第27話 聖騎士アールとセレスの剣
一体、何が起きているのか解らない。
「すみません、セレス様、今度こちらに引っ越してきました、マドローネと申します、どうぞ宜しくお願い致します…これお近づきの印です。A5ランクのミノタウルスのお肉です、マリル様とお食べ下さい」
何が起きているのか解らない。
このアパートメントが司祭やシスターで埋め尽くされていた。
今まで住んでいた人は居なくなり…ほぼ全部が教会関係者しかいない。
同じ10階にある部屋の傍には金色の鎧の騎士が立っていた。
僕の勘違いで無ければ、あれは聖騎士の中でも選ばれたエリートしか着れない特殊な鎧だ。
誰が住んでいるのかは解る。
ロマーニ教皇だ。
僕が傍を通るといきなり敬礼された。
しかも剣を捧げるようなポーズ。
「これは一体、なんでしょうか?」
「これは、これはセレス様、我らが崇める至高の勇者様…これは聖騎士の最高の敬意の敬礼でございます。それで、何か御用でしょうか?」
「いや、特には無いけど…気のせいかこの建物が急に教会関係者で埋め尽くされた気がするんだけど」
「それは当たり前でございます。この建物には教会が女神様の次に崇める、至高の恩方様が2名も居ますので…教会で全ての部屋を買い上げました」
そうか…だから、教会の関係者しか居ないのか。
「それって、僕が居ない間はマリルを守ってくれる…そういう事かな?」
「その通りでございます…何時でも我々は貴方様お二人を守り致します。それが使命でございます」
「そう、ありがとう」
まぁ役には立たないだろうけど…居ないよりはましだな。
マリルはどうも、危うい所があるからな。
まぁ良いや。
「あのさぁ…マリルがこの間の決闘から塞ぎ込んでいて真面に食事をとらないんだ…1人で飯食うと美味しくないから一緒に飯食わない?」
「わ、私めがでございますか?」
「ああっ、無理にとは言わないですが…」
「喜んでお相手させて頂きます」
よく考えたら、僕はマリル以外に話す相手は少ない。
肉を焼いて、スープとパンの簡単な食事を用意した。
「そんな、勇者様に支度をさせるなど..」
「良いから座って…何時も僕が作るんだから、気にしないで」
「はい」
聖騎士とはいえ教会関係者、話が凄く上手くて聞き上手だ。
気が付くと僕は彼に色々と相談していた。
「君と話せて良かった、良ければ名前を教えてくれるかい?」
「はっ、私はアールと申します」
「アールさん…覚えた、もし上手く行ったら、今度お礼させて貰うね」
「そんな、当たり前の事を申しただけです」
「そう? 解った」
「それでは失礼させて貰います」
◆◆◆
「なぁマリル、落ち込んでいるのは解る…だから僕は此処にいる事にするね…なにか話したい事や僕が必要になったら呼んで欲しい」
僕は廃棄された人間だ…だから人生経験が少ない。
色々な知識はあるが…それは自分が経験した事じゃない。
だからこそ、こういう時にどうして良いか解らない。
人の心が心の底からは解らない。
凄く心配なのにどうして良いか解らないんだ。
『そういう時は、傍に居てあげるだけで良いんですよ…あとは相手が話し始めたら話を聞いてあげれば良いんです』
そう、アールさんが言っていた。
だから、僕はそれだけ伝えるとドアの傍に座っていた。
暫く待っていたら…ドアが開いた。
「よく考えたら、泣く必要は無いわね」
そういうマリルの顔は眼が腫れていた。
「そう?」
「ええっ、子供の頃の事から考えたのよ…小さいときからお母様も、兄さんに姉さんも私の事を馬鹿にしていて可愛がって貰った記憶が無いのよ…何時も姉さんや兄さんばかり、食事すら家族とは別に食べていたのよね。お父様はまぁ普通に接してくれたけど、それでも他の三人が優先だったわ」
「そうなんだ」
「うん、だから私、心の中で『認めて貰う』より『見返してやる』そういう気持ちの方が強かったみたい! セレスのおかげで吹っ切れたわ」
そういうマリルの声はまだ元気が無い。
「それなら良かった」
「それで、皆はどうなったの?」
「教皇様に頼んだ」
僕は此処迄の経緯をマリルに話した。
「そう、命は助かるのね? それなら良いわ…まぁ産んで貰った恩と育てて貰った恩があるから…うん、考えるのは良くないわ…忘れるわ」
「それが良いのかな?ごめん、僕は家族とかよくわからない」
「セレス? 何を言っているの? 貴方は今の私の一番大切な家族じゃない?」
そうか…僕がもしマリルにあんな事されたら…きっと悲しくなる。
「そう、それなら…解る」
「あ~あ、お腹すいたわ」
「それじゃ肉があるから焼こうか?」
「お願い」
まだ、悲しそうな顔を少ししているけど…うんきっともう大丈夫だ。
◆◆◆
「アールさん、昨日はありがとう」
「セレス様、それで何か進展はありましたか?」
「お陰様で」
勇者様の為になったのなら、これ以上の幸せはありません。
良かった…今日は昨日と違い笑顔だ。
「それでね、お礼なんだけど、君は騎士だから、剣を作ってみたんだ」
けけ…剣? 作った? 何故?
「剣ですか?」
「そう…流石に僕じゃ『聖剣』は作れないから魔剣になるんだけどね…昔、勇者が使っていたクラソスを模してみたんだ。オリハルコンやミスリルは斬れないけど、鉄や岩なら何とか斬れる。あと、杖も兼ねているから、君に魔力があれば…ほらこんな風に魔法を纏って斬ることも出来る…それに君しか使えない様に魔法で所有者を刻んだ」
私はそんな事が出来る『魔剣』なんて知らない。
クラソスは最上級の聖剣…岩や鉄が斬れるなら、それは、普通の聖剣に限りなく近い…そんな物を作れる人間は伝説の『鍛冶の勇者』しか知らない。
確か、かの人物は、聖剣が無い時代に自ら聖剣を打って戦ったという話だ。
だが…剣を作った事が何故私のお礼になるのだ。
「あの勇者様、それでその剣…」
「アール、君の剣だ…柄に作者として僕の名前を入れたよ…まぁ下手なりに手作り品でお礼がしたかったんだ…はい」
「ああああっありがとう…ございます」
涙が出そうになり、手が震えてきた。
何故なら…多分この剣は国宝処でない。
小城並みの価値はある。
勇者が作った『聖剣に近い剣』
こんな物を貰ってしまってはタダでさえ『勇者命』の私が…生涯の忠誠を誓わない訳が無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます