第28話 準聖剣

「へぇ~、アール殿はその剣を頂いたのですか…良かったですね~」


ああっマルロー大司教が、凄く嫌な目で見ている。


気持ちが解るから、どうして良いか解らない。


俺たちは『勇者絶対主義者』だ。


自分の命以上に『勇者』を大切に思っている。


この建物の中には声を掛けられるだけで感極まる、そんな人ばかりしか居ない。


その状態で…俺が勇者様から手料理を貰って、剣迄貰ってしまった。


「はい、勇者セレス様は素晴らしい方で、ご相談に乗ったら、お食事にこの剣を頂いたのです」


「そうですか…ですが勇者様から頂いたのであれば『鑑定』位はするべきです…どうれ…えっこれは…『準聖剣 クラソニア』なななっ」





【準聖剣 クラソニア】


聖剣クラソスとほぼ同じ工程で作られた剣。

女神の祝福が込められていない代わりに魔法が込められており、聖杖の力が一部使える。

刀身そのものは鍛冶の熟練度の高いドワーフが鍛えた物を優に超えミスリル以下の剣は切断可能となる『斬鉄』『斬岩』のスキルが組み込まれている。

所有者:アール


※アール以外が使うとその能力は使えない。


「準聖剣…?」


「この剣は教会にある、聖剣を除き、恐らくはこの世界で有数の剣です。聖剣が勇者様しか使えないのに対してこの剣は…アール、貴方しか使えない…こんな物を打てる様な存在は伝説の『鍛冶の勇者様』しか居ない…アール…セレス様は『鍛冶の勇者様』だったのだ…その渾身の一振り…その剣は国宝を超える名剣ですよ」


そんな、そこ迄の物だとは知らなかった。


「そんな物を頂いたとは…私は生涯セレス様に忠誠を」


「はんっ、そんなのは当たり前だろうがっ 勇者様の手料理?それだけでも羨ましいのに、教皇様や私を差し置いて、そんな素晴らしい物を貰うなんて…そんな剣、聖騎士団総隊長ですら持っていません…魔剣じゃない準聖剣なんですよ…それこそ、その剣に見合う位強くないないと行けませんね? それ…どう見ても友情の証しにしか見えませんから」


「ははははっ、当たり前じゃないですか? 死ぬ気で頑張るに決まってます」


「そうですか…それじゃ本当に死ぬ気で頑張って下さい」



此処迄信用されたからには…死ぬ気で頑張るしかないだろう。



◆◆◆


「そういえば、私が閉じこもっていた時、だれか来ていたみたいね」


「アールさんという聖騎士に相談に貰っていたんだ」


「そうなの? それでお礼はしたの?」


「うん、まぁ大したもんじゃないけど…余りに酷い剣を下げていたから剣を作って贈ったんだ」


「凄いわね、剣まで作れるんだ」


「まぁ、錬金で5分で作った簡単な物だよ…まぁ少しは気合を入れたけどね」


「そうなのね…それなら私もセレスに杖か剣を作って貰おうかな?」


「それなら1か月いや3か月は欲しいな」


「なんで、5分で作れるんでしょう?」


「マリルの為に作るなら、ちゃんと魂込めてしっかり作るから」


「解ったわ、楽しみにしているわ」



マリルに頼まれたら本気で作るしかないな。



マドローネと守護と癒しのルビー


「そういえば、セレスこの肉はどうしたの?」


沢山の肉を頂いたんだった。


思い出した…マドローネさんという女性から頂いたんだった。


「そう言えば、このお肉貰ったんだ」


「そう、このお肉凄く上等なお肉よ? ちゃんとお礼はしたの?」


「そういえばしていないな…した方が良い?」


「お返し位はした方が良いわ」


「そう…なら、何か作ろうかな?」


相手は女性だし…指輪は特殊だと聞いたことがある。


だったらペンダントが良いかな。


「へぇ~作るんだ…見せて貰っても良い?」


「別に構わないけど…大して面白くないよ」


「それでも見たいわ」


それじゃ何を作ろうかな?


思い浮かべるのはペンダントで…イメージはそうだな…ダイヤはマリルの物を作るイメージと被るからルビーが良いか…


教会関係者だから…癒しを少しだけプラス。


あと、魔法耐性を少しつけて…


「錬金」


これで完成…


「ふぅ…できた」


「セレス…今、何をしたの?」


マリルは何を言っているのだろうか?


ただ『錬金』をしただけなのに。


「錬金だけど…何かおかしいのかな?」


「セレス…錬金って言うのは、何か対価を払って物質を代える事よ…例えば、石を金に変えるとか…それでも小さな小指の先位の金が作れる人すら…今は居ないのよ? それセレスは…何から、そのネックレスを作ったの?」


錬金の基礎じゃないか?


「空中に漂っている元素を固定させて」


「解らないわ…解りやすく」


「簡単に言えば、空気から物を作りだすんだ…流石に無から有は作れないよ…最も僕は出来損ないだから自分以上の質量を作るのは難しいし、作るのに数分の時間がかかるよ。伝説の女勇者は一瞬で鎧も作れたらしいし、無限に空気から宝石や金を作れたらしいです…まぁ出来損ないの僕じゃ『剣』や『鎧』その位の大きさが限界です。ダイヤみたいに難しい物だとせいぜいが頭位の大きさの物しか作れない」



「あの…セレス常識を覚えよう…ねえ..それ、考えようによっては世界一の金持ちという事じゃない…例えば王様の王冠とか」


「あんなおもちゃみたいな物、簡単に…」


「まぁ良いわ…セレスだもんね、もう驚かないわ」


「マリル? なんで遠い目をしているいのかな?」


「何でもないわ…」


何で驚くのか、理解できない。


こんなおもちゃ作るのは『錬金』の基礎なのに…



◆◆◆


「マドローネさん、この間はお肉ありがとうございました。美味しく頂きました」


「いえ、勇者様に喜んで頂けたなら、それだけで私は嬉しいんです」


「そうですか? でも折角お返しの品を作ってきたので貰って下さい」


作った? 


これは凄いわ…勇者様の手作り品なんて、家宝だわ。


「ありがとうございます…えっそんな、こんな大きなルビーのネックレス頂けませんわ」


嘘ですよね…このネックレスに使われているルビー…教皇様のより大きい。


こんなルビー幾らするか解りません。


「これは僕の気持ちです、気にしないで受け取ってください」


「そこ迄言われるなら頂きます…ありがとうございます」


よく考えたら手作り品です。


イミテーションに決まってますね。


それでも『勇者絶対主義』の私には宝物です。


お母さまもお父様もきっと羨ましがるでしょう。


「見たぞ…マドローネ、お前迄そんな…勇者様から頂いたのか?私も教皇様もまだ、一緒に食事もしていないのに」


「マルロー大司教様…お肉のお返しに頂いちゃいました。無理したかいがありましたわ…おかげで今月は貧乏生活です」


「それでも羨ましい…勇者様から貰ったのだろう」


「流石に本物のルビーじゃないと思います…ですが私にとっては」


「それは誰もが同じじゃないか、勇者様から貰った、それに価値があるのです」


「解っていますよ」


「セレス様だが、鍛冶の勇者かもしれぬ、そのネックレス鑑定させてくれ」


「解りました」


「鑑定」


【守護と癒しのルビー】


ハイヒール 30回分の魔力が込められており、このルビーの持ち主

は当人の魔力に関係なく1日30回ハイヒールが使える。

これは宝石の力の為、自分の分の魔力は一切消費されない。


このネックレスの持ち主は危機が訪れた時に1日1回30分に限り、あらゆる魔法や攻撃を防ぐことが出来る。その防御力はドラゴンブレスにも耐える事が可能。


持ち主:マドローネ

※持ち主以外にはその効力は発揮できない。



「あの…これ」


「どう考えても教皇様のルビー処じゃないな…しいて言うなら魔石のルビー…こんな物世界に二つと無い」


「我が家の家宝にします…セレス様の為なら…私死ねます」

「ハァ~そんなのは我が派閥じゃ当たり前じゃないですか…」


「そうですね…あははははっ」


知らないうちにセレスは人を引き付けていく。



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