第7話

 聖堂の奥にあった地下通路は、クッカの外れまで通っていた。

 それは過去、ラクレスの教徒が迫害を受けていた時代、少しでも多くの信者を神殿にかくまう為に作られた通路だった。


 丘の上にある一本の巨木、それを目指して多くの信者が救いを求めてここに来た。神殿に逃げ込む事が、決して迫害から逃れられる方法ではない事を、みな知っていながら。


 やがて時代と共に、ラクレス教は人々に受け入れられるようになった。そのうち、この秘密の地下通路も、存在を忘れさられてしまっていた。


 まさかこの時代に、ここが使用されるような事が起こるなど、神殿の者は誰一人として想像していなかったろう。

 ユウもまた、想像してはいなかった。


 遠くで、また砲弾が炸裂した。丘の上から見たクッカの街は、もう黒い塊のようにしか見えない。神殿の高い塔も、無残に崩れていた。

 果たして、何人の犠牲が出たのか?


 ユウの胸は、何時までも痛くて苦い。これは、一生消えないような気がした。

 涙も枯れず、込み上げて来てはまた溢れる。


 ——————我々は、何と非力だろう。


 ユウは、絶望的な思いに捕らわれた。

 神は人々の信仰に納得せず、大地の子にこのような仕打ちを与えたのだろうか。まだ、民の信仰が足りないと言うのだろうか・・・・・。


 「ユウ様、大丈夫です。神は、常に大地の子と共にあらせられます」

 ユウの涙を見てか、パティオが必死に慰めてくれる。

 少女の目に、涙はなかった。ただ、強い意志と、心配そうな表情を浮かべているだけ。


 ユウは、またも目の前の少女の強さに驚く。

 守人はユウに、成長したという言葉をくれた。けれどユウには、それは勘違いとしか思えなかった。


 巫女姫でありながら、ユウは何の役にもたてない。自分よりも、パティオの方がずっと立派に思えた。

 自分には、悲しみ涙を流す事しか出来ないのだ。どう考えても、民を導くなどとても出来そうになかった。


 神殿から脱出した一行は、聖地に背を向けて歩き出す。

 外を知らぬ無知な者達が、初めて穢れの中に身を置く事となったのだ。

 これから先を考え、誰の胸も重く潰れそうだったに違いない。


 ユウは、大地を渡る風に、星を切って祈る。

 —————どうぞ、天と地の狭間に在りて、全ての運命を見定める神よ、なにとぞか弱き大地の子らを守りたまえ。


 祈りは、通じただろうか?


 背筋を貫く恐怖に、また身を震わせた。

 マントの襟をかき合わせ、無言で歩く神官達の後ろを続く。守人様はどうだろうかと思ったが、後ろを振り返って確かめる事は許されなかった。

 

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