第7話
「気持ち~」
クーが宿のベッドに倒れこむ。
夜も明け、すっかり朝になったことで源初たちは無事に宿を見つけることができた。
宿の場所は町の中心からある程度離れており、どちらかというと城壁に近い場所に位置している。
「では情報をまとめるとしようか」
「もうちょっとゆっくりしてからにしな~い?」
「うん」
クーとシュティが頭をベッドに埋もれさせながら言う。
「しっかりするんだな」
「ではクレアとトヴァから言ってもらえるか」
「ごはんがおいしかったー!」
「その通りだ」
「……うん、感謝する」
「相変わらずだね」
「じゃあ次は俺様たちだな」
そのあとルインたちは得られた情報を共有し始める。
まとめるとこの世界には二つの力がある。
一つは魔力である。この世界の人間は空気中の魔力と自身の魔力の周波数を合わせることにより章典魔法と呼ばれるものを使うことができる。
章典魔法は先人の知恵により魔法を各属性ごとに十段階に分け、上に行けば行くほど威力が強く、習得するのが難しくなる。
ルインが作り出す結晶も魔法の一種ではあるが章典魔法には属さない、いわゆる外界魔法と呼ばれるもので章典の世界に属さない外界であるというのが名づけの理由である。
外界魔法は完全に才能の域であり、強さの基準も曖昧で有名なところでいうと空間魔法や時間魔法になる。
普通の人は章典魔法だろうが外界魔法だろうが、魔法を使うためには自身の魔力と空気中の魔力を共鳴させる必要があり、かなり精神力を消耗するため魔法を連発することは難しい。
それに対し、源初たちは空気中の魔力を直接行使できるため魔法を連発することができる。
もう一つの力はスキルである。この世界の魔法を使うためにはある程度の知能がないと厳しいが、スキルはその限りではない。
知能が低い魔物が火を吐いたりできるのはスキルのおかげだったりする。
スキルには固有スキルと呼ばれるその種族が生まれつき持っているスキルと天賦スキルと呼ばれる個人で覚醒するスキルがあり、これはほどんと同じものが存在せずものによってはかなり重宝される。
ちなみに源初が結晶から獲得したのは力もスキルであり、天賦スキルに分類される。
その結晶は何なのかというと天賦結晶と呼ばれるものでかなり希少であり、触れた人の天賦スキルを覚醒させることができる。
固有スキルと天賦スキルに加え、経験スキルというものも存在する。
これはある程度の経験を積めば獲得できるスキルのことで希少性は比較的低いとされるが、もちろん習得が厳しいものもある。経験スキルの例として流派が教える技がスキルに昇華するなどがある。
「なるほど、これは面白そうだ」
「わくわっく!」
「次はわれからこの世界の勢力について少し話そう」
この世界にはディエティ大陸とヴェインティ大陸の二大陸があり、源初たちは今ディエティ大陸の中央部に位置する人間国家のレガリア帝国にいる。
レガリア帝国の北のほうにはエンニーア教を信仰するアイシテール神聖国があり、南側には魔王と頂点とする魔族が統治するディアスラ魔王国、さらにその東と西にはエルフの国、エルフィ王国とドワーフたちの国、オジワーフ共和国がある。
アイシテール神聖国とディアスラ魔王国は因縁の関係にあり、その間に位置するレガリア帝国は二国の緩衝地帯としての役割を果たしつつ、その中から利益を得ている。
エルフィー王国はディエティ大陸のどの国ともあまりかかわりを持っておらず、鎖国体制みたいな政策をとっているが反対にヴェインティ大陸の国とは一定のかかわりを持っている。
オジワーフ共和国はこの大陸で唯一の共和国であり、君主の権力がほかの国と比べると圧倒的に低いのが特徴だ。
しかしだからといってほかの国から舐められるようなことがないのは鉱石の産出量と鍛冶能力に優れたこの国にはこの大陸の大半の武器や装備を輸出しているからだ。
そして、どの国にも属さない組織としてギルドがあげられる。
ギルドには冒険ギルド、商会ギルド、料理ギルドなどと分野によって分けられており、世界各地の国と連携しながら世界に散布している。
ギルドの力はたとえ大国だとしても簡単に手を出せるほどのものではなく、ギルドが発行する証書は身分証明にもなる。
現在源初たちがいるのはレガリア帝国の重要な貿易都市のひとつであるトレイドであり、貿易都市なだけあって王城と比べても劣らない賑わいを見せている。
トレイドの郊外には迷いの森と呼ばれる森があり、先日そこからスタンピートがおき、その対策のために王都からハデスと呼ばれる男が派遣された。
ハデスはレガリア帝国八大騎士団のうちの団長の一人として、その実力はかなりのものでスタンピートによる被害を最小限に抑え込むことができた。
おかげで今迷いの森のなかのほとんどのモンスターは死滅している。とはいえモンスターの繁殖速度的にすぐに元通りに戻るだろう。
「以上だ」
「やっと終わった~」
「つかれたー」
「じゃそろそろご飯にしようかしら?」
「ごはん!」
クレアがすごい勢いで立ち上がる。
「すっかり食いしん坊になったな」
「決まったのであればさっさと行くぞ」
「は~い」
「まぶしい~」
宿の外に出ればまぶしい朝日が源初たちの目を眩ます。
「とりあえずどっかお店を探さないとな」
「ねぇあの店よさそうじゃないかしら」
ゼーレンが指さしたのは高級そうなレストランだった。
ほかの店が店前にお客さんが並んでいるのにもかかわらず、この店は客なんて並んでおらずとても静かな雰囲気を醸し出している。
「構わぬ」
「…うん」
「うん」
「いいよ~」
「はやくいこー!」
店の前まで来ると中から礼服を着た店員が出てくる。
「いらっしゃいませ。何人様でしょうか」
「八人だ」
「かしこまりました。ついてきてください」
店の中はかなり広いが席数自体は面積のわりに少ない。これも高級店ならではのものかもしれない。
客層を少し見ると、どの客も身にまとう服装や所作を見る限り貴族でなくともかなり大物だろう。
幸いなことに源初たちの所作はともかく、服装だけはほかの客には負けていない。出ないとこの店に入れるかどうかさえ疑問になってくる。
「こちらがメニューとなっております。ご注文が決まりましたらお呼びください」
席に案内された源初たちは注文を始める。
「おいしいわね」
「悪くない」
どうやら源初たちは食事に満足しているようだ。
「そろそろ行こうかな」
「ああ、にしてもクレアは随分と食べたようだ」
クレアの前に積みあがった皿のタワーは完全にクレアの姿を隠すほどのものになっている。
「おいしかったー!」
「次は余が連れてきてやってもいいぞ」
「ほんとうー! ありがとう!」
「お客様たち。こちらがお会計となります」
渡されたレシートにははっきりと金貨十枚(百万円)と書かれていた。
いくら高級店だとしてもさすがに食いすぎだ。
トヴァはそれを見ると店員に大金貨一枚渡す。
「ありがとうございました」
ご飯を食べ終わった源初たちが外に出るとすぐに人々がある方向に向かっていることに気付く。
「みんなどうしたのー?」
「ついて行ったらわかるじゃないかしら」
「じゃあいこ~」
「ああ」
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