第5話 ユグドラシルの家1

ガラガラガラ。


無事に俺たちを載せた馬車は現地に到着した。


馬車を降りるとすぐに屋根が広がっていて雨に濡れずに降りることができた。


そして、門を通ったところに2人の人影。


顔を見ると男と女の子。

親と子供だろう。


女の子の方が口を開く。


「ようこそ。エース様。ユグドラシル家へ。歓迎します」


そう言って手を差し出してきたので手を取って名乗り返す。


「エースです。婚約のお誘いをありがとうございます」


俺がそう言うと後は父親同士が話し始めた。

そうして屋敷へ歩いていくことになった。


屋敷に入るとさっそく高そうなドリンクを貰った。


「この辺りで取れるブラックゴールドの果実を使ったジュースです。とくとお楽しみくださいませ」


そう言われ俺はいっぱい貰った。


「美味しいね」

「ふふふ、そうでしょう。我が家自慢のジュースですので」


俺と女の子はふたりきりにされていた。


婚約の話は親がするそうで、親睦を深めておけということらしい。


女の子がやっと名乗る。


「エース様。私の名はアンリエッタと申します。ぜひともアンリとお呼びください」


そう言われ俺は頷いた。


「では、アンリと」


それからアンリは切り出してきた。


「私が婚約者に求めることはただひとつです。それは聡明さです」

「賢いってことかな」

「はい。その点は突破されていると思うので婚約相手として不満はありませんわ」


ふふふって笑ってきた。


「ですが、追加で求めるものがあります。それは強さです」

「強さ、か」


あんま自信がないんだよな。


俺はワンパンされてぶっ飛ばされる様なやつだからな。


強いとは程遠いかもしれない。


それからアンリはこう続けた。


「そういえば、【人喰い狼】の話を聞いたことはございますか?」

「人喰い狼?」


俺は首を傾げてその場にジュースを置いた。


「えぇ、なんでも人を食べてしまうらしいですわよ」

「それは怖いね」

「ですが、その人喰い狼を倒せるような方なら相手に不足は無いのですが」


アンリがそう言った時だった。


近くで控えていた騎士が口を開いた。


「お嬢様。あれは子供の手に追えるようなものではありません」

「ですから討伐を求めてはいけません」


どうやらその人喰い狼ってのを俺が倒せるわけが無いと思っているらしい。


まぁ俺も不要な戦いはやる気がないけど。


とにかくレベルリセットのリスクといろいろなものが釣り合っていなさすぎる。


でもここで話題を出したってことは


(内心では倒して欲しいと思ってるんだろうなぁ)


ってことを考えてちょっと複雑な気になる。


もっとわかりやすいチートを持ってれば倒しても良かったんだけど。


そう思ってたら騎士が口を開いた。


「お嬢様変わりと言ってはなんですが、エース様と私共で手合わせという形で催しをさせていただきましょうか?」


そう言われてアンリは少し楽しそうな表情を作った。


「それはいいですわね」


それで俺を見てきて言った。


「家の裏に道場があります。そこでこの騎士と手合わせしていただけませんか?エース様。私にあなたの強さを見せてはいただけませんか?」


そう言われて俺は頷いた。


「模擬戦でいいのならやってもいいよ」


俺がそう言うと騎士は言った。


「では、こちらへエース様」


道場に移ると俺と騎士は模擬刀を手に持って向かい合っていた。


「私は当てませんがエース様は存分に当てて下さって結構ですよ」


と言ってくる騎士。


どうやら子供が相手ということで手は抜いてくれるらしい。


その優しさに感謝することにしよう。


「そちらのタイミングではじめて下さいエース様」


そう言われて俺はフッと消えた。


そして次の瞬間騎士の背後を取っていて、木刀を首に突きつける。


ぷにっ。

先端が首に当たってた。


「なっ……なんだこの速さは」


驚いているらしい騎士。

騎士に聞いてみる。


「今のレベルは?」

「35ですが」


と答えてくる騎士。


「そんなんじゃ俺には追いつけない」


俺がそう言うとアンリは歓声をあげて近寄ってきた。


「まさか、エース様がこんなに強い方だったなんて」


俺に近寄ってきて俺の両手を取ってきたアンリ。


「さすがエース様。私の婚約者としてこれ以上はない相手でございます。あなたと婚約できるのが嬉しく思います」


ニッコリ笑ってそう言ってくるアンリ。


「そもそも俺との婚約は決まってるの?まだ話してる最中だと思うけど」

「もう決まっておりますよ。というより私はあなたの写真を見た時点で決めておりましたから。この人しかいない、と」


どうやら彼女は既に決めていたらしいな。


そんやことを話していた時だった。


プルルルルルルルル。


騎士の人の魔石が震えてた。


ちなみにこの世界で電話の役割を果たす鉱石だ。


「なんだ?」


騎士が操作すると石から声が聞こえる。


「【人喰い狼】が出ました。この屋敷へ向かってきているようです」

「なぜピンポイントにこの屋敷へ?」

「女の子が助けを求めてこの屋敷に来ているからです!」

「追い返せ!お嬢様も危険な目に合わせるつもりか!」


そう言っている騎士だったがアンリは言った。


「いえ、迎え入れなさい。お父様もそう言うつもりです」


騎士は指示を出していた。


それから俺も口を開く。


「討伐するというのなら俺も手伝おう」

「で、ですが【人喰い狼】の攻撃力は凄まじいですよ?我々のような屈強な男でも一撃で……」

「どのみち一撃だから攻撃力なんていくらあっても変わらないよ」


俺はそう言って本物の剣を構えた。


「久しぶりだな。この感じ」


あー。ほんとうに


実戦というのは久しぶりだ。


早く、やり合いたい。


俺がどれだけ強くなったのか、試させてくれよ。

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