第33話 閑話:ジョイ

「良いですか? 何よりも敬う、そういう気持ちが大切なのですよ? 良いですか…さぁハイ!」


「「「「「「「「「「「人間で一番偉いのは、セレス様です! その次に偉いのはマリル様…他の人間は虫けらです!」」」」」」」」」」」


俺の名前はジョイ。


馬鹿なパルドール家の長男アントニーに騙されて勇者様と賢者様に決闘を挑んでしまった。


何故、あの時俺は加担してしまったのだろうか?


ドラゴンズレイヤーの称号が羨ましかったから?


自分たちなら勝てる…そんな馬鹿な事を考えたから?


今思い出しても…相手は人間ではない。


女神に愛される人間…その凄さが解らなかった。


だけど、知らなかったんだ…


まさか…相手が賢者様だったなんて。


アントニーの馬鹿野郎が『出来損ない』なんて言いやがって…


どうしてくれるんだ…俺の母さんは『勇者絶対主義者』なんだ。


親父だって母さん程じゃないが少しは弱いが『勇者崇拝主義者』だ。


ばれたら…「そこに直れ」と言われて殺されるかもしれない。



運が良かったのか、悪かったのか解らない。


下手したらあの場で処刑されても仕方が無かった。


だが…首謀者のパレドール家の人間が死刑で無いのに死刑は納得できなかった。


だから、貴族の権利で裁判をしようとしたら…裁判にならず、聖教国の大司教の一声でこうなった。


修道院という名の更生施設で過ごしている。


最早俺には帰る家も無い。



家に帰ることも出来ない俺は『徹底的に勇者絶対主義』を前面に出すことにした。


俺は『勇者崇拝主義』の父から聞いた事がある。


『絶対主義』と『崇拝主義』の違い。


絶対主義は勇者たちは聖なる存在。


そう考えるのに対し崇拝主義は、勇者を兵器と考える事だ。


『勇者とは魔王すら倒せる最強の兵器なのだ…だから逆らってはいけない』


そういう考えが主だった。


「勇者様こそがこの世のすべてです。他の人間は全てを捧げるのは当たり前です」


「勇者様や賢者様の命に比べれば1万の命ですら軽いのです」


それを自分から言い出した。


パレドール家の者や他の収監者にひかれていたが…


「ジョイはクラン家の者だったのか? だったら同士じゃないか?」


「はい」


「ならば、なんでこんな事を?」


「実は…」


俺はマリル様が賢者だった事を知らなかった事をはじめ、全部話した。


「そうか…確かにあのタイミングじゃわからないな…それで」


「残りの人生はセレス様やマリル様の為に使おうと思います」


「よくぞ、言った」


◆◆◆


暫くしたら、両親から手紙が届いた。


何でもセレス様やマリル様の家の近くで良い家が売り出されたから買ったそうだ…それで俺も一緒に住もうという誘いだ。


その事を司祭様に相談したら。


「ジョイ…君はここにきて見違えるようになりました。他の者とは違い、もう同志と言えるレベルです…よろしい、この修道院を出ることを認めます….あとは…」


「この身を持って生涯、セレス様やマリル様への忠誠を誓います」


「宜しい、同志ジョイ、行きなさい」


こうして俺は、穏やかな生活を取り戻し…


いや、勇者様達の為に生きる、最高の幸せを手に入れた。




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