第6話
中心部から外周部の方向に向かって源初たちは進む。
日が真ん中あたりにきたころ、やっと森の境界線が見えた。
森の中から外をのぞくと鎧を身にまとった兵隊らしき人たちが見える。
「誰かしら?」
「ついて行く~?」
「少し様子を見よう」
相手の正体や目的がわからない以上、無防備に表に出るのは危険が伴う。
特に源初たちは森の中から出てきているため怪しまれる可能性が高い。
源初たちが兵隊を観察しているうちに兵隊のほうはどうやらやることが終わったらしく、離れる準備を進め始める。
「どうする~?」
「いっちゃうよー?」
「とりあえず後ろについて行けばいいんじゃないかな」
「余もそれでいいと思う」
そういうことで源初たちは気配を消して兵隊の後について行った。
兵隊はかなりの大規模らしく、源初たちが見た人たち以外にほかの場所からも集まってきている。
方向を見る限りおそらく森の周りを囲っていたのだろう。
そのまま兵隊たちについて行くと、源初たちの先にそびえたつ城壁が現れる。
城門の前まで来ると兵隊はそのまま中に入っていった。
もちろん源初たちはそのまま入るわけにはいかなく、少し外で待つことにした。
幸いなことに中に入りたいと思うのは源初たちだけではなく、城門の外にはかなり長い人の列ができている。
中に入るためには入城料を支払わればいい。
だが問題なのは源初たちにお金なんてないことだ。
この世界に降り立って以来、蛇に追いかけ回されたり、変な結晶を見つけたりしたがお金どころか文明らしきものすら見ていない。
そのため普通に城内に入るのは現実的ではない。
そのまま日は暮れ始めあっという間に夜になる。さらに少し待つと人々が寝静まる深夜となる。
この間かなり時間があるわけだが、源初たちも暇ではない。
何をしているかというと結晶から手に入れた能力の練習をしていた。
もちろんあまり大きな動きを出すわけにはいかなかったがそれでもわかったこととしてこの能力は使っていくうちに強くなるということだ。
最初のほうと比べると源初たちの能力への扱い方はかなりのものになっていた。
もちろんこれはもともと得た能力が源初たちの権能と本質的な相似があってのものだ。
なぜ深夜になるまで待つ必要があるのか、それは…
見ると源初たちは城門から離れた所の城壁の前に来ていた。
そして、ルインが初めに城壁を足で蹴り、一気に城壁の上まで飛び上がる。
それに続きほかの源初たちも城壁の上まで到達する。
周りの魔力を体内に取り込めば身体能力の大幅な向上ができる。もちろんやりすぎると体が耐え切れなくて自爆する可能性もあるのだが……
昼間にこれをやるとかなり目立ってしまうが深夜なら暗闇に紛れることが可能である。
正直今の源初たちなら正面から中に入るくらいの実力はあるのだが、強引に行き過ぎると本当に欲しいものを逃してしまう。
源初たちが当初数多の世界を創造したのは暇つぶしのためであり、何が何でも力で解決してしまうとかえってつまらないものになる。
源初たちはとりあえずこの世界に自分たちの居場所を設けるつもりでいる。
そのために力はもちろんだが、ほかに必要なものもある。
今回源初たちがこの街に求めるものは情報である。
この町がどれほどの情報を得ることができるかはわからないが、少なくともこの世界の文明について知ることはできるだろう。
城壁の上で源初たちが街を見渡す。
「まずどこに行く~?」
「うむ。まずは分かれて情報収集するのはどうだ?」
「おっけ~」
「いいんじゃない? そっちのほうが効率いいしな」
「じゃあレエンはゼーレンと一緒だね〜亅
「えっ」
「あら、なにか文句があるかしら」
「・・・・」
暗闇に紛れ、2つの影が建物の上を駆け巡る。
ルインとフィーはいま街における図書館に当たる場所を探している。
みんなと別れてからルインとフィーが真っ先に探したのが図書館だ。
この街にそれがあるかわからないが、街の大きさを見る限りあってもおかしくはない。
しばらく屋根の上を飛び回っていると視界の先に他の建物と一線を画すほどの大きさを持つ建物が映る。
よく見ると建物の入り口の方には衛兵が立っており、警備はそれほど厳しいものでもないが少なくとも警備がある時点で特別感がある。
ルインたちは衛兵に察知されないように気配を殺し、建物の3階の窓から中を覗き込むと中にはおびただしいほどの本棚が並んでいた。
実に運がいい。そう思ったルインたちは中に入ろうとするがもちろん窓の鍵はかかっている。
「容易い」
「…ぅん」
ルインが窓を音も立てずに消し去る。
今のルインはその気になれば衛兵二人くらい跡形もなく簡単に消すこともできるが流石にめんどくさいことになるのが容易に予見できるのでやめといた。
中に入ったルインたちは早速片っ端から本を読んでいく、いや、パラパラとめくっていく。
この図書館は全部で3階あり、一階から3階まですべて本棚でびっしりと埋め尽くされているがルインに限らず源初たちは全員並外れた瞬間記憶を持っているため、今から朝までの時間で十分全部の本を覚えきれる。
「ここだね~」
「うん」
城壁の上から見たときに深夜にもかかわらず明かりがともっている場所が何か所か見つけたので、とりあえず向かうことにした。
その場所はよく見ると入口の上のほうに剣と盾のマークがあり、外から中を見ると数人が杯を交わしている。
「レエンとゼーレン」
「みんな考えることは同じだな」
「一緒に入ってもいいかしら」
「もっちろんいいよ~」
クーとシュティが中に入ろうとしたとき、ちょうど反対側の道からレエンとゼーレンが出てきて、せっかくだから一緒に入ることにした。
中に入った瞬間、かすかな熱気を感じる。
クーたちの突然の入場にそこにいた人たちは一斉に振り向くがすぐに興味をなくしたかのように戻ってしまう。
クーたちは空いてる席に座り、周りの人の会話に耳を傾ける。
「なぁ聞いたか、迷いの森が大変なことになったらしいぞ」
「ああ、聞いたぜ。何やら日中の時に調査に行った兵隊さんによると迷いの森に急にとてつもない大木が現れたらしいな」
「まったくその通りだ。つい最近のスタンピートで皆が迷惑してるのにまた何か起きるっていうのかい?」
「けどまぁ、ハデス様がいれば大丈夫や」
「ね〜 その話僕たちもまぜてくれない〜?」
二人が酒を仰ぎながら、会話を続けているとき、二人の会話内容に興味を持ったクーたちが二人に声をかける。
「おう、お前たちさっき入ってきた人たちか。見た感じ冒険者じゃなさそうだな」
「冒険者って何かしら?」
ゼーレンが疑問を投げかける。
「これぁまだすごい別嬪さんだな。お前さんたち冒険者も知らないのか? いいわぃ、今は気分がいいから何でも聞きな」
「まぁ少し位酒代を出してくれるともっといいけどな、はっはっは」
そういうと二人は酒を仰ぐ。
「ありがとう〜おじさんたち。お金はないけど遠慮なくきくね~」
「今のわかもんはなっておらんのう。わしはまだ三十じゃあ。まぁええわい。何でも聞きな、はっはっは」
「はっはっは」
二人はまた酒を仰ぐ。
そのあとクーたちは二人のテンションに付き合いつつもいくつかの質問をしていく。
「つまんないよー」
トヴァとクレアは建物の間を少しも急ぐ様子がなくゆっくりと歩いている。
二人はどうせみんながいい感じに情報を集めてくれるから私たちは別に頑張らなくてもよくないかの精神であたりを見学している。
とはいえそのおかげでこの街の構造をある程度把握することができた。
「今思ったけど冷静に考えると住む場所が必要だ。それを探すというのはどうだ?」
「さんせいー! けどこんな時間にやってるどころあるのー?」
「とりあえず明かりがあるところを探していくか」
「わかったー」
深夜に宿が営業しているわけもなく、明かりがついてるところのほとんどは酒場だった。
二人は仕方なく酒場に入って時間をつぶすことにした。
「人がたくさんー!」
「そうだ、どうせなら何か食べていくか」
そういえば森で食べた果実を最後に源初たちは今まで何も食べていない。
時間にして一日ほどだがやはりお腹が空いてもおかしくない。
「いいのー! でもお金ないよー」
「大丈夫だ。余に任せろ」
「ほんとうー! じゃあいっぱい食べる!」
そういうとクレアは席に座ってメニューを手に大量の料理を注文していく。
「おいしいー! トヴァも食べて!」
「うむ、なかなかなものだ」
届いた料理を頬張りながらクレアはトヴァとしばらく料理を頼んだ。
特にクレアの食べる量は尋常じゃなく、目の前に積みあがった山のような皿が周りの人の視線を奪う。
酒場の人もまさか深夜にこんな客が来るとは思わなかったのだろう。
「あー お腹いっぱいー」
「じゃ行こうか」
二人が席を立ち上がろうとした瞬間、店員がトヴァたちに声をかける。
「すみません、お客様たち。お会計のほうが金貨一枚となります」
「ああ」
そういうとトヴァは懐から金貨一枚を店員に渡す。
「ありがとうございました」
店員がお辞儀をするとトヴァたちは店の外に出て行った。
「なんでお金もってるのー?」
「余たちの権能を忘れたのか」
クレアたちは空間指輪でさえ作れるのにお金を作ることなど造作もない。
ただ通貨に関しては適当に金を生み出すわけにはいかなく、きちんとした模様などを知る必要があるため酒場で食べているとき、トヴァはきちんとほかの人が会計で出した通貨の模様を覚えておいた。
ちなみに通貨は世界共通のもので、1黒曜貨(一億)=10白金貨(一千万)=100大金貨(百万)=1,000金貨(十万)=10,000小金貨(一万)=100,000銀貨(千)=1,000,000小銀貨(百)=10,000,000銅貨(十)=100,000,000小銅貨(一円)
金貨一枚ということは十万円相当なので酒屋で十万円食べたことになり、いくら二人だとしてももはや才能である。
酒場を出た二人は特にやることもないということで乗り越えてきた城壁の下のほうへと足を進める。
「あっ、みんなー!」
クレアたちのついたころには城壁の下にほかの源初たちが全員集まっていた。
「やっときた~」
「遅かったな」
なぜクレアたちが一番遅れて付いたかというと、もちろん迷子になったからだ。
何とかみんなと合流することができたが気が付くとすでに夜が明けていた。
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