第2話
「ぎゃあー 助けてー!」
「これはやばいね~ しぬかも」
「うん」
何を隠そう今、源初たちは絶賛逃走中である。
背後を見ると全長40メートル以上はあるだろう大蛇が地面を這いながら源初たちの後ろを追いかけている。
どうしてこうなったかというと・・・・
視界が開くと目の前には一面の闇が広がっていた。
源初たちは広大な森の中心部のギャップに転送されていた。
時間帯は夜なので周りの景色は目が慣れてくるまでは見えない。
「ここが『世界』か。確かに先のところとは違うものが見受けられる」
「……うん」
「くらい」
「そうね。もっと明るくできないのかしら」
「ここはクレアに任せなさい! そーれ!」
クレアは手を上に挙げ、構える。が、いつまでたって何も起きない。
「「・・・」」
静寂が訪れる。
「あ、あれ?」
クレアが怪訝そうな声を出す。
「どうしたんだ?」
「なんか力が使えない。なんで?」
トヴァもそれを聞いて、急いで試してみるがやはり力が使えないようだ。
「むり」
「どうしたのかしら」
「力のほとんどは封印されるとは聞いていたが、これは…」
「冷静に考えると……どうやら間違って全封印してしまったようだ」
「「・・・」」
静寂が再び訪れる。
「「すみませんでした!」」
トヴァとクレアが頭を下げる。
「いや、よい」
「まぁ俺様にかかればなんとかなるやろ。はっはっは」
「そんなのんきなことを言ってる場合かしら」
ゼーレンが怖い顔をしながらレエンに詰め寄る。
「ちょっとまって、今の体だと本当に死にかねないからな。だからかr」
レエンの叫びもむなしく、ゼーレンのこぶしは炸裂する。
「でもこれ本当にヤバいね~」
「うん」
ゼーレンとレエンの戯れを背景にほかの源初は今後のことを話し合い始める。
「余から言わせてもらうと今後の方針は力をつけることだ」
「当分の目標としてはここから出て、情報を収集するだね~」
「われはそれで問題ない」
「……ルインと…いっしょ」
「大丈夫」
「クレアも異議なーし!」
「というか今思い出したけど、そんな大きい声出しても大丈夫なの~」
そういわれたクレアは一瞬止まる。
「ほら、声を聞きつけて襲ってくるものもあるんじゃないかな~って思って」
そうクーが言い終わると、源初たちの背後の闇から一対の赤い光がともる。そして源初たちがそれに気づき、振り返ると咆哮が夜の静寂を引き裂く。
「おのれぇ、このわれがあのような雑種から逃げないといけないとは…」
「…ルイン…ごめんなさい…」
フィーはかなりの幼女なので、力が使えない今大蛇から走って逃げるのは絶望的なので、ルインが胸の中に抱きながら逃げている。
「大丈夫だ。われはレエンを犠牲にしても必ずお前だけは守るからな」
「なんで俺様なんだよ! 俺様さっき死にかけたばっかりだぞ」
レエンというとゼーレンのお仕置きで精一杯のせいか、大蛇に気付かず、ゼーレンが引っ張って逃げなければ今頃大蛇の胃の中にいるだろう。
「あら、助けてあげなければよかったのかしら」
「ひどくない!?」
「冷静に考えるとこれはヤバいのである」
「なんか楽しくなってきたー」
「このままだとみんな蛇のごちそう」
シュティの言う通り、源初たちと大蛇の距離はどんどん近くなりつつある。
今まで源初たちは目が暗闇に慣れてきたおかげもあって、森の中の木を利用しながらうまいこと逃げていたが、源初たちの今の体力でいうとあと十分も持たないだろう。
「なぁレエン」
ルインが意味深にレエンに話しかける。
「どうした! 解決策を思いついたのか!」
「わが友よ…われと命を懸ける覚悟はあるか」
ルインがレエンの目を見つめる。
「……当たり前だ。お前とはこれが初めてではないしな!」
「よくぞ言った! ゼーレン、フィーを頼む! 貴様らはさっさと離れろ」
ルインはフィーをゼーレンに渡すと、レエンとともに足を止め、大蛇のほうに向きなおる。
「ルイ…ン」
フィーが心配そうにルインの名をつぶやく。
「きっと大丈夫よ。ルインとレエンだもの」
ゼーレンがフィーを慰めるが、ゼーレンもかなり心配そうにレエンを見送る。
「レエン、先ほど言ったとおりにやるぞ」
「ああ、問題ない」
「これほど心が高ぶるのも久しいな」
「違いねぇな」
ルインとレエンはともに笑みを浮かべる。
すぐにルインたちの前方の闇から咆哮がとどろく。
「来るぞ!」
「おう!」
闇の中から大蛇が飛び出す。
するとルインとレエンは左右に分かれる。
大蛇は少しも惑わされることなく、ルインのほうに進行方向を切り替える。
「われを狙うか。レエン、合わせろ!」
「当然だ!」
大蛇が噛みつこうとルインに迫るたびにレエンは大蛇の尻尾あたりを攻撃する。
もちろんダメージなんて与えるわけもないが、気を惹き、時間を稼ぐくらいはできる。
大蛇は標的をレエンのほうに切り替えるが、今度はルインが攻撃して気を惹く。
二人は蛇の体と木々の間をうまいこと利用して大蛇の攻撃をかわす。
大蛇も二人を捕らえようと自分の体を木々の間を通り抜ける。
そして、またしても大蛇はルインの眼前に迫るが今度のルインは躱さない。躱す必要がない。
見ると大蛇の体は木々といくつかの結びができており、絡まって完全に動きが取れなくなっていた。
ルインとレエンは最初からこれを狙っていた。途中で何度か大蛇の牙が二人に触れる場面もあったが何とか成し遂げることができた。
「何とか…うまくいったな」
「ああ…われが受けた屈辱…その報いを受けてもらおう」
二人は息を切らしながらも大蛇に対して邪悪な笑みを浮かべる。
大蛇は今になっても抵抗をあきらめる様子はなく、威嚇の咆哮をあげているが最初の方向と比べると幾分か弱々しく感じる。
それに、大蛇に自分で体の絡まりをほどけるほどの知能が期待できない以上いくら抵抗したところで意味はないだろう。
ルインたちがうまいこと大蛇の気を引くことができるのも大蛇の知能が低いおかげだ。
ルインは周りに落ちている石を地面に叩きつけ、いい感じに鋭いかけらを拾い上げる。
一方でレエンはそこら辺に落ちていたそれなりに太い木の枝で大蛇の口をこじ開け、開けたまま固定する。
そして、ルインは容赦なく石のかけらで大蛇の口に数えきれないほどの傷を作る。一つの傷が増えるたびに大蛇の口から大量の血があふれ出す。
今のルインたちにとって頑丈な大蛇の外皮を貫通してダメージを与える手段はないが、口の中であれば簡単に傷つく。
どれくらいの時間がたったのだろうか、大蛇はついに動かなくなった。途中で傷口の血が止まることもあったがそのたびに新しい傷をつける。
口ということもあってかなり時間がかかったが、幸いなことにこの大蛇が自己治癒なるものを持ち合わせていないことで大蛇をしとめることができた。
「やっと死んだか。疲れたな」
「ああ。だが得たものもある」
大蛇が死んだ今、その皮、肉、牙、どれをとっても戦利品として十分だろう。この世界の文明はどこにあるかわからないが、なかなかいい値段で売れるだろう。
さすがに全部は持ち帰れないため、持ち帰れる分だけを大蛇からはぎとる。
「次はゼーレンたちと合流することだな」
「ああ、急ごう」
気づけば夜はすっかり明けてしまい、昇る朝日とともにルインたちは大蛇の遺体を後にする。
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