第3話俺だけのレベリング
俺は考えていた。
「カブトムシに突撃されて倒れたってことは俺はカブトムシに敵として認識されてる?」
おそらくそうだと思うんだよな。
で、逆もたぶんそう。
「俺はカブトムシを敵として認識してると思う。ってことはだ」
俺は庭の隅っこで巣を作ってたアリに目を落とした。
「もしかしてアリを敵と認識したりしてないかな?今の俺は」
カブトムシが敵になるならアリだって敵になりそうだ。
なにより、今の俺は難易度マストダイ。
どんな攻撃も致命傷になる。
例えばそれこそアリの噛みつき攻撃を食らっても致命傷になるはずだ。
かと言ってこんな小さな生き物を踏み潰すのは正直言って忍びない。
そう思っていたら声をかけられた。
父さんの声。
「エースそんなところで何やってるんだ?」
そう言って俺の横に並んだ。
そして俺と同じものに目をやった。
「アリか」
「うん」
俺がそう言うと父さんは手に持っていたスプレーを俺に渡してきた。
「このアリ全滅させておいてくれないか?」
「え?」
「ほら、そこにリンゴの木があるだろ?」
父さんは庭にあったリンゴの木を指さした。
それとこの巣穴は近い。
「このアリ達がな、木をダメにしてしまうんだよ。それでいつか駆除しようとしてたんだけど、お前に頼んでもいいか?」
スっ。
俺にスプレーを渡してきた。
「アリたちには悪いんだが木をだめにされるとこっちも困る。心を鬼にして、頼めないか?」
そう言われて俺は頷いた。
「うん。分かったやっておくよ」
父さんはよろしくって言って家の中に帰って行った。
俺はスプレーを構えてスイッチを押した。
プシューーっ。
スプレーが吹きでてモンスターを殺していく。
そのときだ。
【経験値を獲得しました】
【レベルが上がりました。レベル1→レベル2】
何匹か倒したらそんな表示が出てきた。
「やっぱり……俺の難易度はアリすらも敵として認識してるんだ」
だからアリを倒せば倒した分だけ経験値が入るってわけか。
このことを理解したら吹っ切るのは時間の問題だった。
「殺そう。根絶やしだ。俺の経験値になってくれ」
俺はスプレーが出る先端をアリの巣に突っ込んで、そのままスプレーを発射した。
【アリの巣を破壊しました】
表示が出てきた。
【全滅ボーナスを差し上げます】
【レベルが上がりました。レベル2→4】
そんな表示が見えて俺は叫んだ。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!レベルが上がった!!!!!!」
それから次の表示が出てきた。
【アビリティを獲得しました】
【たえる】
アビリティ
名前:たえる
説明:HPが0になる攻撃を受けてもHP1で耐えることができる。
AP:2
その表示を見てさらに叫ぶ。
「ウォォォォォォオォォオ!!!!これだ!!!!」
今の俺に最も必要なものが手に入ったと思う。
ほぼ全ての攻撃でワンパンされてしまう俺にはこういう戦闘継続系のアビリティは本当にありがたかった。
俺は早速アビリティセットオプションを開いて【たえる】を装備した。
「よし、これでカブトムシに突進されても一回は生き残れるぞ」
マスダイを遊ぶにあたっていちばん怖かったのが、こういう唐突に来るダメージだった。
それを一度なかったことにできるのは本当にでかい!
それから俺は庭を見回した。
「他にも巣はないんだろうか」
さっきまで悪く思っていたがレベルがちゃんと上がることを確認できたら俺は非情になっていた。
まぁでも当たり前の話だけどな。
俺たちは今生きるか死ぬかのシビアな世界にいるんだから、経験値になる行動は全部やらなきゃいけない。
「偽善なんて捨ててやるよ」
俺はそう呟いて庭を探して回ることにした。
結局この日はあと二個ほどアリの巣が見つかってスプレーで壊滅させた。
そして、俺のレベルはなんと10まであがったのだった!
素晴らしい快挙だ!
難易度:マストダイなことを考えるとほんとうに素晴らしい一歩だ!
ルンルン気分で今日は家に帰った。
しばらく待っているとミーシャが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
俺はちょうど玄関のあたりにいたから出迎えてやると顔を下に向けてた。
「ごめんなさい。兄さん私だけイージーモードで楽をしてしまって」
そんなことをまだ気にしてるらしい。
あんまり気にされると俺も困るんだよな。
「あんま気にしなくていいって。それより聞いてくれよ俺今日レベル10まであがったよ」
そう言うとミーシャは自分の事のように喜んでた。
「ほんとにですか?!」
「うん。だから気にしなくていいよ」
俺がそう言うとミーシャは報告してきた。
「私もレベル20まで上がったよ!」
「すごいじゃないか!」
「うん!ありがとう!兄さん今度一緒にレベルアップに行かない?」
そう聞かれて俺は考えた。
(ワンパン貰えばここまでの努力が水の泡なんだよな)
ってことで俺は首を横に振った。
「ごめん。まだ俺じゃ足引っ張ると思う。だからさもう少し先になるかな」
俺がそう言うとミーシャは頷いた。
「うん。兄さんのワンパンがどれだけ重いかは私も分かってるし気長に行こ?」
笑顔でそう言ってくれるミーシャ。
俺はこの時思った。
本当にいい妹を持ったなって。
こうやって支えてくれる妹がいてくれるのは本当に心強かった。
この日から俺の心を鬼にした本格的なレベリングは始まることとなっていった。
ゲーム世界なせいで後半のレベリングはよりきつくなっていた。
でも俺はアリを倒すことでレベルが上がる。
そう思ったらアリ倒しにも熱が入っていった。
雨の日も風の日も……。
俺は心を鬼にして弱いものをいじめて、レベルを上げた。
そして……一年が過ぎ去ろうとしていたのだった。
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