第37話 リリウオカラニ(ハワイ王国:在位1891.1.29~1893.1.17)

 今回は初の太平洋地域。ハワイ王国最後の王にして唯一の女王、リリウオカラニをご紹介します。


 リリウオカラニ女王というと、今日こんにちでもなお多くの人々に親しまれているハワイアン楽曲「アロハ・オエ」の作詞作曲者として、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

 これについてはおいおい語っていくとして、まずはハワイ王国の概要と、リリウオカラニの生い立ちについて説明するとしましょう。


 ハワイ王国を建国したのは、名前は非常に有名なので皆様ご存じかと思います。カメハメハ一世、通称カメハメハ大王(1758?~1819)です。

 彼はハワイ島の首長の一族で、欧米諸国から軍事顧問を雇い入れて銃火器を導入し、ハワイ諸島の統一を果たす一方、欧米諸国との友好的な関係を維持しながら、ハワイの伝統的文化も守っていきました。

 また、彼が定めた「ママラホエ」と呼ばれる法律には、戦時下における非戦闘員の人権保護に関する規定なども盛り込まれており、これは当時の世界を見渡しても、かなり先駆的なものでした。


 それにしても、「かめはめは」で変換しようとすると、真っ先に「かめはめ波」って出て来るのはどういうことだ? そんなの入力した覚えはないんだが(笑)。


 カメハメハ一世の死後、息子であるカメハメハ三世(二世の弟:1813~1854)が憲法を制定し、西洋的な立憲君主制国家を目指します。

 しかし、これは欧米から入植してきて砂糖のプランテーション経営で財を成したいわゆる「砂糖貴族」たちの権利ばかりを保護することにもつながってしまいます。

 また、アメリカ合衆国の太平洋展開に伴い、ハワイ諸島の戦略的重要性も増していく中で、ハワイ先住民による王権の強化を目指す「王政派」と、砂糖貴族を中心とした民主化――といえば聞こえはいいですが、実際には米国への併合――を目指す「共和派」との対立が深まっていきました。


 そのような状況下で、リリウオカラニは1838年9月2日にホノルルで生まれました。

 父は、カメハメハ大王の側近をルーツとするカラカウア家のカパアケア(1815~1866)。母は、同じ一族の出身のケオホカロレ(1816~1869)。

 つまり、カメハメハ王家の直系ではないのですが、遠縁には当たり、また、当時のハワイ王国には首長間で互いに養子を交換する習慣もあって、彼女も大王の孫の養子となります。


 4歳になると、「首長子弟学校」と名付けられたローヤル・スクールに入学し、英語や西洋の学問、それに音楽なども学びました。

 幼少期から好奇心旺盛でお転婆だった彼女は、学業のかたわら、ハワイ諸島の島々を巡り、数々の史跡や雄大な自然を見て回ることを好んだと言われています。


 そして、1862年にはアメリカ出身のジョン=オーウェン=ドミニス(1832~1891)という男性と結婚します。

 ただ、残念ながら二人の間には子供は生まれませんでした。また、姑との関係もなかなかしっくりいかなかったようです。


 1872年末、第五代ハワイ王カメハメハ五世(1830~1872)が独身のまま跡継ぎを残さず他界。傍系からルナリロ(1835~1874)という人物が即位しますが、この人も在位わずか1年ちょっとで、肺結核のため他界してしまいます。


 そこで国王を選出する選挙が実施され、当選したのが、リリウオカラニの兄のディヴィッド=カラカウア(1836~1891)でした。

 実を言うと、カラカウアはその前の選挙にも出馬していたのですが、その時はルナリオに敗れています。


 第七代ハワイ王となったカラカウアは、アメリカの圧力をはねのけてハワイの独立を守るべく、諸外国との外交に奔走。1881年からは各国を歴訪し、日本を訪れた最初の外国国家元首となります。

 この時、カラカウアは明治天皇に面会し、リリウオカラニの下の妹の娘・カイウラニ(1875~1899)と東伏見宮ひがしふしみのみや依仁よりひと親王しんのう(1867~1922)との縁談を提案します。残念ながらこの話はまとまらなかったのですが、もう一つの提案、日本からハワイへの移民の要請については受け入れられ、多くの日本人がハワイ諸島へ入植することとなりました。


 なお、この外遊の間、王妹であるリリウオカラニが摂政として国政を任されていました。

 この時ちょうど、国外から持ち込まれた天然痘が流行しており、彼女は港の封鎖、感染者の隔離などの措置によって、感染の抑え込みに成功します。

 その後も彼女は、慈善活動や福祉の充実に強い関心を持ち、精力的な活動を展開しました。


 カラカウアは、アメリカをはじめとする西洋列強に対抗するため、ポリネシア諸国による連合の構想も抱いていたのですが、権利を制限されることを嫌った白人入植者たちは、クーデターを画策します。


 1887年、英国女王ヴィクトリアの在位50周年式典が催され、リリウオカラニは王妃と共に国王の名代みょうだいとして訪英します。しかし、この機に共和派が蜂起。カラカウア王は、国王の権限を大幅に制限し、富裕な白人入植者たちの権利を保護する新憲法、通称「銃剣憲法」への署名を余儀なくされます。


 これ以降、アルコール依存症に陥ってしまったカラカウアは、療養のため渡米しますが、サンフランシスコ滞在中に客死。妹リリウオカラニが女王として即位します。


 ハワイの独立と伝統文化の維持のため奔走するも志半ばで倒れたカラカウア。しかし彼は、在位中から「メリー・モナーク(陽気な君主)」と呼ばれて国民から親しまれ、当時キリスト教宣教師により禁じられていたハワイの伝統芸能「フラ」を復活させるなどの功績を残して、今なおハワイの人々から愛されています。


 さて、女王となったリリウオカラニは、共和派との対決姿勢を強めます。

「王政派」、「共和派」と言うと、何だか印象が違ってしまいますが、実際には、ハワイの独立維持を目指す一派と、米国への併合を目論む一派です。


 新女王のもと、より国王の権限を強化し、ハワイ先住民の権利を保護する新憲法の策定が進められますが、新憲法草案は閣議で否決されてしまいます。

 両派の対立が深まる中、危機感を強めた共和派は、米国公使ジョン=リービット=スティーブンス(1820~1895)の要請により米国海兵隊を引き入れ、クーデターを起こします。

 1893年1月16日、海兵隊が王宮を包囲。翌17日には共和派が政庁舎を占拠し、王政廃止と臨時政府樹立を宣言。いわゆる「ハワイ革命」により、リリウオカラニは退位を余儀なくされます。


 西洋列強の何ヶ国かが臨時政府を承認する一方で、日本はハワイの独立派を支持し、邦人保護の名目のもと、軍艦を派遣するなどして、このクーデターに不快の意を表明します。


 このクーデターについては米国内でも意見は割れ、スティーブンス公使は更迭されて調査団が派遣されますが、臨時政府はこれを拒否。結局、共和派支持の報告書が米国議会に提出されることとなります。


 王政派による反対集会などが繰り広げられる中、1984年7月4日、臨時政府はサンフォード=バラード=ドール(1844~1926)を大統領とするハワイ共和国の独立宣言を公布します。

 まあ、明らかにアメリカの独立記念日と合わせていますし、完全にアメリカへの併合の布石で、「独立宣言」が聞いて呆れますが。


 年は明けて1895年1月6日、王政派が武装蜂起し、数日間の銃撃戦が展開されるも、新政府軍により鎮圧。1月16日には、リリウオカラニの私邸、あるいはイオラニ宮殿の庭からたくさんの銃器が見つかったとされ、リリウオカラニは反乱の首謀者の嫌疑を掛けられ逮捕。イオラニ宮殿に幽閉されてしまいます。

 まあ、でっちあげと見て間違いないでしょう。

 1月22日には、リリウオカラニは反乱で捕らえられた人々の生命と引き換えに、形の上だけ存続していた女王の廃位を受け入れる文書への署名を強いられます。ここに、ハワイ王国は滅亡したのでした。


 その後、1898年にはハワイ共和国はアメリカ合衆国に併合され、ハワイ準州となります。まあ既定路線ですね。


 リリウオカラニは、反乱に加担した罪で有罪判決を受けるも、ほどなくして釈放され、元女王としてハワイの人々から敬愛され続けました。



 最初に書いたとおり、リリウオカラニは音楽をはじめとする芸術の素養にも恵まれた人で、特に有名な作品が、ハワイアンの代表曲「アロハ・オエ」です。題名は「我が愛をあなたに」、あるいは「さようなら」という意味です。

 曲については既存のメロディーの流用とも言われていますが、詞は1877年の自筆メモも残されており、女王の自作であることが裏付けられています。


 譜面の発売は1895年で、ミリオンセラーとなり、ハワイアンの古典様式を確立した名曲とされています。


 滅びゆくハワイ王国への惜別の思いが込められている、といった見方がされることもありますが、リリウオカラニ本人はシンプルな恋歌と考えていたようで、葬儀の場で別離の曲として用いられることについても、本人が驚いたと言われています。


 1919年11月11日、リリウオカラニは79歳で逝去。ハワイ王国はなくなっても、女王が作った歌は、今なお多くの人々に歌い継がれています。



 次回も島国つながり。インドネシアマジャパヒト王国のトリブワナ女王を取り上げます。乞うご期待!

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