第5話 クリスティーナ(スウェーデン・ヴァーサ朝:在位1632.11.6~1654.7.6)
今回ご紹介するのは、スウェーデンの女王クリスティーナ。幼少時に女王に立てられながら、若くして自ら女王の座を放棄し、心の赴くままに生きた女性です。
彼女は1626年12月8日、ヴァーサ朝スウェーデン王国第六代国王・グスタフ二世アドルフ(1594~1632)の娘として生まれます。
グスタフ二世アドルフ、グスタフ=アドルフとも呼ばれる彼女の父王は、国内の政治・軍事等の体制を変革し、ポーランドに侵攻して苦戦しながらも最終的には勝利を収め、またリトアニア・ラトビアを支配下に置くなど、バルト海に覇を唱えて「北方の獅子王」の異名を取った人物です。
しかしながら、ドイツの三十年戦争に介入し、1632年のリュッツェンの戦いにおいて戦死してしまいます(ただし、戦いそのものはスウェーデンが勝利)。
そして、父の死によりクリスティーナはわずか6歳で即位することとなります。
元々、父からは早い時期から後継者に指名されており、乗馬や射撃などの教育も受けさせられ、彼女自身もそういった方面に興味と才能を示してきました。そして、当初は宰相の補佐を受けていたものの、三十年戦争およびスウェーデン・デンマーク間のトルステンソン戦争が終結した1644年頃からは親政を開始します。
この当時、スウェーデンは
カトリックとプロテスタントと言うと、後者が前者の改革運動の中から生まれたという経緯、それに日本語で「旧教」、「新教」と書くこともあって、カトリック=保守的、プロテスタント=革新的というイメージをお持ちではないでしょうか。
白状すると、私自身そういうイメージを抱いていた時期もあったのですが、ことはそう単純ではありません。ローマ教会の支配から脱してイエス=キリストの教えの根本に立ち返る、という理念は、確かに
実際、現在もなおアメリカなどでダーウィンの進化論を真っ向から否定している
少々話が逸れてしまいました。この当時のスウェーデンの状況に戻りますと、スウェーデン政府は王権の絶対化とプロテスタンティズムの強化を掲げており、クリスティーナと思想面・政策面で対立が深まっていました。また、彼女自身プロテスタントが肌に合わないとの思いもあったようです。
そのような状況下で、彼女はついに退位を決意します。意志を固めたのは二十歳の頃と言われていますが、「国際法の父」とも言われるオランダの法学者・フーゴー=グローティウス(1583~1645)や近代哲学の祖であるフランスの哲学者・ルネ=デカルト(1596~1650)といった知識人たちを宮廷に招いて親交を深めつつ、退位の計画を練ります。
もっとも、この時クリスティーナはデカルトに心酔するあまり、当時としては高齢の彼に早朝からの講義をさせるなど無理をさせて、風邪をこじらせて肺炎で亡くなってしまう原因となったりもしているのですが。
そして、1654年。クリスティーナ27歳の時に、
退位の翌年、1655年には、オーストリアのインスブルックでカトリックに改宗。同年12月にローマへ到着、その地に居を定めます。そして、フランス・ドイツ・スウェーデンなどを周遊する一方、学問・芸術・文学の研究に勤しむ日々を送ります。
と、このまま終わっていれば、若くして女王の座を捨てて自由に生きた女性の生涯、ということになるのですが。というか、私自身、当初はクリスティーナにそういうイメージを抱いていたのですが……。
彼女は、人によっては「迷走」と受け取られても仕方のないような行動に出ます。
1660年、彼女が譲位したカール十世がデンマークとの戦争において
しかし、すでにカトリックに改宗していた彼女がスウェーデン政府に受け入れられるはずもなく、結局彼女は王位継承権を早々に放棄することとなります。
その後、1668年には、ポーランド国王ヤン二世(1609~1672)――この人もヴァーサ家の出身です――が退位するや、ポーランド王国の国王自由選挙に名乗りを上げるも、これも支持を得られず。さらに、ナポリ王国の王位継承にも介入するも、これも失敗。そうして、ようやく1668年からはローマに落ち着き、前述の通り学問・芸術・文学の日々を送って、1689年4月19日にその地で没します。
彼女の一連の行動を、カトリックとプロテスタントの融和という理想のためにはやはり王位に就く必要があると考えてのことと解釈するか、それとも、一度は王位を捨てた元女王様の気まぐれと見るかによって、その評価は大きく分かれることでしょう。
私自身の感想を正直に言わせてもらうなら、「あんた一体何がしたかったの?」感が否めないのですが。
ただまあ、そういった歴史上の評価はひとまず
主人公に
主人公が滞在する町で悠々自適の日々を送る知的でミステリアスな女性。実は王位を捨てて他国で
さて、次回はいよいよ日本代表。
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