第10話
次の日、窓から差し込むまばゆい光と小鳥のさえずりが源初たちの目を覚ます。
「おっはようございまーす!」
「朝から元気だな」
「ねむい~」
「二度寝」
クーとシュティは再び夢へと誘われた。
「われ、ねる」
「…うん」
フィーは再びルインの懐の中に潜り込んでともに布団の中に沈んでいく。
「わたしは起きようかしら」
「余もだ」
結局のところ起きたのはクレアとレエン、ゼーレン、トヴァの四人だけだった。
四人とも軽く体を伸ばし、服を着替えた後宿の一階部分に降りる。
宿の一階部分は酒場としての役割を果たしており、宿に住んでいる人はもちろん、そうでない人もここで食事をとることができる。
ご飯を食べ終わった四人はまだ寝ているルインたちに先にトーナメントの会場に行くことを伝え、会場に向かい始める。
トーナメントの開催場所はこの街唯一の闘技場でかなり広く、設備も充実している。
普段は市民に対して無料で開放されており、冒険者たちにとってもとてもいい訓練場となっている。
トーナメントの参加人数が思ったより多いらしく朝から始めることになった。
会場についたゼーレンたちはまず初めにクレアを参加選手の待機場所に送ることにする。
「がんばるんだよ~」
「ふぁいと」
「がんばってね」
「まっかせなさーい!」
クレアは嬉しそうに待機室のなかに入っていく。
ゼーレンたちはちょっと早めに来たということでよく試合が見える場所の席で観戦することにした。
「あら、意外と早くきたわね」
ゼーレンたちが席に座って少しするとルインたちも来た。
「クレアはすでに行ったのか。先ほど少し観察してみたがこれといって注目すべき者はいない。強いて言うならばそこに座っているハデスとやらになる」
「あまり懸念のない戦いになりそうだな」
「そうね」
クレアとほかの参戦選手では違う次元にあるといっても過言ではないくらい実力差がある。
ハデスでさえおそらく相手にならない。
「ひとがいっぱいだー!」
待機室のなかはたくさんの人で埋め尽くされており、今にもやりだしそうな険悪な雰囲気で満たされている。
「お嬢ちゃん、ここはあんたのような子供が来るところじゃないぞ」
入り口近くにいた男がクレアが入ってきたのを見て声をかける。
「なんでー? クレアも出るよー」
「はっ? お前のようなガキが出るのか? やめておけ、ガキだからって手加減すると思うなよ」
「だいじょうぶー おじさんのほうが弱いから」
「はっ、ガキが随分と大口をたたいたな。少し痛い目を見せないといけないようだ」
男がクレアに痛い目を見せようと腕をまくる。
「まて、ガキに本気になるなよ」
男の腕を別の男が抑える。
「ふっ、あとで覚えてろよ」
男二人はこれ以上クレアにかまうことなくどこかに去って行ってしまう。
「よかったねー おじさん。でも舐められるのは嫌だよ」
言葉の冷たさに反してクレアの顔には相変わらず笑顔が浮かんでいる。
そのあと何事もなく試合が始まることになった。
しかし、当初はトーナメントの予定だったが人数が多いため、最初に十人で同時に闘技場に上がり、その中の勝者を一人決めて、ある程度人数を絞ってからトーナメントを行うことになった。
試合は順調に進み、最初の十人から始まり、すでにトーナメントに進出することが決まった人は七人となった。
クレアは最後のグループである八番目の試合に出場することになっており、運がいいことにクレアに絡んできた男もクレアと同じグループにいる。
「では、これより今日最後の試合を始めます。選手の皆さんは入場してください」
司会の声とともに、クレアたちが闘技場に登場していく。
「はじめ!」
戦いの火蓋が切られる。
十人のなかでクレアを除いて誰もが筋肉隆々な男で、すでに互いの武器を用いて戦っている。
クレアもその中に混ざるべく、二人の男が戦っているところに向かう。
二人の男は膠着した戦いを繰り広げていたが、クレアは軽く足で払うだけで二人の体は宙を舞いそのまま場外に落ち、淘汰されてしまう。
一瞬で二人を解決したクレアは勢いをそのままにほかの参戦者のほうに向かう。
クレアのことに気が付いたほかの選手もスキルや魔法を用いてクレアを攻撃するが、それらの攻撃はクレアの周辺二メートルの範囲に入るとその周辺にある障壁によってことごとく防がれてしまう。
あっという間にクレアによって闘技場にはクレアと一人の男しか残っていない状態となった。
その男というのが待機場でクレアに絡んできた男だ。
もちろんこれは偶然ではなく、クレアによってなされた必然である。
男の顔には待機場でクレアを舐めきっていたような表情ではなく、重々しい表情が浮かんでいる。
「お嬢ちゃんやるじゃないか」
男の言葉を返すことなく、クレアはゆっくりと男のもとに向かう。
そして…
会場がざわつき始める。
「おこってるのかしら?」
「だね~」
闘技場の上に目を向けると男は相変わらずそこに立っていた。
しかし、その首から上は赤い噴水となって周りを鮮血で染め上げている。
「て、テルティマ選手の勝利です。」
しばらくすると審判がクレアの勝利を宣言する。
クレアは鮮血で赤く染まった手を払って、笑顔のまま舞台下に降りていく。
このトーナメントにおいて参戦選手を殺すことで責任を問われることはない。
実際前の七試合で何人かの選手が命を落としているが、クレアみたいに誰がどう見ても故意による行動は死に方も相まって観客に与える衝撃が大きい。
ちなみに源初たちの後ろの名前は源初同士でしか呼ぶのを許されていないので、クレアはテルティマの部分だけで応募している。
それと勘違いされやすいのだが、源初たちの名前はほかの人と違って姓や名の役割はない。
「みんなー かったよー!」
「お疲れだ」
「ご苦労であった」
「明日の試合もがんばるんだな」
源初たちが皆それぞれにねぎらいの言葉をかける。
闘技場の上での出来事は聞かない。
クレアは怒っていた。
この事実さえわかればその男は万死に値する。
「じゃあかえろ~」
「ごはん!ごはん!」
クレアはどうやら完全に食いしん坊になった模様。
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