第二話 夢の話
「君、今から人でも殺しに行くの?それとも、もう殺していて、ナイフを洗ったとこ?」
頭の上から、声が聞こえてくる。僕はゆっくりと顔をあげる。フードを被った僕と同じくらいの年齢の子が僕を見下ろしている。
「…誰?」
「んー、ホームレスってとこかな」
「ホームレス?ここら辺に住んでるの?」
「君、よく喋るね。手にナイフ持ってるのに」
そう言われて、僕は手に家のキッチンから持ってきたナイフを握っていることを思い出す。ああ、そうだ。これからあいつを…。そこまで考えて、僕は考えるのをやめる。人に見られた。もう、だめかな。僕はナイフを地面に置く。
「僕を、どうするの?」
フードを被った子はキョトンとしている。
「どうって、警察に突き出して欲しいの?」
「なんでもいいよ、君がそうしたいなら、警察に突き出して」
僕はそう言って、顔を膝に押し付ける。長い時間体育座りしていたせいか、お尻がズキズキと痛い。
はあ、とため息が聞こえてくる。
「私は優しいから、別に何もしないよ」
そう言うと、フードを被った子はしゃがみ、僕の頭の上に手を置く。人に頭を触れられるのに慣れていない僕は、頭に置かれた手を反射的に振り払う。その時、フードを被った子と目が合う。少しだけ、悲しそうな、淡い目。
「…ごめん、なさい」
咄嗟にその言葉が口から出る。あ、また同じ。なんで僕はすぐにこうやって謝ってしまうんだろう。
「君、家はどこ?」
怒られると思っていた僕は、その言葉を聞いて、少しだけ考えたあと、口を開く。
「ここから、三キロくらい先にある」
「んじゃ、一緒に帰ろ」
「…嫌って言ったら?」
「そん時は、君の後を一生ついていく」
「そんなの、無理だよ」
「ホームレスには可能だよ」
はぁ。僕は反論するのを諦めて立ち上がる。フードを被った子も立ち上がる。少しだけ、僕の方が身長が少しだけ低いことに気付く。
「んじゃ、帰ろ」
フードを被った子はそう言うと、僕の手を握る。少しだけ腕に力が入るが、僕は息を軽く吐き、腕の力を抜く。
「ほら、案内して」
僕たちは歩き始める。
「なんで、ナイフを持ってたの?」
「殺したい人がいて、それで」
「それじゃ、なんであんな路地裏にいたの?」
「それは…殺すことが怖くなったから」
「うん、そうだね。人を殺すことは、怖いよね」
「君は、なんでホームレスなの?」
「親が嫌で金盗んで家出したんだよ。まあ、脱獄犯?みたいなもん」
「そう、なんだ」
雨が降る夜の街を、僕らはおしゃべりをしながら歩く。
「ナイフを持っていた君、名前なんていうの?」
「上島波瑠(かみじまはる)」
「女の子みたいな名前だね」
「君は何て言うの?」
「流衣(るい)。よく男の子?って聞かれるけど、バリバリの女の子です」
「女子なんだ。分からなかった」
「失礼だな」
歩きながら話をしているうちに、気がつくと、僕の家についていた。帰ってきてしまった。流衣は僕の手をそっと離す。微かに、熱が残っている。
「んじゃ、また明日ね」
流衣はそう言うと僕に手を振る。僕は玄関のドアを開け、中にはいる。
朝、いつも見ている夢から僕は目を覚ます。
僕は君の哀を食べる neinu @neinu
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