第36話 日常

「ねぇマリル…これがマリルの欲しかった物なの?」


「違うわ」


「だけど、皆に認めて貰いたかったのでしょう?」


「確かにそうだけど…」


「ならば、これで良かったの…かな…」


「違うわ」


今の私には戸惑いがある。


私は『劣等感』が凄く強い。


セレスに会う前の私は、1番に家族、そして次に他の人に認めて貰いたかったんだと思う。


だけど…今の状態は絶対に私が望んだ状況じゃないわ


私にはどうして良いか解らない。


どうして、こうなっちゃったのかな...


流石のセレスでも、どうしようもないわよね。



◆◆帝国の首都ボンゴウム◆◆◆


「マリエッタちゃん、今日はオーガかい? なかなか凄い活躍だね」


「うん…まぁね」


「旦那さんのセイルさんも美形で羨ましいわ」


「うん、自慢の旦那なの」


セレスは本当に凄いわね。


まさか『楽しくないなら、一からやり直せば良いんです』


そう言ってくれるとは思わなかったわ。


お金は全部降ろして、セレスの収納魔法でストレージに入れてある。


「今日はね、良い魚が入ったのよ、お刺身でも食べられるよ」


「それじゃ貰おうかな? マリエッタも夕飯はお刺身で良い?」


「うん、凄く楽しみ」


「それじゃ、それ、下さい」


「あいよ」



二人なら一生どころか…何回生まれ変わっても使いきれない程の充分なお金が今はあるわ。


それに、今の私はもう無力な女の子じゃない。


だから…すべてを放りだして逃げだしたのよ。


マリルという名前、セレスという名前を捨てて…マリエッタとセイルになったの。


この世界には『魔王』はいない。


それなら『勇者』も『賢者』も要らないわよね。


きっと私たちはもう….その肩書きを名乗る事は無いと思うわ。



◆◆◆


「マリエッタは何がしたい?」


「そうね…今は普通に暮らしたいわ」


「そうだね…それじゃ『普通』に暮らそうか…ところで普通ってどうすればよいのかな?」


「私も解らないわ」


「まぁゆっくり考えれば良いんじゃない?」



「そうね」


時間は沢山あるし生活にも困らないんだから、ゆっくりすれば良いよね。


◆◆◆


「まさか…ここ帝都に四天王の一人マーモンが責めてくるなんて」


「おしまいだ…魔王よりも強いという彼奴がくるなんて」


「逃げるしかない、マーモンには誰も敵わない」


「まさか帝王様と剣聖様の留守にくるなんて…」


「たった一人に帝国は滅ぼされるのか」


「終わりだ」


なんだか、騒がしいな。


「何かあったのかしら?」


「さぁ…行ってみようか?」


「うん」


なんだ…酔っ払い? 山賊?


そんな感じの男が暴れているわね。


魚屋のおじさんの屋台や串焼き屋の屋台がひっくり返されているわ。


「ひどいわね」


八百屋のおばさんと娘さんが逃げ遅れ暴力を振るわれそうになっていた。


兵隊もなぜか怯えて助けないわ、何故よ!


いつも、サービスしてくれているし、仲良くしてくれているから『酔っ払いの馬鹿』から助ける位良いわよね。


「お前、なにやっているの? 人に迷惑かけちゃ駄目よ!」


「逃げて…お姉ちゃん」


「貴方達だけでも逃げて!」


「おばちゃん大丈夫よ…私たちはこれでもDランク冒険者なんだから」


「駄目―――っ」


「我こそは四天王の一人…」


「煩い黙りなさい!…憲兵に突き出してあげるから、牢屋で頭を冷やすと良いわ」


「ぐふっ…やるな」


此奴、変人にしては強いのかしら?


これで倒せないなんて…


まぁ、本当に危なかったらセレスが助けに入る筈だし...弱いのね。



「今度はこちらから行くぞ、剛腕の…」


「もういい加減に寝てなさいよ、しつこいわね!」


「ぐふっ、貴様」


『凄い、あのマーモンと互角にやりあっているなんて…』


『何者なんだ…』


「此奴は…」


「そいつは魔族の四天」


そうか…魔族なのか…だけど、まぁこの力じゃ雑魚だわね。


うん、弱いわね。


魔族なら…倒さないと不味いよね!


「貴様…殺してやる」


「剣技…オリハルコン斬り」


「うがぁぁぁぁー―――っ」


この程度で真っ二つなんて『やっぱり雑魚』だったわね。


「おばちゃん、娘さん怪我無い? 大丈夫?」


「はい」


「お姉ちゃんありがとう」


「どう致しまして、それじゃセレス…帰ろうか?」


「そうだね…帰ろう」


雑魚魔族も倒したし…明日からも普通に暮らせるといいな。



FIN




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