1話 序章 地獄までの夢 2

 「かわいそうに。」

 「しかし、どうするんだ?…誰かが引き取るのか?」

 「此方は無理だぞ。」

 「此方も、そうだ。」

 やがて、話は二転三転していき、

 「あの婆さん、他に親類は居ないのか?」

 「旦那さんは居ない様だったな。…でも娘夫婦は居た筈じゃないのか?」

 「夫婦揃って前から、行方知れずだよ。」

 「村に孤児院は無いぞ。…どうするんだ?」

 と全員が口々に言う。一向に解決する気配すらなく、面倒を押し付けているようだ。

 すると彼らの側に、真っ黒なコートに帽子を身に纏う男が歩いてくる。片足が悪いのか杖を突いていた。

 コツコツと石畳を突く音が鳴らしている。

 さらに黒いスーツ姿の男達も、横に列をなしながら、後を付いてきている。皆揃って柄が悪い見た目だった。

 僕は気がつくと、袖口で涙を拭いながら、男達の顔を怪訝そうに見渡す。

 真っ黒いコートと帽子の男は初老程の年齢だ。白髪で痩けた頬が特徴的だ。さらに鋭い目付きで睨み付けてくる。

 黒い服装が余計に怖さを助長させていた。

 「なんだ、あいつらは?」「さぁ?」

 村人達も互いに顔を見合せ、囁く様に会話をしている。

 (まるで死神のようだ。…)

 と僕は思い、後ずさる。

 初老の男は、迷わず此方にやってきて、

 「この餓鬼は、私が引き取ろう。」

 と静かに言い、僕の手を引いて再び歩きだす。

 村人達は圧倒され、黙ったまま成り行きを見ているだけだった。

 そのまま僕は着の身着のまま、馬車に乗せられ、村を出ていく事になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る