第10話

 先頭にはザイード、その後をザエル。ザエルの後ろは、ユウだった。ユウを守るように左右にはエルドとフィダがぴったりと付き添っている。


 そのまた後方に、レイ。ベブリドとサルアと神官長は、レイをしっかり守るように付き添っていた。

 パティオは神官長の後ろだ。これは、勿論彼女の希望ではない。ザイードが、彼女にそう命令したのだ。

 多分、一番非力で幼い彼女が、戦闘に巻き込まれない為の配慮だろう。


 ユウ達は、街道沿いに植えられた針葉樹の陰に隠れながら、少しずつ関所へと近づいていく。


 秋に入ったばかりだと言うのに、深夜の風は身を切るように冷たい。

 ユウは、マントの襟を合わせ、その寒さに大きく身震いした。


 冷たくなった手に握られた剣の感触が、心の奥まで凍り付かせる。

 ユウは、剣舞を行う巫女。だから、他の巫女達とは違い、剣術を学ばねばならなかった。技を極めていなければ、美しい舞は踊れないのである。


 ザイードは、ユウに剣を教えた人物だ。だからこそ、ユウを戦わせようと思ったのだろう。

 ・・・・けれど、戦えるかと言えば、自信はなかった。


 普通一般的に、神に仕える神官達が戦えるとは思わないものだ。彼らの殆どは、武器など使わない。

 しかし彼らは、修行時代に拳闘術を学んでいる。教理では、そうした物を学ぶ事によって、上辺だけの強さがいかに虚しい事か知るのだとされている。


 ザイードはユウに、よくこう言っていた。

 『使わぬ術を覚えて、一体何になるのだろう』と。


 本気で戦ってみなければ、自分の強さは分からない。傷付かねば痛みは分からぬし、傷付けてみないとその罪は分からない。

 互いに傷付かぬよう戦っていては、永遠にその意味など分かりはしないだろう。


 確かに、ザイードの言葉も一理ある。ユウも彼の話しを聞いて、疑問に感じた事もあった。

 だが、やはり傷付け合うという行為を、進んでしようとは思わなかったが・・・。

 

 関所に近づくにつれ、心臓の鼓動が激しくなってくる。

 ユウは息苦しさに胸を押さえ、大きく呼吸を繰り返した。

 禁を犯す事に、まだ心の整理が出来ていない。


 神官達は精神修行を目的として拳闘術を習ってきた。しかし、今度はそうではない。これは、彼らには決して許されていない、俗人相手の実戦なのだ。


 「私が、先ず一人で行きます。私が相手の注意を引いている隙に、ユウ様達は見張りを襲って下さい。神官長様とベブリド様、そしてパティオ殿は、いち早く守人様を連れて関所を抜けるのです」

 関所から三十歩ほどの所まで来て、ザイードが言った。

 高い草の影に身をひそめ、油断なく周囲を見回す。

 それから、手振りで皆の姿勢を更に低くさせ、側にいたユウに小さく囁いた。


 「ユウ様、恐れてはいけません。あなた様こそ、清らかな神の御子。自分の仕事を放棄した守人に、もはや神は降りますまい。これからは、あなた様が我々を導くのです。大地の剣を旗印にして、皆を穢れた者達と戦わせるように。それが、あなた様の役目です」

 ユウは、驚きに目を開き、信じられないというように首を振る。


 そんな彼女の様子を、ザイードは目を細めて見つめていたが、不意に口許に笑みを湛えると、素早く立ち上がって一人明かりに向かって歩き始めた。

 息を詰め、ユウはザイードの後ろ姿を見送った。

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