第31話 学園長失脚


『この無能!お前のせいで貴重な『賢者』を教会に取られてしまった、どうしてくれるんだ! アカデミーは貴重な人材が欲しいからこそ学園を運営しているのだ!』


『マリル様の成績が低い? 嘘を申すな、簡単に王城を半壊させる魔法使いをお前のせいで聖教国に取られた…責任を取れ』


私の人生は…終わってしまった。


アカデミーと国から此処迄責められたら終わりだ。


◆◆◆


私の名はモグリード。


魔法学園の学園長をしています。


若い頃から教職を目指し…幾人もの優秀な生徒を育てあげ…長い年月の末…ここ王立魔法学園の学園長までのぼりつきました。


研究職としてならいざ知らず、教職者としてなら、これ以上の地位はありません。


貧乏だった私がよくぞ此処迄…自分でも信じられません。


ですが…その為には、人知れず努力をしてきたのです。


その結果が…


「モグリード、お前は解任だ…今までご苦労さん…無能め」


「納得いきません、私は今まで教育一筋に生きてきました。そしてあと少しで退職…」


「あのさぁ…マリル様は賢者と剣聖のジョブ持ちだ…剣聖を見抜けなかったのは仕方がない。専門分野じゃないからな。だが『魔法』に関しては我々はプロだ。アカデミー出身で学園長までなったお前が見抜けなかった…これは大きな失態だ」


確かに私や教師はマリルを色眼鏡で見ていた。


だが、それは彼らが考えている物とは違う。


『逆なのだ』 本来なら発火の魔法すら使えぬ落ちこぼれ等、間髪入れずに退学だ。


だが、彼女は侯爵令嬢。


それゆえに実家から学費が払われなくなるまで在籍させて置いたのだ。


そのマリルが賢者のジョブ持ちで王城を半壊させた…にわかに信じられない。


「ですが、マリルはジョブ検査の判定でも『無能』と判断が出た」


「はんっ! 言葉に気をつけよ、マリル様だ! 教皇様ですら敬う方を呼びつける等、お前は何様だ! その鑑定した司教はいま、その資格を奪われ国外追放されているよ」


私は教職者だ…もし1の才能しか無い生徒が居たとしても2や3に才能を伸ばし、当人が努力するなら5にだってしてあげられる。


だが…ゼロはゼロだ。


魔法すら真面に発動しないゼロの人間に魔法を教える事は出来ない。


幾ら座学が完璧でも…この才だけはどうすることも出来ない。


「ですが、その後も魔法が真面に発動しなかったですし、バルドール侯爵家からも、幼いころから才能が無かった、そう聞いております」


「それはお前たちの指導不足じゃないのか?『賢者』程の才能を見逃した…この事実は変わらんよ」


「そんな…それで私はどうなるのでしょうか?」


「お前はクビだ。最後の情けでクリフ王は慰謝料の請求はしないそうだ…退職金は無しで良いそうだ」


「そんな…そんな事されたら、私や家族は」


「あの…よく考えろ! 王に嫌われ、アカデミーから嫌われ、教会からも嫌われる、お前達がこの国で生活など出来るわけがなかろう? これは私とお前の仲だから特別に教えてやる『早くこの国から出ろ』」


「なぜだ…」


「良いか、あの教皇は『勇者絶対主義者』なんだぞ…もし、お前たちがマリル様を迫害していたと知ったら処刑しかねないんだ…まだ何も起こらないうちに教員全員退職して、マリル様を馬鹿にしていた生徒と一緒に国を出る事だ…良いか、帝国も聖教国も駄目だ…その先にまで最低逃げろ」


そこまでしないと駄目なのか?


マリルを馬鹿にしていた…そういうなら学園の生徒の殆どが該当するやもしれん。


「そこ迄しないとならんのか?」


「正直解らない…だがアカデミー長官も王から直に怒られ機嫌が悪い…教会はセレス様とマリル様を『教皇様』以上の聖人として扱う触書を出す可能性があるという噂だ…念には念を入れた方が良い」


「解った…済まない」


「まぁ…気を落とすな」


それから数日のうちに魔法学園の教師の大半と生徒の半数以上が辞めて…国から出て行った。



その行動が正しかったかどうかは…この先解る事だろう。


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