頭上の月がさらにその怪訝さを引き立たせている。


 

 古城の入り口の前に立つ。


「準備はよいか」


「…ぅん」


 ルインたちは少し気を引き締めてドアに手をかける。


 ドアは力が籠められるとすんなりと左右に開いた。


 

 予想と違って、寂れた外見とは裏腹に古城の内部は外界と隔絶したかのようなきれいな状態が保たれていた。


 中には広いエントランスをはじめ、その両端から階段が伸びており、ところどころに踊り場らしきものも存在している。


 階段の中央の壁には一家四人の肖像画が飾られており、おかしなことに両親らしき人物の顔が黒く塗りつぶされている。


 

 中は当然ながら人どころか、魔物すらいない完全な無人状態である。


 しかし、外にいた時と比べて中の雰囲気がよっぽど恐ろしく感じる。



 ルインたちは足を中に踏み入れる。


 その瞬間外来者の到来を察知したのか、古城の内部が白い霧によって包まれ始める。


 しばらくすれば濃い霧があたりを埋め尽くし、視界が奪われる。



「とりあえず部屋を一個ずつ探すとしよう」


 外の黒い霧と違って、中の霧はただ濃いってだけで体に害はない。


 一階の端から探索を始める。


 一階の部屋数自体はそこそこ多いのだが中を開けてみるとほとんどは基本的な家具だけ置かれており、人が暮らした跡が見受けられない。


 階段を上って二階を探索する。


 二階に上がると、一階と違って二階の部屋は四つしかなかった。


 よく見てみると一つの部屋から白い霧がすごい勢いで湧き出ていることがわかる。


 二人は部屋の前に立って、互いに少し見つめ合ってからドアノブに手をかけた。


 ドアを開けた先には見る人だれもが震えあがってしまうような醜い化け物が……いるわけもなく、ほかの部屋と同じように誰もいなかった。


 しかし、ほかの部屋と違っておかれている家具は明らかに豪華なものとなっている。


 おそらくこの古城の主人の部屋だろう。



 そして、肝心の霧の出ところに目を向けると、部屋の中央付近に水晶玉のようなものがあり、霧はそこから出てきているようだ。


 ルインがそれに近づきそれを持ち上げると、すぐさま水晶玉は霧を放出するのをやめた。


 しばらく観察してみたが、普通の水晶玉でないことはわかったがどう使うのかはわからなかった。


 持ち帰ってこういうのが得意なクレアとトヴァに任せようと水晶玉をしまおうとしたとき、ルインとフィーはふと部屋のベッドの上にぬいぐるみが二つ置かれていることに気づく。



 ルインがそれぞれ白髪と黑髪をしたぬいぐるみを手に取る。


 ぬいぐるみはとても精巧に作られており、縫い目一つなくまるで人をそのままぬいぐるみにしたかのような出来だった。


「…ぬいぐるみ…つよい?」


 フィーが頭をかしげながら言う。


「おそらくこれが目当てのものだろう」


 ぬいぐるみに近づいた時から、ルインたちは古城の外で感じた気配がぬいぐるみから放たれていることに気付いた。


 予想していたもっと儀式らしい封印方法ではなく、随分とかわいい封印方法だなとルインは思ったがこれなら簡単に封印が解けそうだとも思う。


「封印を解くにはおそらく……」


 ルインが水晶玉を持ち上げてそのまま地面にたたきつけると、水晶玉は割れて中からまぶしい光が部屋の中を埋め尽くす。

 


 ルインたちには効いていなかったが水晶玉から出ていた霧には魔族を抑制する効果があった。


 ヴァンパイアは魔族の一種ではあるので魔族が助けに来ることを防ぐためのものだったと予想される。




 光が収まると部屋の中に女の子が二人増えていた。


 背中から生えている漆黒の翼と深紅の瞳、口元からわずかに姿を見せている牙が二人がヴァンパイアであることを証明している。

 

 漂う気配からしてかなりの強者であることが予想できる。


「あなたたちが封印を解いてくれたのですか?」


 黒髪のほうのヴァンパイアからルインたちに声をかける。


「そうだ」


 少しも慌てることなくルインが答える。


「これは失礼しました。わたしはレイチェ、隣はミイシェです」


「ミイシェです」


 二人のヴァンパイアが胸に手を当てながら丁寧に挨拶する。


「そうか。ところで貴様らはこれからどうするつもりだ」


 二人のヴァンパイアは互いを少し見つめ合う。


「わかりません。しかし……とりあえず目のまえの血を吸ってから考えることにしまう」


「…」


「そうか、ならば来るがよい!」


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