11 月下の騒動 其の一
「
祝宴で挨拶したのを覚えている。
「月鈴様… 月が綺麗なので、帰り道遠回りして散歩をしていたところ、瘴気が辺り一面に充満したかと思ったら妖獣が現れて突然襲われてしまい…」
なるほど、この辺り一帯に妖のにおいが残っている。
呼吸も浅く顔面蒼白、とても具合が悪そうだ。
確か宴の夜に騒ぎがあった時、宮廷内に妖獣が出るようだと
「起きられますか? とりあえず
「すみません、このような所でご迷惑を…」
紫釉はそういうと、意識が薄れていくのかぐったりと目を瞑った。
(あぁもう、公主の立場ともあろうに自ら呼びに行ってしまった、女官たちに言い伝えれば良かったのに! お姫様キャラが全然イタについてないじゃん!)
やがて、何事かと女官がわらわらと集まってきた。
「
「すみません、門の外で彼がお倒れになっていて、どうやら妖に襲われたらしいのです。ちょっと玄関を借りますよ。何かあったら危ないので皆さんは奥に入っていてください! あと、月鈴様が医官を呼びに医局に向かわれてしまったのでどなたか後を…」
「かしこまりました!」
そう言うと女官たちはばたばたと行ってしまい、二人きりになった。
紫釉は、朦朧としつつ少し薄目を開く。
「… 月鈴様の婿殿ですか…」
「
「何故か、それは貴方に用があったからですよ」
「… わたくしに?」
「中々に花繚宮からお出にならない、と伺っておりましたので、さてどうしたものかと思念しておりましてね… 出てきてくださって助かりました」
紫釉は、懐から魔瘴石を取り出した。
そこから瘴気が吹き出し、石に封印されている妖獣が現れる。
祝宴の夜に現れた奴と同じような妖だ。
「お前を殺せば、今度は
「!?!」
では、あの祝宴の時も狙われていたのは月鈴ではなく麗孝という事になる。
だとすると、月鈴の件とは全く関係が無いのだろう。
どうやら妖獣が封印されている魔瘴石は、花繚宮の結界を抜けられるらしい。これは危険物だ。
『ガウゥウウ!!!』
妖獣は
すんでの所で避けたが、鋭い爪で左腕を深く引っ掻かれて血が飛び散る。
「痛った…!!」
「貴方さえ現れなければ、幼い頃より懇意にしていた僕と一緒になろうとしていたのだ、貴方さえ!」
「いやいやいやそんな事言われても知らないですって!!!」
月鈴が紫釉と、本当のところはどういう関係で仲だったのか知るよしもないけれど、酷いとばっちりだ。
(あぁ本当、後宮に来て早々こんな事に巻き込まれるなんてツイて無さすぎる! もう最悪!)
妖獣が怯む。
その隙に、戻ってきた
「大丈夫ですか! いったん簡易で結界を張りますわね」
「結!」
再び襲いかかってくる虎の妖獣が結界に触れた瞬間、バチバチと火花が飛び、火傷を負ったような状態となった。さすがは「火」の家系の術。
どうやら縄が張られた中には入って来られないようだ。
手負いの妖獣は暴走して、瘴石を手に持つ紫釉の方に襲いかかった。
「危ない!!」
紫釉が喉を噛み切られようとして後ろに避けたものの、勢いよく壁に頭を酷く打ちつけてしまった。頭に血が滲み溢れる。
「… 動かない… か。何とか退治できたかしらね。急ぎ陰陽師の
気を失ったまま、頭から流れる血が壁を伝い、血溜まりが出来ている。
「今回は例の件とは関係ないな。にしても、夜分遅くて医官のジジ… じゃない、爺様が捕まらない。女官が引き続き呼びに行ってもらっているが… それに、月鈴がこいつをどう思っていたか知る由もないけれど…」
「とにかく紫釉様が酷く頭を打って意識が飛んじゃってる、何とかしなきゃ…」
「お前だって左腕をやられて怪我してんだろうが、ちょっとは自分の心配…」
「私の弟も、小さい時に妖にやられて体を悪くしたの。同じようにやられている人を放っておけない!」
「おるあぁぁ! うぎぎ、重っっ!!! 蔵に運びますっ、近くて助かる!」
「えぇ?! 何で蔵… 俺が担ぐ…」
「可憐な姫君が男性を担いでるとか人目に付くとバツが悪いんですから、
「いや、ちょ、でも、わぁ… たくまし…」
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