04 月鈴と星塵
「腰ほっそいなー」
そう言うと手を離し、月鈴は
「ふぅん、見た目はまぁいいじゃん、結構中性的で魅力的だぜ? あんた」
「恐れ入ります、ではなくて… えっと…」
(おいおいおい、まさか
「あとさ、謁見の間で礼をした時、手の所作が逆だったよな。詰めが甘いな」
しまった、と香麗は顔に出してしまう。拱手は男女で男性は左手で右手を包むようにするが、女性は逆の所作となるのだ。
そう言うと、月鈴は
「うぃー、さっぱり! お姫様ごっこは飽きた!」
「月鈴… 様」
「あんた、女だろ」
「!!! 何でわかっ… あっ」
思わず香麗は頷きそうになり、口を抑えた。
月鈴は上に羽織っている上の服を脱いで薄着になり、こちらを振り返った。
「最初に言っておくが、俺は男だ、姫じゃねぇ」
胸に入れていた大層な綿の詰め物を出した。
女装している時と変わらず、美しい青年が現れる。
「俺の名は
「!!! ど、どどういう事ですか?! じ、じ女装がご趣味でいらっしゃるので??」
「なわけあるか! どういう事ですが、じゃねぇよ」
突然の事に頭が追いつかない。
そもそも陛下のお子が双子だったなんて聞いたのも初めてだ。
詰め寄られ、香麗はどん、と壁に背中をつけられてしまった。
「お前、王室を騙すような真似してこんな事が知れたら確実に死罪だ、わかってんのか?!」
己の簪の尖った方を、首筋に当てられる。
ひやりとした銀の冷たさが肌を伝う。
「だ、だだって選ばれるなんか微塵も想像していなかったんだも、ですもん!」
「何でわたくしだと言ったな。小柄で力も弱そうな方が御しやすいと思って選んだが、むしろ女で好都合。
扉の外に向かって声をかけた。
屈強な武官が入ってきて礼をした。謁見の間からここに連れてきたのもこの人だった。
「急ぎ子豪にあんたの家に行って素性を調べさせた。楊香麗、ここに来る筈だった
「うぎぎ、そ、そうです…」
「若様、弟君はお体がお強くない故、外には出ておられませんし家柄的に謀反や力を持ったとてどうこうしようなどという気配も全くない安全健全な家柄でございました。いったん婚約する旨は宮廷内にしか知らされないので、一般の民草には、一年後、正式に婚儀が行われるまで伏せてあります。暫くご実家が騒がれる事もないでしょう」
子豪は手短に伝えた。
口数は多くないが、デキる武官なのだろう。
もうだめだ、速攻この場で殺されちゃうのかしら。
ごめんね父様、母様、麗孝。
最期の晩餐に美味しい食事を頂けて良かったわ。(冷えてたけど)
そう覚悟を決めて、下を向いて目を瞑った。
「こちらとて、色々都合があってこんな格好で妹の身代わりをしてるのよ。こっち来な」
そう言うと、月鈴、ではなく星塵は奥の衝立を避けた。
ドアがあり、中に入る。窓のない小部屋になっているが、しっかりと明かりが灯っていた。
中央にある
促され、帷を上げて覗き込むと、星塵と同じつくりの顔をした女子だった。
「双子の妹、本物の月鈴だ。誰かに呪いの込められた毒を飲まされたうえ、瘴気にやられて一ヶ月前から眠ったままのね」
「瘴気、呪い…」
「俺がこんな格好して月鈴のフリをして儀式に出ているのも、こうなっている事を世間に悟らせない為だ。無論、母… 陛下も承知の上だ、あイって!」
誰かが後ろから星塵の頭をはたいた。
「さっきから女性になんて存際な物言いをしているの! 月鈴はそんな口調で喋らないわよ」
「母上!」
「へ、陛下!!!」
香麗は急いで深々と礼をした。皇帝ではなく普段のいでたちをした陽明天は、とても十七になる子がいるとは思えない位、普通に美しく若い女性に見える。
「香麗殿と言ったかしら。突然ごめんなさい、星塵の言う通りなのです。この
どうやらこの国の女帝は、妖や邪なる者を遮り、神聖な場を作るとされる結界術を使える、という噂は本当のようだ。
「そんな… それに双子だなんて初めて聞いたのですけれど…」
「世間には全く公表していません。色々訳があり、月鈴の双子である我が息子星塵は別の場所で育てられてきました。そして月鈴の身代わりとして此処にいる事を知っているのは私と一部の医官、月鈴の乳母でもある侍女頭の
では後はよろしく頼むわね、と言い残して陛下は行ってしまった。
静かに扉を閉めると衝立を戻し、月鈴の部屋に戻った。
「秘密を知った以上、絶対帰すわけにはいかないよな」
星塵は不敵な顔をして、香麗を見る。
「…口止めに殺すっていうんですか。わたしはどうなってもかまいません、お願いです、家族は関係無いんです、わたしが勝手に来ただけなんです、どうか…」
「まぁ待てよ」
「あっ、でも拷問とか怖いです、やるならひとおもいにグサッとお願いじまず…」
「落ち着けって、鼻出てんぞ」
取り乱す香麗を椅子に座らせると、星塵は思いもかけない提案を口にした。
「暫くこのまま、王宮で何事もなかったように暮らせ」
「それは… あなたが月鈴様に成り代わり、わたしがその婿の婚約者としての関係を続けよ、という事ですか?」
「物分かりいいじゃん。あ、あとあんまり
ぐっと顔を近づけた。
芍薬の美しい花にはとんでもない毒があったようだ。
「あんたが気に入った。弟の為に乗り込むとか根性あんじゃん。女だてら馬にも乗れる、読み書きも申し分ない」
「そう、ですけど…」
「楊香麗、協力しろよ。妹に毒を盛って呪いをかけた者を暴きたい」
「終わったら帰してもらえるんでしょうね」
「あぁ、約束する。それまであんたは俺の婚約者だ――」
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