第13話
ラマルの町は、クッカほどの大きさはないが、賑やかで活気に満ちた町だった。
ルイライラ山に近い事から、店には珍しい野草がずらりと並べられている。
広い道沿いに様々な屋台が並び、そこで売られているものの大半は食べ物だった。
町を通る度に、ユウはその珍しさに目を見開くばかりだ。
それに、神殿では誰もがユウを特別扱いしていたが、店や屋台の主人はそんなユウに気軽に声をかけてくる。
誰も目を逸らさないし、誰も避けては通らない。
それは、ユウにとって心地良い刺激だった。
パティオの方は、その度に不愉快そうな顔をしていたが
・・・・。
「ここで少しお待ちください」
町に入るとすぐ、ザイードは待ち合わせの酒場を見つけて、一同に告げた。それから、厳しい顔をエルドの方へ向ける。
「エルド神官、ユウ様をしっかりお守りするように」
言われたエルドは、ぴょんと姿勢を正し、緊張しきった状態で頷いた。
「は、は、はっ、はい」
どもりながら、上擦った声で返事を返す。
ユウは、その裏返った声が可笑しくて、少し笑ってしまった。
ザイードが酒場に入って行くのを見送った後、ユウはエルドの方に顔を向けた。
「エルド様は、余程ザイード様がお好きなのですね」
彼女がそう声をかけると、エルドは更に硬直して、鶏の鳴き声のような返事を返した。
それがまた可笑しくて、ユウはさっきより大きな声で笑った。
思わずパティオが、エルドに非難の眼差しを向ける。
しかし、久し振りにユウの笑い声を聞いた為か、彼を咎めるような事は言わなかった。
「不愉快に思わないで下さいね、笑ったのはあなたを馬鹿にした訳ではないのです。あなたには何処か暖かい所があって、とても親しみを感じます」
ユウはエルドに、にっこりと微笑みかけた。
途端、エルドの顔がぱっと赤くなる。
ユウは美人と言う程に整った顔立ちではないが、何処か美しいと感じさせる部分があった。
いかにも果敢な気な様子で、妙に男心をくすぐる所もある。
エルドも一瞬、神官と巫女姫という立場を忘れ、ユウに対して邪な感情を持った事は確かだろう。
笑われたのは彼でありながら、益々赤くなった顔を申し訳なさそうに俯かせた。
「ユウ様、神官達に話し掛けるのは、どうかお止め下さい。ユウ様は、清らかなお方なのです。それを、忘れないで下さい」
清らかなユウを守る事が自分の役目とばかりに、パティオが横から小さく囁く。
ユウは困ったように苦笑し、一度は頷いたものの、思い直してこう言った。
「でもパティオ、それでは余計に怪しいと思われるのではないですか?私達は、旅人の振りをしているのでしょう?ごく普通の旅人達がそのように、誰かに対して特別恭しい態度を取るのは、あまり良くないと思うのですが、どうでしょう?」
ユウの尤もな指摘に、エルドとパティオはぎょっとした表情になった。
巫女姫であるユウが、そんな指摘をするなど夢にも思っていなかったのだ。
彼らとて神殿で暮らしていた者だが、多少はユウよりは外の世界を知っているつもりだ。
巫女姫は特別な方で、外の世界を知る必要などはないが、巫女や神官達は民と接する機会が多いので、勉強の為に外の話を聞く機会があった。
それなのに、たった数日外に出ただけで、ユウは的確に外の世界を把握し始めていた。
それは、驚くべき事だ。
今の巫女姫は大変物覚えが良く、神殿で暮らした巫女姫の中で、恐らく一番賢い巫女姫だろう。
そんな噂が神殿の中で流れていたが、まさしくその通りだと思う。
パティオとエルドは、ユウの言葉にただただ頭の下がる思いだった。
彼女の言うように、今は外の人間に疑問を持たせてはいけない。それは、レイやユウの命にも係わる事なのだ。
・・・・・流石、ラクレスの愛するお方。彼女には、生まれながらに知恵があるのだろう。
と、ラクレスの忠実なる僕達は、全く疑いもせずにそう信じた。
しかし、ユウはそんな二人の気持ちは分からない。
突然崇拝するような眼差しを向けられ、戸惑いしか感じなかった。
特にエルドは、さっきまではとても親しみやすい雰囲気だったのに、瞬く間にそれが消えてしまった。
自分としては、そんな眼差しを向けられるより、気軽に笑いかけて貰える方がずっとずっと嬉しいのに・・・・・。
またしても、自分の後ろにあるラの名前が、ユウにはどうしても重く感じられてならなかった。
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