第3話

「ここまで来たならもう大丈夫じゃないかしら」


 ゼーレンの言葉とともにトヴァたちも足を止めた。


 やっと一息つくことができたゼーレンたちは一斉に地面にへたり込んだ。


「これからどうするの~?」


「ルインたちと合流」


「そうね」


「でものどかわいたよー」


「うむ。冷静に考えると、まずは水と食料の確保が先だ。見た感じこの森は広い、簡単に出られない」


 源初たちの今の体は普通の生き物と何ら変わりなく、水と食料で生命を維持する必要がある。


「まずは水の確保ね。この近くに川とかないかしら」 


「わたしが…さがして…くる」


 そういうとフィーは一人で行こうとするがゼーレンは急いで手をつかんで引き留める。


「ダメよ。フィーちゃんに何かあったらルインが許してくれないわ、それに私もね」


 いくらこの中でフィーが一番体力が残っているといっても現状のフィーが何の力もない幼女であることに変わりはなく、一人で森の中を探検させるのは危険が大きい。

 それにゼーレンもルインから頼まれた以上フィーの安全を守る必要がある。



 ゼーレンの言葉はフィーを引き留めることに成功した。

 

 フィー自身もみんなの役に少しでも立とうと思ったが確かに現状の自分は何もできないと考え、うつむく。



「もう少し休んでからグループでそれぞれ分かれて行動しよう。それならある程度の効率と安全が確保できる」


「おっけい~ じゃあ日が暮れる前に成果があったかどうかにかかわらぜここで集合だよ~」


 そういうとクーは隣の大木に落ちていた石で大きく傷をつけた。

 



 少しすると、十分に休めた源初たちは二つのグループに分かれて行動することにした。


 ゼーレンとフィー、クーとシュティの2グループは水と食料の確保、クレアとトヴァは簡易的な拠点を作るのに適した場所を探すことにした。 

 

 軽くいろいろと注意事項を確認したのち、それぞれのグループは別々の方向へと歩き出した。


 








「見つからないね~」


「うん」


「疲れたね~」


「うん」



 クーとシュティは水と食料を探すために最初に降り立った場所の近くを探している。


 夜間と比べると幾分か森の中は明るく見えるが周りの木々のせいでかすかな日の光しか森の中に入ってこず、大蛇みたいな危険が潜んでいると考えると常に周りに気を配る必要がある。



「あ、これいいじゃん~」


 クーが見つけたのは大きい葉っぱがついた植物であった。


 その植物の葉っぱを何枚かちぎって、自分とシュティの隠すべき場所を葉っぱで遮る。



 そう、クーたちだけでなく、源初たちはこの世界に転送されてからずっと裸なのだ。裸のまま大蛇から逃げ回ったことにもなるが細かいことを気にしてはいけない。


「これでおっけい~」


「ありがとう」


 クーがシュティを手伝いながら何とか葉っぱを固定することができた。

 

 とはいえ所詮は葉っぱなのでかくしてないのとあんまり変わらない。


 ちなみに源初たちは本来生殖器官を備えていないが、この世界における体はちゃんと備えられている。

それに伴い貞操観念も獲得している。



 クーとしても他の源初ならともかく、ほかのものにシュティの体を見られるのは面白くない。そう考えるとあの蛇には死んでもらわなければいけなかったとクーは心の中でひそかにつぶやく。


 


「ここまでだね~」


 目の前の一層不気味さを増した森を見て、クーたちは足を止めた。今のままだとこれ以上踏み込めば戻ってこれそうにないとひしひしと感じる暗闇である。


「ここから、中心部」


「そうかもね~ とりあえず戻ってほかの場所探さないとね~」


「みんなにも、報告」



 クーたちがこのことをほかの源初に報告すると頭に入れつつ、来た道を引き返した。






 


「見てみて! この花おいしそうじゃない!?」


 クレアがその花に手をかざそうとした瞬間、その花は根っこごと地面から起き上がり、クレアが反応する前にどこかに走り去っていった。


「えー 逃げちゃったー」


 少し気を落としたクレアだったが次の瞬間にはほかのものに目をむけていた。


「ねー! このきのこおいしそうじゃない!?」


 目の前には虹色に輝くキノコが佇んでいた。



 さっきからずっとその調子だった。クーたちと別れてトヴァと一緒に拠点に適した場所を探すために森の中を探索していたのを果たしてクレアは覚えているのだろうか謎なくらい、まるで好奇心の塊化のようにあちらこちらに興味を注いている。



 一方トヴァはどうしているかというと



「うん、これはきっと高値で売れる」



 同じくいろんなものを物色していた。



 トヴァは別に目的を忘れたわけではないが、クレアの好奇心を抑えることが不可能なのがわかっている以上気が済むまで一緒に見て回るつもりでいる。



 歩いているとふと、何かの音が聞こえる。



「ねぇねぇ! クレアなんかの音聞こえたよー」



「うん、これは水の音だ」



 音をたどって進んでいると、そう離れていないところに小さな川が流れていた。



 実に幸運なことに適当に歩いていたトヴァたちが水源を見つけることができた。


 拠点の場所はもちろん水源に近い場所ほどいいに越したことはないので、トヴァたちはその川の近くに拠点に適した場所がないのかさがすことにした。



「これでミッション達成だー!」


「実によくできている」



 川の近くに運がいいことに結構大きなスペースを見つけることができたクレアたちはとりあえず簡単な整備だけして、日が暮れる前に集合場所に向かうことにした。

 

 問題なのはクレアもトヴァも来た時にいろいろと回り道をしたせいか、集合場所に向かう道を覚えていないことだ。

 だがなぜか二人とも特に不安なそぶりもなく、来た時と同じようにただ心の行くままに歩き出す。


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