第23話 パルドールの最後?

「さて、パルドールとそこの者達、この責任をどうとるというのだ?」


もう終わった。


『侯爵』もつけなければ、名前も呼ばず『そこの者』最早なにも取り繕う事は出来ない。


もう死ぬしかない。


この決闘が始まる時から覚悟はしていた。


『私はもう死ぬしかないのだ』と。


もし、アントニー達が勝ったとしたら、マリルは大罪人…実力も無いのに騙して栄誉をかすめ取ろうとした娘となる。


幾ら追い出した娘だとしても忍びない。


『命乞い』には私の命が必要だ。



逆にマリルが勝ったら『栄誉ある祝典をつぶし、王や他の貴族の面目を潰した』


その責任は私にある。


最初から『私の命は無くなる』それは解っていた。


あの時の家族の様子から…何を言っても無駄というのは解っていた。


こうなった時の覚悟はできている。


「パルドールの家名、家督はすべてマリルに譲る、領地、資産は金貨1枚に至る迄、全て今回の責として国に支払う…そして我ら4名は、今回の責として『即刻貴族として名誉ある死』を、これでも足りないのは解っておりますが、何代もの間仕えてきた忠誠に免じ、これでお許し下さい」


「待ってくれ父上…俺は死にたくない」


「嫌だよ…私は死にたくないよお父様~」


「そんな、せめて子供たちだけでも…」


「見苦しいぞ…お前たちは負けたんだ! 卑怯な事迄して負けたんだ! 王や他の貴族の前で恥を上塗りするな!」


「待て、私はそこ迄望んでない…流石に命までとろうと思わぬ…」


「そこまでの事ではないと思う…領地を売り払い、弁償、それでおさまるはずだ」


「クリフ王にマルスン宰相…それでは、今私が差し出した物から3名の命だけ返して頂こう…」


「待て…」


「死んでお詫びする…目の前を血で汚す事、お許し下さい…ごめん」


「待ちたまえ!」


「お前は、ギルダー伯爵!」


駄目か、邪魔が入った。


本当の意味でおしまいだ。


「貴殿は勘違いしておる。決闘で負けた者の命をどうするかは勝者が決める、アントニーの命とシャルの命をどうするか決めて良いのはマリル殿だ。更に宮廷騎士団36名に戦闘魔法メイジ18名も生殺与奪の権はマリル殿にある…衛兵よ何故動かぬ、アントニーとシャル、それに加担したもの全てを拘束して捕縛せよ! その後の賠償は、話し合いだが…貴公が思っている程安くはない」


「「「「「はっ」」」」」


やはり、間に合わなかったか。


「ギルダー、それは余りに厳しすぎるのではないか?」


「なぜそう思うのだ」


「騙されてはなりません。王宮が壊れた…それはそれで大変ですが、肝心な事を忘れております」


「私が何を忘れたというのだ!」


「王宮の壊れた部分の中には宝物庫がございます。私の勘違いでなければ、エリクシャールをはじめとする国宝級の代替えの聞かぬ宝が恐らく無数破損しているはずです。 果たしてそれらの貴重な品の弁済がいかに侯爵とはいえ領地を手放すだけで足りるのでしょうか?」



「確かにクリフ王…言われてみれば、パルドール全部と交換でも全然足りませぬな」


「そういう事になるのか…ハァ、どうしたものか?」


馬鹿な息子に娘だ、マリルが魔法を放ったあの瞬間から、最早我らはスラムの住民以下になってしまったのだ。


あのまま『すぐに死を受け入れる』それが唯一の救いだった。


そうすれば、ギロチンで楽に死ねただろう。


だが、救いはある。


「いえ、そうはなりませぬ、息子と娘は今すぐ処刑すべきです」


「そんな父上、私を見捨てるというのですか?」


「そんな、お父様」


「その権利は、お前にはない…そういう話ではないか?」


「それは違います。彼らは決闘で負けました。その際に巻き込んで教皇様、帝王様を殺しています。その責は勝者のマリルに求めるのは間違っております…ならば王族に手を掛けたその責は息子と娘にある。即刻死刑が妥当かと」


「…どうしたものか? マルスン何か良い方法はないか?」


「他国の来賓の方は出て行ってしまわれました、直ぐに使いの者を行かせ、数日この国に滞在して貰えるよう頼みました。 正直この話は大きすぎます、幸いここには、この国の大半の権力者がおります、この後会議をされるのが宜しいかと思います」


「それしかあるまい…パルドール侯爵、すまぬが話が終わる迄牢屋に繋がせて貰う…話はその後だ」


「解りました」


「「「…」」」


もう私にはどうする事も出来ない。

さっさと『4人して死んで、領地で償えばそれが一番良い方法だった』


宝物庫やマリルの権利や他国の王を殺してしまった。


その現実に気づかれる前に『済ませたかった』


その状態でパルドールの名前をマリルに渡せば、パルドールの名だけは残った。


つまり『家』は残せたのだ…


だが、もうそれも終わりだ…


もう、何も残せない、ただ汚名を残し…この後の人生は『死よりつらくなる』


今楽に死ぬ…それが最良の選択だった。


「お父上」


「お父様」


「あなた…」


「意地汚く、生にしがみつきおって、潔さも知らぬのか? 『死ねなかった』その辛さをかみしめて生きなさい。私も同じだ」


もう私にできることは無い。


パルドールは恐らく名前も残らず終わりだ。


裁きに従うそれ以外にもう私たちに出来ることは無い。




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