第10話
「なぁ、なぁ。エース。私のことは姉さんと呼んでいいぞ。実質エースの姉さんだからな。私」
俺と師匠だけ残された道場で姉さんは言った。
「ところでエースってやったことある?」
「はぁ?」
この人なんでさっきからこんなに下ネタばっかなんだろうな。
俺がそう思ってたら聞いてくる。
「やったことある?」
前世の記憶まで含めてもないけど。
俺は名誉童貞だった。
「ない」
「おぉ!まじかっ!仲間じゃん!」
「姉さんはないの?」
「16歳で骨になってんのにやるわけないだろ。犯罪だぞ犯罪」
そう言ってくる。
あーじゃあこの人も名誉処女なわけか。
そう思ってたらジョニーは改めて名乗ってきた。
「あー。そうそう。私名前がリーゼロッテなんだ。リゼと呼んでくれ。ジョニーは偽名だから」
俺は思ったね。
(似合わねー)
このキャラからリーゼロッテなんていう優雅な響きの名前は似合わない。
「私はお前との旅で失われた初体験を取り戻しに行くぞ」
そう言ってきた。
「どうやって?」
「世界のどこかに人間に戻る方法があるはずなんだよ。それを探しに行く。お前の旅のついでにな」
俺に同行するのなんてそういうことらしい。
「まぁいいんじゃない?」
俺はそう言いながら今日のところは家の方に帰るかと思ったら姉さんが呼び止めてきた。
「今日は一夜を共にするのではないのか?」
「こんな硬い床じゃ寝れないよ」
道場は道場だ。ベッドなんてものはない。
それを思い出して聞いてみた。
「姉さんこそ家に来たらいいのに」
「誘っているのか?それは」
「別に無理にとは言わないけど」
「いく!」
◇
こうして俺は骨と一夜を共にしたわけだ。
横に骸骨を置いて寝るのなんて俺くらいのものだろう。
そんなことを思いながら翌日、俺は家族に見送られた。
別れが悲しくなるのもあるから、言葉は少なめだった。
ミーシャも泣きながら見送ってくれた。
道を歩いて俺たちは街を出た。
ここはそこそこ辺境の街なのでとりあえず王都に向かうことにしたのだが、その道中で姉さんが聞いてきた。
「骨食べる?」
「いらないよ」
ボキッ。
自分の体に手を突っ込んで骨折ってた。
それを手に取って渡してきた。
「いらないって。それより大丈夫なの?そんなことして」
「スケルトンってすごいから直ぐに骨が回復するぞ」
へー。どうやらそんな特性があったらしい。
「これから先旅をするにあたって骨に何ができるんだよバカとか思うかもしれないなら説明しておいた」
まぁ実際のところ俺は思ってたよ。骨に何が出来るんだろうっていうのは。
まぁでも
(この人声も出せれば魔力もあるっぽいんだよな)
昨日のことを思い出した。
普通に魔法使ってたよな。
と、その時だった。
ビリッ!
(パラライズ?ちっ、どこだ……右手が動かない)
どこからか魔法を放たれた。
俺の右腕と姉さんの体を狙っていたようだ。
ビリッと痺れる腕を抑えながら近くの木の影に隠れた。
(常に発動している気配察知にかからなかった、ということは気配遮断?やり手かもな、これ)
「おい?どうした?」
姉さんが聞いてきた。
(この人状態異常が効いてないのか?)
そういえばだが、パラライズの原理は筋肉を麻痺させる、とか聞いた事がある。
そして、スケルトンには筋肉がない。だから効いてないのか?
【気配察知】
敵意を向けられたことではっきりと今度は気配を察知できるようになっていた。
「姉さん。2時の方向にひとり敵がいる。殺してきてくれないか?」
「分かった」
堂々と出ていく姉さん。
「パラライズ!」
声が聞こえたが、姉さんには魔法が効いてない。
(やっぱり。筋肉がないから効いてない)
俺の考え通りだった。
そのとき、男が茂みから出てきた。
「な、なぜ、パラライズが効いていない?!」
「お前!私のかわいい弟にパラライズを撃ったのか?!」
「えっ?!今気付いたのか?!てかなんで俺の魔法が効いてない?!」
「うるさいぞ!私は骨だから麻痺なんて効くわけないだろばか!」
「フリーズ!フリーズ!パラライズ!止まれ!そこのばか女!」
「骨に魔法が効くわけないだろ?!馬鹿はお前だ!」
バキッ。
姉さんが男を殴り飛ばしていた。
(骨つええ)
さっそくめちゃくちゃ役に立ってた姉さんだった。
それから男を始末して姉さんは俺の隠れたところに来てくれた。
「ありがとう。姉さん。俺だけだともう少し手間取ってたよ」
「気にするな。冒険者とは助け合いの心で満ちていなければならない」
俺はそんな言葉を聞きながら男の死体を漁ってみた。
首には骨が突き刺さってた。
骨のナイフでスタブされて死んだらしい。
【呪術師のアクセサリーを手に入れた】
効果:あらゆる状態異常に対する耐性を得る。
状態異常が無効化される。
「ありがたいなこれ」
貰っていこう。
そして、装備した。
これでさっきみたいな急なパラライズも無効化できる。
で、更に男の荷物を漁っているといろいろ見つかった。
その中にはやばい物があった。
【闇ギルドカードを手に入れました】
「闇ギルドカード」
「なに?それ」
聞いてきた姉さんに答える。
「通常のギルドとは違うギルドだよ。人には明かせない過去を持ったヤツらが集まって犯罪ばっかしてる集団。ほんとについてない」
原作でも一悶着あったヤツらだ。
そんなのにいきなり襲われるだなんて付いてないな俺たちは。
「私には肉もついてないからな。幸運なんて肉と一緒に置いてきたからな」
そっか。
幸運まで置いてきちゃったのか。
冗談だろうけど、今は笑えねぇ。
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