第4話
「わたしたちが最初かしら」
「…うん」
いつの間にか日が暮れかかっており、最初に集合場所についたのはゼーレンとフィーである。
その手には少なくない果実が盛られ、身には違った葉っぱで作られた服装をまとっており、かすかなデザイン性が見受けられる。
「やっとついた~」
ゼーレンたちがついて少しするとすぐにクーとシュティの姿が見えた。
ゼーレンたちと違ってその手には何も見当たらず、何の収穫もないようだ。
「あら、随分とみすぼらしい恰好ね」
ゼーレンがクーたちの姿を見てそういう。
実際クーたちの恰好はただ葉っぱで隠しただけのもので、ゼーレンたちと比べるとかなり味気ない。
「少しこっちに来て頂戴」
ゼーレンが手招きをすると、余っていた葉っぱでクーとシュティに似合った服装を作り上げる。
その出来もかなりのもので、ゼーレンの手先の器用さとセンスの良さが見受けられる。
「にしてもトヴァたち遅いね~」
「迷子にでもなったかしら」
「トヴァたちならありえるね~」
ゼーレンたちが集合してからかなり時間がたって日も完全に暮れたが、トヴァたちの姿が一向に見当たらない。
ゼーレンたちはその間いろいろと情報を交換して、まとめた結果、今セーレンたちは自分たちがこの森の外周部に位置していると推測できた。
今日一日外周部を探索したが、昨日みたいな大蛇に出会うことはなかった。というより植物を除く生物に出会わなかった。
何が原因で外周部の生物が少ないのかはわからないが、昨日の大蛇がまれな存在だと仮定すると少なくとも外周にいる時点での安全の確保は可能である。
中心部らしきところをクーたちは見つけたが実際に中に入ったわけでもないため、中心部の様子はわからないが、普通に考えて外周部より危険ということは確かである。
「みんなー!」
近くから聞こえる大きな声にゼーレンたちが一斉に振り向く。
トヴァとクレアたちだ。そして、そのあとにはルインとレエンの姿が見える。
「久しいな」
フィーがルインの姿を見るや否や、ルインのほうへと駆け込んで、その胸の中に飛び込む。
「あい…たかった」
ルインは優しくフィーの髪をなでる。
「あら、一緒に帰ってきたのね」
「トヴァと歩いてたらルインとレエンにあったんだよー」
「うん、実に運がよかった」
適当に歩いていたトヴァたちが幸運なことに偶然同じく食料を探していたルインたちに出会うことができた。
ルインたちは大蛇の皮で簡単な服を作っており、ルインたちと出会えたトヴァたちもルインたちから大蛇の皮を受け取り、服を身にまとった。
大蛇の皮の頑丈さはなかなかのものだが、服としての防寒性能はあまり期待できない。それでもないよりかは幾分かましである。
ゼーレンたちもルインたちが身に着けている服らしきものを見れば大蛇をしとめることに成功したことが何となく察することができた。
「とにかく無事に帰ってきてくれてよかったわ」
「まさかお前に心配される日が来るとはな」
「あら、どうやら少し痛い目を見せないといけないようね」
「ど、どうしt」
言い終わる前にレエンの頭にゼーレンのこぶしが炸裂する。
「みんなが集まったのだから拠点の場所に行かない~?」
「そうね。トヴァたちはいい感じの拠点の場所を見つけてくれたかしら?」
「もっちろん!」
「じゃあさっそく案内してくれよな」
「むり!」
クレアの言葉に皆が振り向く。
「なぜだ」
「うむ、拠点に向かう道を覚えていないからだ」
「「「・・・・・・」」」
トヴァの言葉に全員が沈黙する。
「今まで気づいていなかったが貴様らは方向音痴だったのか」
「そういえばトヴァたちに道案内を頼んだことないかもな」
「覚える気がないだけじゃないかしら」
「困ったね~」
「ごめんなさーい」
反省する色が全く見えないが今更どうこう言うのも時間の無駄でしかなく、次の一歩を考えたほうがいいだろう。
「とりあえず今夜は動かないほうがよさそうね」
ゼーレンが困ったように言う。
森の中ということもあり、月の明かりが入ってこず周りの景色がすっかり闇の中のものとなってしまっている。
初日にも体験したことだがやはりこの闇には人を不安にさせるものがある。
「現状、問題なのは身を守る手段がないことだ」
ルインの言う通り、いくら今日の調査でこの森の外周部は比較的安全であることが確認されたが昨日みたいな大蛇がもう一度現れるものならたまったものではない。
「みんな見てみてー!」
考え込んでいた源初たちにクレアが声を上げる。
見るとクレアのてのひらの中に小さく光り輝くオーブが浮かんでいた。
「あら、それは何かしら?」
「これね、周りに漂っているものをぎゅってしたらできたの!」
この世界に至るところに魔力というものが存在する。というよりもこの世界自体が魔力によって作られた。
魔力というのは当初、クレアが世界を創造するときに生み出したもので、全部で八種類の属性が存在し、それぞれの属性は源初の権能を模倣して作られている。
クレア曰くせっかくだからみんなの力を真似してみたかったとのこと。もちろんクレアとトヴァ自身でさえ完全に自分の力をこの世界に落とし込むことができない以上、ほかの源初の権能はなおさらだ。
そのためこの世界の魔力はあくまでも見た目が似てるだけであって性能は源初たちの権能とかすってすらいない。それでも本来の力が封印されている以上、この世界においてはなくてはならない力である。
使用できる魔力はあくまでも外にあるもので、外から取り込む必要がある。
源初たちがこの世界に入る前は概念そのものであり、外に影響を与えることはあっても外から取り込むことはない。
ゆえに外から取り込むという思考には至らなかった。クレアが発見できたのも本当にたまたまなもので、本人からすればただ空気をぎゅっとしたらどうなるんだろうという興味本位のもとの行動である。
話を聞き終えたほかの源初たちも試してみたがクレアの言う通り魔力を駆使することができた。
ルインは火炎、フィーには氷結、レエンは流水、ゼーレンには自然、クーは雷鳴、シュティには暗黒、トヴァは大地、クレアには聖光属性の魔力がそれぞれ手の上に凝縮されている。
「意外と簡単にできるものね」
「これでひと安心だな」
「原理さえわかればあとは容易い」
ルインはさらに空気中の魔力を集め、身の回りに火炎魔力で固めた結晶を生み出し、宙に浮かせる。
生み出された結晶は純粋な火炎魔力でできているため普通の炎と違って光を放つことはなく、暗闇の中ならその位置を把握することは困難である。
ルインが視線を前方の森にむけば結晶が一斉に視線の先に向かって撃ちだされ、激しい爆発を生み出す。あたりの木々は爆発による熱波によって燃え上がる。
「すごい!」
「まだまだほかの使い方もできそうね」
ゼーレンが自然魔力を集め、自分も含めた源初たちに向けて一斉に放つと源初たちの身に先ほどとは違うきちんとした服装が現れる。
「ありがとうー!」
「感謝する」
源初たちが一様に感謝を述べる。
「いいわ、やっぱり服装はちゃんとしたものじゃないとね」
「この力があればこの森から出てもいいかもな」
「その前に一回中心部に行かな〜い? 何かあるかもしれないし~」
「気になる」
「では案内してもらおうか」
「しゅっぱつー!」
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