第12話
次の日、最終日ということであさから闘技場は人々であふれかえった。
「あら、面白いものをやってるね」
席に座っていたゼーレンが面白いものを見つける。
決勝戦ということで、今日は今までになかった優勝予想というものを始める人がいた。
ルールは簡単でクレアかセクトのどちらか一方にお金をかけて、勝者側に賭けた人が掛け金に応じて敗者側に賭けた人の掛け金を分けるというものである。
セクトはSランク冒険者として民衆からの信頼が厚いが、クレアが見せた実力もかなりのもので、今のところ両者の掛け金はトントンといったところだ。
お金はトヴァとクレアがいる時点でもう困ることはないが、クレアへの応援としてかけてみようと思い、ゼーレンは席から立ち上がり、クレアのほうに白金貨を一枚かけた。
その行動にほかの人は驚く。なぜならほかの人はせいぜい銅貨や銀貨、多くて金貨で賭けているのにもかかわらず、ゼーレンときたらいきなり白金貨である。
これではクレアに賭けたとしてもほとんどの金はゼーレンがもらうことになる。
これに対してほかの人はもちろん不満をあらわにするが、別にゼーレンが何かいけないことをしたわけでもないため、黙るしかない。
ゼーレンがそんな人々を気にするわけもなく賭け終わったあとすぐに席のほうに戻った。
ちなみにゼーレンが賭けたあとほかの人はほとんどセクトに賭けている。
理由はクレアに賭けてもうまみが少ないなら、セクトに賭けて儲かりたいと思った人が大半だからだ。
しばらくするといよいよ試合が始まる。
闘技場の上にはすでにセクトとクレアが立っていた。
「おじさんが勝つことはないけど、もし勝ったらなにをおねがいするのー?」
クレアはお願いの参考として興味津々に対面に立つセクトに質問する。
「そうだな。ハデス様に手合わせをお願いするさ。」
セクトは嫌な顔一つせずにクレアの質問に答える。
Sランクまで昇りつめたセクトにとって興味があるのは強者との戦闘だけだ。
その点において同じSランクであるハデスと手合わせをしたいと思うのはおかしなことではない。
ただ、そのためだけにハデスに願いを使うのは珍しいだろう。
「かなうといいねー」
それ以上二人の会話が続くことなく、司会の声とともに戦闘の幕が開かれる。
まずはクレアから仕掛ける。
魔力によって強化された体は一瞬にしてセクトの前に現れ、強烈なこぶしがセクトに向かって放たれる。
その一撃はアランの焔炎の剣よりはるかに速く、強い。
これまでの選手は誰もがこの一撃によって退場を余儀なくされた。
こぶしがセクトにあたる直前、素晴らしい反応速度のおかげでセクトは何とか盾を体と拳の間に入れることに成功した。
「くっ」
重い。
体中から骨が砕ける音がする。
今までの選手は誰もがこの一撃を耐えきることがなく場外へと吹っ飛ばされたが、セクトは何とか数メートル後ずさりながらも踏みとどまることができた。
しかし、今までの選手と違って真正面からその一撃を受けたことによってその体は今にも崩れ落ちそうなくらいになっていた。
「凄まじいな…」
口元からあふれ出す血を手で拭きながらセクトはつぶやく。
幸いなことにセクトは不動の盾を発動していない。
でないと今頃死んでいたのだろう。
クレアの一撃を受けた盾はその圧倒的な力に耐えきれなくなったのかばらばらに砕ける。
その一幕に周囲からざわめきが聞こえ始める。
何しろ割れたのは普通の盾ではなくエピック級の盾だ。
アランの一撃でさえ耐えた盾がクレアの一撃によって砕けた、その事実がセクトを含めたほとんどの人を驚かせる。
そして、少し頭のいい人はクレアにエピック級の装飾品があって、それによって強化されたからセクトの盾を砕くことができたと推測する。
装飾品は武器と違って身に着けているだけ持ち主の能力をアップすることができる。装飾品のレアリティ区分は武器と同じだが、数は圧倒的に装飾品が少ないため、人によっては武器より重宝する。
もちろんクレアにエピックの装飾品があるわけもなく、あったとしてもエピックの装飾品では同じエピックの盾を砕くことはできない。
せめてレジェンドレベルのものでないと無理だ。
もし数日前のクレアであれば、この本人曰くかなり手加減をしているパンチによってセクトはこうならなかったのだろう。
前に言ったようにスキルは使えば使うほど上達する。
数日前のクレアであれば魔力へのコントロールは今には遠く及ばないだろう。
だが、圧倒的な才能によってたったの数日でクレアは聖光魔力への支配を完璧なものにした。
それはどれほどのものかというと聖光魔法であれば相手の魔法でさえ自由に操れるくらいだ。
「おじさんだいじょうぶー?」
クレアはセクトのほうに歩み寄る。
「ああ、さすがだ。その実力であればSランク…いやSSランクにも及ぶだろう。今まで無名だったことが信じられないな。だが…」
そういうとセクトの体から光があふれ出す。
光が収まるとセクトは受けた傷がなかったかのようにそこに立っていた。
【固有名】:セクト
【種族】:人間
【称号】:不動要塞
【レベル】:450
【適正属性】:大地
【スキル】
<不動>
「不動の盾」:防御力を大幅に上昇させ、ダメージの一部を跳ね返す。被ダメージが許容上限を超過したとき、被ダメージが10倍となる。
「不動の意志」:ダメージ、状態異常を全回復する。(クールタイム:1か月)
クレアの目にはこれが映っていた。
【固有名】:テルティマ=クレアール
【種族】:源念
【称号】:創世
【レベル】:測定不能
【スキル】
《源念》:ミメーシス
源初だけが所有する固定スキル。
「源初の理」:すべての生の上に立ち、そのすべてを知る。
「魔力支配:聖光」:聖光魔力を支配できる。
《創世》:ミメーシス
あらゆるものを創造できる。『創世』の名を冠するものだけが所有する。
「創世の理」:あらゆるものを創造できる。
「創世招来」:創世<クレアール>を召喚できる。
レベルというのはこの世界独自のシステムであり、魔物を倒したときに手に入る経験値によって上昇する。
魔法やスキルの差はあるけど、基本的にレベルが高い人はその分身体能力が高いので強いと考えていい。
クレア含める源初は経験値のもとである魔力を操作できるため、レベルはどれくらい魔力を吸収するかによって変動する。
クレアは源初の理によって、セクトの情報を読み取る。
先ほどの状況を見ると、おそらくセクトは不動の意思を使ったのだろう。
とはいえセクトの状況がよくなったかと言われればそうでもない。むしろさっきより悪くなったと言っていいだろう。
傷が回復したとはいえ、盾が壊れたことによって自慢の防御力が大きく減少した。
この状況下でクレアの攻撃に耐えられるかとなると絶対に無理である。
「おじさん面白いスキル持ってるねー」
セクトのスキルに興味を示したが、クレアはその足を止めることなく詰め寄る。
詰め寄るクレアを見てセクトは自分の敗北を察したが、それでも立ち上がる。
盾がなくてもまだ槍がある、鎧がある。
クレアに一矢報いようとセクトは両手で槍を繰り出す。
繰り出させた槍を見てクレアは避けることもなく、片手でその槍の先端を捕まえる。
セクトの槍はかなり速かったがクレアからしてみればスローモーションに見えるほどに遅い。
それにあたっていたとしてもクレアにダメージを与えることはできないのだろう、こうして先端をつかんでいるのにもかかわらずクレアの手から血が一滴も溢れていないのがその証明だ。
そのままクレアは手に力を籠めるとつかんだ槍は破片となる。
その光景にセクトは一瞬とまどったが、次の瞬間に腹部から凄まじい衝撃を感じその体が宙を舞う。
攻撃からセクトを守ったその鎧は一瞬にして砕け、セクトは落下した衝撃でそのまま意識を失った。
終始圧倒的だった試合に観客はしばらく呆気に取られていたが、少しすると観客席のほうから盛大な歓声が聞こえてくる。
セクトを倒したことによってクレアは予想通り一位をとることができた。
「恐ろしいな…」
貴賓席にいるハデスがつぶやく。
ハデスはクレアが今まで一撃で相手を倒してきたのは最初から持ちうるすべての力を一撃に集めていたからだと思っていたが、先ほどの試合を見ると十分の一でも出していればいいほうだ。
試合が終わった次は表彰式だ。
なお二位のセクトはいまだに意識を失ったままなので欠席している。
よく考えればセクトは今回かなりのものを失った。
槍はともかく、エピック級の鎧と盾はなかなか手に入らない。
おそらくしばらくの間セクトの実力は大きく下がるだろう。
「今回のトーナメントは実に見事であった・・・・・・
主催者側の領主アルクとハデスが選手たちに労いの言葉をかけ終わるといよいよ賞品を渡す段階に移る。
上位5位まではアルクから少なくない金額をもらい、上位3位はそれに加えエピック級の装備品を領主の名義で作成を依頼できる権利をもらった。
「願いは考えたか?」
ハデスがクレアに問いかける。
1位であるクレアはすでにもらった賞品に加えハデスから願いを一つかなえてもらえる権利を持っている。
「んー おじさん騎士団長だよね、じゃあ騎士団がほしい!」
クレアは笑顔のままハデスに向かって言う。
「わるい、それはできない。俺を含め騎士団は王にしか忠誠を誓わない。それはたとえ騎士団長であっても変えることができない。しかし騎士団に入ることを約束すれば数年で俺と同じ騎士団長にすることを保証しよう」
もちろんクレアはそれを受け入れるわけがない。
何を保証に騎士団長にしてくれるのかわからないし、クレアの実力をもってすれば騎士団長なんて一か月もかからないだろう。
クレアはほんの少し気を落とすが、特にそれ以上迫ることなく引き下がる。
クレアは最初、騎士団を手に入れれば自分たちの勢力を築くことの助けになると思っていたが、絶対的な忠誠が誓えないとなると話は別だ。
絶対的な忠誠じゃないなら絶対忠誠じゃない、これがクレア含める源初たちの考えだ。
「じゃあおあずけしてもいいー?」
「そういうことなら思いついたときに会いに来たらいい。しばらくはこの街にいる」
この後アルクが閉会の言葉を述べるとトーナメントは無事に幕を下ろした。
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