第8話 うちの骸骨
ウチの家の裏にある道場には骸骨がいる。
動いて喋る骸骨だ。
いわゆるスケルトンという種族らしい。
普段はモンスターとして出現するものだが、ウチのは敵対意思もなく、普通に話しているし、なんならもっと小さな頃は遊んでくれたほどだ。
一緒にガイコツとちょうちょを追いかけたのを思い出す。
(今にして思えばシュールだな)
ガラッ。
道場の扉を開けるとそこには骸骨がいた。
「おはよう。エース」
声をかけられた。
カタカタカタカタカタ。
骨を鳴らして喋るんだこいつは。
「おはようジョニー」
この骸骨の名前はジョニー。
「エースはなにをしにきた?」
「骸骨師匠に話をしに来ました」
「ほう。なにか言うことでもあるのか?」
ずいっと俺は骸骨師匠に迫って口を開いた。
「世界最強になりたいんです」
ピクリ。
骸骨師匠が反応した。
世界最強という部分だ。
この骸骨師匠もかつて目指していた場所だから思うところがあるんだろう。
「【アルカディア】を統べるつもりなのか」
「はい!」
俺は返事をした。
「大きく出たものだ。私はかつて世界最強になろうと思ったら身体が溶けて骸骨になってしまったからな。ははは」
カタカタ。
笑う度に骨が鳴る。
「骸骨になる覚悟はあるのか?」
「ムクロの騎士になってでも最強を目指しますよ」
男として生まれたのなら叶えてみたいじゃないか。
世界最強ってやつを。
「明日。ここで待つ」
「え?」
今までも話したことはある。
しかしこんな反応をされたのは今回が初めてだった。
「明日の正午もう一度ここへ来い。お前の父親には私から話を通しておこう。旅に出ようとしている男を止められる奴はおらん」
「それは、どういう?」
「卒業試験だ。お前が私のお眼鏡に叶うようであればこの家を出ていくがいい。そして世界を見て回るのだエース」
「い、いいのですか?!」
俺は骸骨師匠に近寄って聞いた。
「うむ。骸骨に二言は無い。他の者がなんと言おうと私がお前をこの家から出してやる。そして夢を叶えてこい」
「はい」
俺はジョニーの真っ黒な眼窩を見た。
そして頭を下げた。
「明日はよろしくお願いします。骸骨師匠」
「だが、お眼鏡に叶わなければこの話はなしだ」
俺は会話をして道場を出ていくことにした。
その前に骸骨師匠は言った。
「父親にはお前からも話しておけよ。エース。親は私以上にお前の身を案じているからだろうな」
俺はその言葉に頷いて部屋を出た。
◇
骸骨師匠と話し込んでいたらかなり時間が経ってしまったようで工房に向かうと既にリッカがアクセサリーを完成させていた。
受け取る。
【神速のアクセサリーを獲得しました】
【素早さが+200されます】
そんな表示を見て俺は満足した。
それからリッカにも声をかける。
「俺はこの街を出ていくつもりだよ」
「いきなりだね」
「そのうち出ようとは考えたんだよ。でさちょうどこのアクセサリーもあるから旅立ちにはちょうどいいと思ったんだ」
そこで、俺はリッカを見た。
「一緒に来てくれないか?」
「わ、私と?」
「専属になってくれるんでしょ?なら君を連れていくよ」
「う、うん。行くよ。どうせ身寄りはないんだし」
リッカはどうやら着いてきてくれるらしい。
俺はそんなリッカに言った。
「その工房はさ魔法工房になってる。縮小もできるから持ち運び対応だよ。どうせ誰も使ってないものだから君にあげるよ」
「あ、ありがとう!」
そう言って俺は所有権をリッカに移した。
ぶっちゃけ邪魔なものだから捨てようかっていう話も出てたくらいだから、これくらいの扱いでいい。
そうして俺は家の方に戻ることにした。
父さんに話そう。全部。
そうして、俺は夕食の席で切り出した。
「父さん。俺、世界に行こうと思う」
ポロッ。
ステーキを食べようとしていた父さんのフォークから肉が落ちた。
ミーシャも母さんも俺を見ていた。
父さんはこう言った。
「本気で言ってるのか?エース」
「はい。本気です」
そう言ってみると父さんは言った。
「道場の骸骨のことは知っているよな?」
「はい」
「あれは私の家族だ。難易度【ナイトメア】を授けられた私の家族だ」
そのことは初耳だった。
だから背中を衝撃がはしった。
今まで暮らしてた骸骨が父さんの家族だったなんて。
兄か弟なんだろうか?
父さんが続けた。
「そしてお前はその【ナイトメア】の上を行く【マストダイ】これから先どうなるか分からんのだぞ?」
「承知の上ですよ」
そう言うと父さんはこう言った。
「ジョニーから聞かされてはいたがほんとに世界に行くなんてな。止めはせんよ。お前の人生だ。好きに生きなさい。だが、何時でも帰ってきていいんだぞ」
父さんはそう言ってくれた。
漫画やアニメのようにくどくどと引き止められることなく、あっさりと許可を出してくれたのだ。
でも内心はいろいろ葛藤とかもあったと思う。
でも俺は世界を見て回りたい。
かつて遊んだゲームの世界を。
こんなちっぽけな街の片隅で終わらせるつもりなんてなかった。
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