第11話

次の日、今日も朝早くから試合が始まっている。


 昨日と違うことは十人の殺し合いから一対一のトーナメントになっていること。


 昨日と同じことは今日もルインたちは二度寝をしたこと。二度寝は気持ちいいぞ。



 闘技場は一つしかないので一試合ずつするしかなく、八名からチャンピオンを決するためには七試合かかることを考えると今日中に終わるかどうかは微妙なところ。



「これより今日の第一試合を始める」


 司会の声とともに今日の試合の幕が上がる。


 

 今闘技場で戦っているのは「絶剣」と呼ばれるSランク冒険者のアランと「不動要塞」の異名を持つ同じSランクのセクトが戦っている。


 両者ともにSランクということで今回のトーナメントの優勝最有力候補として決勝戦で勝負を決すると予想されていたが、まさかこんなに早く当たるとはだれも思わなかったのだろう。



 「絶剣」といわれるだけあって、アランの武器は剣である。


 もちろん普通の剣のわけもなく、見ただけで少なくともエピック級はある。


 ちなみに武器のランクはコモン < アンコモン < エピック << レジェンド <<<<< ミシックである。


 コモンはそこらへんに転がっている武器で、ミシックは伝説上にしか存在せず、レガリア帝国の国宝であるものでさえレジェンドである。



 「絶剣」が先に仕掛ける。


 魔力を宿した剣が「不動要塞」に振り落とされる。


 もちろん「不動要塞」もただ立っているわけもなく、その手に持っている重厚な盾でしっかりとその剣を受け止める。


 「不動要塞」であるセクトの武器は左手に持つ盾と右手に持つ槍である。


 槍のほうはアンコモン級にとどまっているが、盾とその身にまとう鎧はどれもエピック級である。



 二人はしばらくの間互いに一歩も引かずに差し合う。


 エピック武器の数で有利を持っているセクトだが、どんなに防御が高くても、攻撃する手段がなければ殴られるだけである。


 セクトは見た目からして防御力のためにスピードを捨てているタイプなので、攻撃とスピードを兼ね備えているアラン相手だと相性が悪い。


 セクトが繰り出す槍はアランに触れることなくただ宙をかすめる。


 反対にアランの攻撃は簡単にセクトにあたる。


 もちろんセクトの防御力もあって簡単にはダメージを与えられないが、このまま続いたら間違いなくアランが勝利を収めるだろう。


「大地第三章ロックシールド」


 岩石の盾が迫りくるアランの攻撃を遮る。


 ロックシールドは章典魔法のなかの大地第三章であり、その名の通り岩石の盾を召喚する魔法だ。


 召喚された盾の大きさ、強度などは使い手の実力次第である。


「大地第二章ストーンバレット」


 アランのほうにセクトの攻撃が迫る。


「火炎第二章ファイアランス」


 対するアランも魔法を繰り出し、セクトの攻撃を打ち消しながらセクトのほうに近づく。




 アランの速度は速く、一瞬のうちにセクトの前にたどり着く。


 そのままセクトのほうに向かって攻撃を繰り出す。


「焔炎の剣」


 業火をまとった剣がセクトにめがけて振り落とされる。


 周囲の空気がその凄まじい熱量によって揺らぎ始める。


 アランの天賦スキルであるこの技は周囲の火炎魔力を剣に集結させ、自身の出せる力を上回る究極の一撃を放つ技である。


 ただしデメリットとして連続で放つことができないのと、使ったあと少しの間衰弱状態に入ることだ。


 つまり、アランはこの一撃で勝負を決するつもりでいる。

 

「不動の盾」


 セクトももちろんそのままのわけもなく、盾を前にスキルを発動する。


 不動の盾はセクトの天賦スキルでその効果は自身の防御力を大幅に上昇させ、受けた攻撃の一部を相手に跳ね返すというもの。


 アランと違って、盾さえあれば常に発動し続けることができるが、攻撃を受けきることができなかったら、受けるダメージが十倍になるというかなりリスクの高いものになっている。


 そのためセクトは常にこのスキルを使っているわけもなく、緊急時にしか使わない。



 アランの剣とセクトの盾がぶつかる。


 剣と盾の間に凄まじい魔力のぶつかり合いが起こり、その余波が周囲に及ぶ。



 この一撃、セクトは何があっても受けきらないといけない。


 アランがたとえ防がれてもせいぜい試合に負けるだけの話だが、セクトの場合はアランの攻撃が十倍になって襲い掛かってくる。


 どう考えても死ぬ。



 二人はそのまましばらくせめぎあったが、すぐにアランの剣の炎が消え、セクトは見事にその一撃を防ぎきることができた。


 セクトはアランの一撃を防ぐとそのまま盾を手放し、両手で槍をアランに刺しだす。



 その攻撃はアランも想定外だったらしく、ただでさえ衰弱状態になっていることに加え、攻撃の後隙であるためすぐに体を動かしその槍を避けることは難しい。


 そのままセクトの槍はアランの腹部を貫く。


 幸いなことに急所ではなかったため命に別状はないが、これ以上戦うことはできないだろう。



「降参だ」


 腹部を抑えながら苦痛な表情でアランは言う。



「第一試合は「不動要塞」セクトの勝利である」


 審判は素早く試合の勝敗を宣言する。


 それに対してセクトは特に何か言うこともなく静かに舞台下に降りて行った。


 アランのほうというとすぐに医務室に行く羽目となった。



 自信過剰。それが源初たちがアランに対する評価だ。


 確かにセクトの防御は目を見張るものではあったが、アランの実力であれば簡単に勝てていただろう。


 アランはセクトに対して終始その防御を正面から破ろうと考えていた。


 そのため最後にセクトに対して勝負を仕掛けた。


 だが、よく考えてみれば二人の相性的に、アランのほうが圧倒的に有利である。


 一方は攻撃ができて素早い、一方は防御力は高いが行動が遅い。誰がどう見てもどっちが有利かわかる。


 もし最初からセクトの防御を破ろうとせず、おとなしくセクトの防御の弱い関節部などの場所を狙えば短時間で勝てただろうし、それができなくとももう少し時間をかけてセクトの体力を消耗させてから勝負を仕掛ければ結果は違っていただろう。



 普段からパーティで行動しているアランにとって、一人でここまで考えるのはむずかしいのかもしれない。





「さすがだ」


 ハデスは来賓席でつぶやく。


 アランとセクトの試合を見てハデスはぜひともセクトを騎士団に招き入れたいとひそかに心の中で決める。


 本当のところは両者とも招き入れたいが、冒険者ギルドとも付き合いも考えれば一人が限界だろう。


 別に騎士団に入れば冒険者ギルドをやめないといけないということはない。


 実際ハデス自身もSランク冒険者である。


 しかし、今のハデスと同じように騎士団に入ればギルドからの依頼をこなす時間がかなり限られてくる。


 そのせいもあって、有力なSランク二人を騎士団に招き入れるのは冒険者ギルド側からしたらなかなか許せることではない。


 ちなみに冒険者のランクはDからはじまり、SSSランクまである。


 また、実力がほかのSSSランクを大きく上回っていると判断されれば特別にXというランクが与えられるが、今のところXランクの人はいない。




 残りの三試合は特に面白味もなく、クレアに至って始まった瞬間に相手を舞台下に蹴り飛ばした。


 そして、セクトの次の対戦相手は第二試合で勝ちあがた選手、ボブである。


 ボブはアランと比べるのがかわいそうなくらい弱い。


 ここまで勝ち上がれたのは強い選手がアランやセクトによって初日で淘汰されたため、強い選手と当たらなかったからだ。


 案の定ボブではセクトの防御を破るすべなどなく、逆にセクトの槍の横薙ぎを正面から受けてそのまま舞台下に落ちてしまった。



 一方でクレアのほうも特に懸念もなく、開始一発のこぶしで相手をぶっ飛ばす。


 一応相手はボブと違ってAランクの冒険者ではあるが、クレアからしたらあんまり変わらない。


 それほどまでに源初たちが持つ固有スキル、魔力支配が強い。


 空気中の魔力を操作できるとなれば、無尽蔵な魔力を手に入れることと等しい。


 クレアは今身体強化にしか使っていないが、それだけでも十分である。




「また一撃か」


 ハデスは来賓席でクレアのことを見つめる。



 クレアの試合はどれも一撃で勝敗を決している。


 そのことはもちろんハデスの目にも止まっていた。


 ハデス自身でさえも一撃でAランクの相手を倒せるかと聞かれたら間違いなく無理だと答えるだろう。



 ハデスはクレアのことを部下に調べるように命令したがもちろん何か成果が出ることはなく、ただ近日この街に現れたことだけわかった。


 おかしなことに城門のほうに入城した記録はないが、おそらく城壁を飛び越えてきたのではないかとハデスは予想する。


 ある程度の実力を持っていると城壁くらい簡単に飛び越えられる。


 実際のところ城壁は人間ではなく魔物の進行を阻止するためのものである。



 何はともあれ実力はかなりのものであることは確かなのでハデスは身分を確認したのちにセクトと同じように騎士団に招待しようと思っている。


 幸いなことにクレアは冒険者ギルドに登録されていないので冒険者ギルドに配慮せずに済む。


 

 そのまま今日の試合は終わり、闘技場から続々と観客と選手が出ていく。

 



「おいしいー!」


 宿に戻った源初たちはご飯を食べていた。


「そういえば、ハデスに何をお願いするか考えた~?」


「ううん、なんもかんがえてないよー」


「その時に考えたらいんじゃないかしら」


「とはいえこれといって困っているわけでもあるまい」


「だな」


「余はクレアの好きなようにしたらいいと思うぞ」


「そうね」


「おいしー!」



「明日のことだが、われはフィーとともにすこしやることがある。悪いが試合は見に行けない」


「…ん」


「あら、何をしに行くのかしら」


「それはあとの楽しみだ」


「そう? じゃ楽しみにしとくわ」


「俺様もついて行こうか?」


「必要ない。われとフィーで十分だ」


「がんばって~」





 いつもとそう変わらない雰囲気のなか、静かに今日は終わりを告げる。



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